PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

フランスの地方都市におけるエールフランスの存在感

Air France(AF)グループの国内線をめぐる環境は、長年に渡り、厳しさを増しているように見えます。TGV網の整備、LCCの台頭はもとより、他のメジャーキャリアとの競争の激化も無視できません。フランス国内の三都市、Lyon、Marseille、Strasbourgでその状況を考えてみます。

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(1)Lyon

フランス第二の都市はLyonとMarseilleです。都市人口と都市圏人口のどちらを取るかで順位が変わる程度の差しかありません。首都であり最大の都市であるParisとの間の人の移動は当然高密度です。直線距離で、Paris-Lyonは410 km(260 miles)、Paris-Marseilleは660 km(410 miles)離れています。à prioriには航空機を使うか、鉄道を使うかという選択が問題になる距離です。

 

フランス国鉄SNCFTGVの路線網を広げており、Parisから見た時、LyonもMarseilleも重要な目的地です。前者へはほぼ平原を進むことが可能で、高速鉄道の恩恵を直接受けます。

 

ParisーLyon便は、かつては陸路とは比較できなかったはずです。陸路は陸路で存在していたと思うのですが、今ではLyon Saint-Exupéry空港(LYS)にもTGVの駅が併設され、空と陸の連携が図られています。(駅は建築物として世界的に有名。)面白いことに、

CDG駅(空港駅)とLyon Part-Dieu駅(市内の中心駅)間

Paris Lyon駅(市内の中心駅の一つ)とLYS駅(空港駅)間

は、TGVで乗換えなしで行くことができます。

 さて状況を厳しくしているのが、SNCFの安売りと空港ー市内のシャトル輸送の高騰です。ParisーLyon間のTGVは、片道料金が通常65€ぐらいなのですが、35€ぐらいのプロモーションをしょっちゅうやっています。AFの国内線の航空運賃は、往復100€ぐらいです。(受託手荷物なしの運賃。ありだと140€ぐらい。)LYSから市内(Part-Dieu駅)の間は、RhônexpressというTramwayを使った鉄道を利用せざる得ませんが、この料金は片道15.7€です。CDGからオペラ座までのバスが10.5€ですから、かなり高いのです。ややこしいので図にしてみました。

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青線がAFの航路、赤線が鉄道、緑線が空港シャトルです。料金は全て往復で示してあります。明らかにAFの方が高くつきます。TGVによる都市間の所要時間は2時間弱。一方AF利用の場合、空港間で50分、都市から搭乗までが90分、降機から都市までが60分程度で、合計3時間20分ほどになります。競争は厳しいと言うより、無理ではないでしょうかRhônexpressの完成を折に、シャトルバスは廃止になりました。料金は2倍以上になりました。建設費がかさんだのでしょうが、とばっちりを受けたのはAir Franceです。片道10ユーロ近い値上げだったので、相当痛手になったはずです。

 

少なくとも、JALANAにとっての羽田ー伊丹線のようなうまみはないと言ってよいでしょう。

 

Lyonを中心に考え、その欧州線に視点を移すと、LYSはLCCの大手、easyJetの拠点の一つとなっています。人気の目的地にはどんどん便を出しています。また大陸を移動するような長距離便に注目すると、TGVでCDGへ行き、そこからAeroflotを使ったり、LYSからLHR経由のBAを使ったりと、AFを積極的に選択する理由は見つけづらい状況です。AFはじわじわと牙城を崩されているようです。

 

関連子会社を再編して2013年にできたHOP!とともに、国内線と欧州線の再編をどうするか、広く注目されていますが、Aéroports de LyonもHOP!専用のターミナルを整備するなど、バックアップに努めているようです。そのおかげで、LYSはフランス国内でも大変便利な空港となっているし、ますます便利になることが期待されます。

 

 (2)Marseille

Paris-Marseilleの陸路は、相変わらずローマ時代の道をなぞるような経路になっているため、距離は800 kmほどにもなります。ところが登場以来30年経つTGVは着々と新線を増やし、現在Paris Lyon駅からMarseille Saint-Charles駅まで3時間20分しかかかりません。1時間に1本の直通があります。乗継ぎ列車を選択すると40分ほど余計に時間がかかるものの、これを含めると1時間に3本の運転になります。料金は通常期で片道64€~90€です。

