PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

豪快な航路

機内誌の地図を見ても気がつきにくいのですが、よく考えると大胆というか豪快な航路がいくつもあります。長距離、長時間になり、各会社にとって存在感を示す格好の航路ですが、それ以上に特別な意味がありそうです。これらは、技術の進歩や政治体制の変化で可能になった経路が多く、航空会社は夢が現実となった瞬間を覚えているからです。こうした路線の便名が象徴的な数字を持つことが多いのは、偶然の一致ではないと思います。

 

さて全く個人的な感覚でそんな航路(定期航路のみ)を選んで見ました。

 

(1) 北極航路

冷戦期にはアンカレッジ経由の東京ー欧州便で馴染み深かった路線です。SASが1950年代に開拓しました。90年以降は民間旅客機がロシア上空も飛べるようになり、日本人の意識から遠ざかってしまいました。現在は中国、香港と北米東海岸を結ぶ飛行機が毎日何便も北極上空を飛んでいます。北極点近くを通る便には、

CX841 JFK発HKG行

があります。これはキャセイ・パシフィックの最長路線です。逆経路のCX840は気流を利用するため、低緯度を飛ぶことも多いようです。CX841は10時ごろJFK出発、14時ごろHKG到着ですが、夏場は時差13時間。一度日付が変わる白夜フライトになります。一方、冬期は必ず極夜フライトになるはずです。

 中東-北米西海岸の便も堂々と北極を通過します。例えば、

EK215 DXB発LAX行

9時ごろ発、14時ごろ着で、昼間のフライトになりそうなものですが、冬は必ず極夜を通るはずです。

 

(2) 長距離ノンストップ便

数字ではっきり示されるので、航空会社が世界一長距離の定期便を持ちたがることは想像に難くありません。現在最長のノンストップ航路は

QF7 SYD-DFW 

で8,500マイル以上あります。世界地図で見ても遠そうです。

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現在747-400ERで運行、そのうちA380-800になる予定です。

 実は2004年から2013年11月まで、狂ったのかとも思われるようなノンストップ長距離航路が存在しました。それはシンガポール航空のニューヨーク-シンガポール直行便

SQ21 EWR-SIN

で9,500マイル以上ありました。A340で18時間50分かけての運行。その当時の機内誌から航路図を。

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何やらSQが威信をかけて運行しているような経路で、マーケットを無視した感があります。というのもすでに西回りFRA経由でシンガポール-ニューヨーク便があったからです。(今もある)

SQ26  SIN-FRA-JFK

その当時SQは、ほとんど世界一周を実現していたのでした。「ほとんど」と言うのは、東周りでEWR、西回りでJFKとニューヨークで空港が異なっていたからです。世界一周航路が現れるのにアメリカが良い顔をしなかったのか、SQが気を配ったのかのどちらかでしょう。EWR-JFK間をタクシーでつなげば、残りはサロンケバヤと一緒に世界一周なんて、冗談みたいな話です。EWR発JFK行(SIN経由)などという航空券を発券した人もいたでしょう。このような便では、客室乗務員に相当の長時間勤務を強いることになります。休憩はあっても疲労は蓄積するはずで、保安上問題があります。実需が伴わない場合には、開設する価値は低いでしょうね。SQはノンストップ便に関して方向転換したようで、EWR便を止めると共に、SIN-LAX便(SQ11, SQ12)もノンストップからNRT経由にしました。NRTで乗務員交替です。

 

(3) 南北航路

地球を南北垂直に一気に移動すると、時差はなく季節が逆転するという不思議な体験ができますが、派手な航路はあまりありません。そもそも南半球の中高緯度には、北半球に就航する便を持つ都市が少ないためです。そんな中探してみると、アムステルダムケープタウン間が86°16'の緯度差になり、最大の南北移動のようです。

KL597 AMS-CPT,  KL598 CPT-AMS

ですが、前者は朝出て夜着くフライト、後者は夜出て朝着くフライトです。時差は1時間です。下の地図の赤線で示しましたが、経度差はほとんどありません。

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三大航空連合が定期便を就航させる空港で、最北の空港はSASが就航するスヴァールバル空港(LYR, 78°14'N)、最南はアルゼンチン航空などが就航するウシュアイア国際空港(USH, 54°50'S)です。緯度の差は133°、距離は9,800マイルにもなります。もちろんノンストップの定期便はありません。上の地図で青線で示しました。両者とも観光地と秘境との境界のようです。乗り継いで、北から南まで一気に行ってみたいところです。便の接続などから片道1週間程度見ておく必要がありますが、スヴァールバル諸島はよく知られるように、ビザ無しで労働可、居住自由なので、リタイアして時間が余っている方ならむしろやりやすいのではないかと思います。実施する季節の選択には少し悩みそうです。

 次はBAのLHR-CPT便(緯度差85°25')かと思いきや、ニュージーランド航空

NZ83: YVR-AKL,  NZ84: AKL-YVR

が緯度差85°62'となり、世界第2位でした。ほとんど海の上を飛びます。

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これは太平洋横断便としても際立っています。

 

(4) 太平洋横断航路

今や日本人にはありふれた経路になっていますが、50年以上前、それが可能になった時は夢のような出来事だっただろうと想像できます。今でもJALの1便と2便は東京-サンフランシスコ便です。地図の上では大陸の東端。その先は大洋が広がり、6,000マイルもの先に新大陸という絶好の条件なので、太平洋横断は今でも特別な航路でしょう。数が多く区別する理由も乏しいのですが、JALの歴史に敬意を払ってJL2便(HND-SFO)を挙げておきます。

 

他の地域間の横断便として、先ほどのNZ83とNZ84を加えたいところです。赤道周辺の太平洋横断があれば、劇的なフライトになるでしょう。しかし、例えばインドネシアからエクアドルまで直行すれば、10,000マイル以上にもなり、現在の航空機の仕様ではノンストップ便は不可能です。一方もう少し性能と需要が上がれば、日本-ペルー便ぐらいは可能でしょうか。将来に期待したいところです。

 

(5)  南極航路

北極と異なり、南極を派手に横断する航路はありません。南極大陸をかすめる程度の航路はあります。シドニーから南米(サンチャゴ)と南アフリカヨハネスブルグ)を結ぶ便で

QF27 SYD-SCL,  QF28 SCL-SYD

QF63 SYD-JNB,  QF64 JNB-SYD

です。前者は南太平洋横断、後者は南インド洋横断で、「世界でもっとも人が立ち入った経験が少ない海域」が広がっています。そういう意味でもなかなか豪快な航路です。

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地図では直線ですが、実際にはかなり高緯度を飛行します。もしAKL-JNB便やAKL-CPT便あるいはPER-EZE便やPER-SCL便ができれば、堂々たる南極大陸横断航路になりそうですが、実現しそうな気配はありません。

 

(6) 大陸横断

いくつかある大陸横断の中で圧倒的な印象を与えるのは、ユーラシア横断です。現代の日本人にはあまり特別なフライトではないのですが、ソ連崩壊後可能になった航路で、開設当時はそれなりに印象深いものがあったはずです。旧世界の東端と西端をノンストップで結ぶ路線は、今でも航空会社の顔になりえます。東端のハブと西端のハブ、東京とロンドンをつなぐ便こそ代表にふさわしいと思います。

BA5 LHR-NRT,  BA6 NRT-LHR,  BA7 LHR-HND,  BA8 HND-LHR

JL43 HND-LHR,  JL44 LHR-HND

NH277 HND-LHR,  NH278 LHR-HND

VS900 LHR-NRT,  VS901 NRT-LHR

毎日5便あります。十分混雑しています。

 ロンドン便だけではありませんが、欧州発東京着便は多くが高緯度を飛行するため、6, 7月は白夜便となります。

 

地図マニア的な探索をしてしまいました。見つかった航路は、日本在住者にはあまりにも普通か、あまりにも時間がかかる旅行になることに気がつきました。航空会社のイメージを形成するような航路は、そういうものなのかも知れません。