 AFはMarseille-Provence 空港(MRS)に関して、CDG-MRSを一日6便、ORY-MRSを一日7便ほど運航しています。所要時間90分。料金はやはり往復最低100€程度となります。MRS空港から市内(Saint-Charles駅)までシャトルバス8.2€です。空港には60分前には到着することを目安に考えると、目的地がMarseilleでも航空機のスピードのメリットがなくなります。料金も同じ程度です。Paris-MarseilleではAFとSNCFが拮抗すると考えてよいでしょう。必要な時間を図示すると以下のようになります。

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上の図でTGVは直通の場合の時間を表示しました。乗継なら240分ほどになります。

 

MRSではLCCの雄Ryanairが幅を利かせていて、欧州各地はおろか、BordeauxやBrestにも便を持っています。Marseilleから世界に飛ぶ場合でも、欧州大手のLH、BAがそれぞれFRA便、LHR便を持っていますし、TKのIST便もあります。またTGVでCDGへ出て、そこから外国の航空会社で世界へという経路は、時間は余計にかかる可能性が大きいのですが、低料金も選べるので無視できません。

 

(3)Strasbourg

国境付近の都市をめぐるドイツとフランス間の競争が激しいのは、今も昔も変わりません。昔は領土問題(住民の税をいかにこちらに持ってくるか)だったのが、現在は経済問題(住民の金をいかにこちらに落とさせるか)です。

 LufthansaLH)は、Strasbourg(アルザスの首都)のSNCF駅とFRA(Rhein-Main Flughafen Frankfurt)との間にバスを運行しています。所要時間2時間45分です。TGV利用によるStrasbourg-CDG間は2時間33分。Strasbourg-FRAの距離は、Strasbourg-CDGの半分以下なので、バスとTGVが拮抗しています。バスとLHの便は接続便扱いにできます。TGVをAFと接続便扱いすることもできるはずです。こういうのは旅行代理店が得意です。

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アルザス人は「ドイツ語圏」スイス、リヒテンシュタインオーストリアのVorarlberg州、ドイツのBaden-Württemberg州の住民と同じ、アレマン人。「ドイツ民族」の一部です。標準ドイツ語も理解できる人が多く、ドイツ文化にもなじんでいます。したがってLHにとって容易なマーケットなはずです。アルザス人は、フランス国民としてのアイデンティティには確固たるものがあるようですが、個人生活と行政とは別です。彼らは仏独の「いいとこどり」をしているようにも見えます。

 アルザスはもはや領土問題の対象ではありませんが、アルザス人の消費行動は国全体の経済指標に重大な影響を及ぼします。Air FranceとLufthansa。EU外の競争相手に対しては共闘、お互いも競争と、フランスとドイツ間の経済面での関係を象徴するようなことになっています。

 

日本の事情を考えてもそうですが、利用者が航空会社を選択する鍵となるのは、言語や文化だったりします。AFやLHが世界中から客を集めるため、英語で何でも行っているように見せる一方、どうでも良いようなレベルまで自国の文化を前面に出しているのには理由があります。このことはアルザス人たちの選択にも関係します。

 

Strasbourg空港(SXB)のParis便はどうなっているかと言うと、SXB-CDG便はありません。したがって、アルザスの住民が大陸間移動などの遠出をする時は、TGVでCDGまたはバスでFRAに出て、そこから長距離便に乗るという方法が一般的なようです。

 SXB-ORY便は1日5便ほどありますが、Parisが目的地だったらTGVの利用の方が便利そうです。

 

3都市の状況を見ると、AFが立ち向かう困難には、当たり前の企業努力では太刀打ちできない外的要因が働いていることがわかります。鉄道も含めた移動手段の中で、AFにしかない魅力を創造して、旅行の楽しさを拡大できないとなかなか厳しいのではないでしょうか。