PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

民族衣装と客室乗務員制服

禁断のテーマ(?)に挑みます。

 

話はもちろん女性用の民族衣装と制服です。民族衣装が社会的な問題になることはあまりありませんが、客室乗務員の制服は新しいデザインになる度に何かしらの論争を提供します。

 Qantasが現在の制服を発表する時、Miranda Kerrをモデルに使いました。偶然Qantasの機内で手にした新聞にその発表会が報道されていたのですが、それによると女性従業員が「誰もがMirranda Kerrのように素敵な肉体を持っているわけではない」と批判的な一方、社長は「女性乗務員の制服は、われわれが提供する商品の重要な一部と認識している」とコメントしていました。記事では、旧制服より体のラインがはっきりする=窮屈で動きにくいという冷静な分析がされていましたが、私にはQantasの愛想の良い中高年クルーが思い浮かび、少し気の毒になりました。「Miranda Kerrが素晴らしく見せている服を私たちが着るの?」と言った調子でした。彼女は、一緒に写真に写りたくない女性世界チャンピオンではないでしょうか。

 

女性の民族衣装は文化、宗教、歴史のどの分野でも、大きな存在感を持ちます。国威発揚にも観光資源にも利用されるのは、自然な流れ。ナショナルフラッグキャリアが利用するのも、自然な流れです。

 

民族衣装の特徴を生かした制服は、東アジアから南アジアでよく見かけますが、一番有名で、一番成功したのはSingapore Airlinesのサロンケバヤでしょう。1972年にPierre Balmainのデザインで世に出て以来、40年が過ぎましたが、その間基本的に変化していないようです。この制服、よく知られるようにマレーシア/シンガポールの民族衣装を元にしています。

 しかし私は、シンガポールにはあまり向いていないと思います。

 マレー人は男女共に背が低く、骨格ががっちりしていることが多く、女性は腰から腿にかけてかなりボリュームがあります。人によっては腹も立派だったりします。サロンケバヤはこういう体型を美しく見せます。マレー人の濃い肌は、あのきらびやかな色彩に映えます。やはり彼女たちを美しくする衣装だと思います。Malaysia Airlinesのクルーでは確かにマレー体型が多く、その制服のサロンケバヤには説得力があります。

 Singapore Airlinesの何が問題かと言うと、本拠地の住民の70%が中華系だということです。客室乗務員も中華系が多いのです。日本人と同じで、平均的には肌の色がやや薄く、黒髪、細身で凹凸が少ないシルエットという肉体的特徴を持ちますが、サロンケバヤが似合いません。私はSingapore Airlinesの女性客室乗務員を見ると、多くの場合、ツチノコのような未知の爬虫類を連想してしまいます。

 西洋人にはあまり区別がつかないのか、Singapore Girlsとしてブランド化していますが、少し気持ち悪く感じます。

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Malaysia AIrlines以外で成功していると思うのは、Cathay Pacific。民族衣装とは言えませんが、色彩が中華世界。真っ赤な制服。ポイントカラーが金。衣装の型やカットより、とにかく色です。黒髪の中華系の女性が着ると、本当に映えます。もちろん多くの日本人にもこの制服は似合うはずです。中部ヨーロッパでは肌の色や髪の色が人によってかなり違うため、色の組合せがよく話題になりますが、ブルーネットに赤というのは公式のひとつです。

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中国は国際航空は赤、南方航空は赤紫、中華航空は桃色と、この色の原則どおりになっています。東方航空の制服は紺ですが、大き目の赤をアクセントとして使っています。

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東アジアではJALANAはKorean Air、Asiana、復興航空と同様、身体的な特徴に左右されない無難なデザイン。長榮航空の緑は、顔色を悪く見せるのであまり良くないと思います。実はかなり化粧で挽回できますが...。

 Cathayの赤ですが、金髪の西洋人や南アジア系が着ると全然似合いません。色素の少ない北欧系には、あの大きさの赤は強すぎるようです。CathayでもHindi話者は数多くいますが、骨格が西洋人と同じ彼女たち、無理に服を被せたような感じがぬぐえません。東南アジア系の女性なら、肌が多少濃くてもこの制服は問題ありません。

 

南アジアの女性は、サリーを着ると神々しいほどです。全くの私見ですが、身体的な特徴と服飾の関係で、これを凌ぐ組合せは無いと思います。見栄えが重要な現代社会。インド人が21世紀になってもサリーを捨てないのは、現代的な理由もありそうです。客室乗務員の制服としては、SriLankan Airlinesのものが色彩的にもそれっぽく感じます。サリーは、サロンケバヤより保安業務に支障が出そうですが、大丈夫なのでしょうか。

 

タイ航空も、機内サービスでは紋切り型の民族衣装です。厚い絹も使っており、とても美しいのですが、なぜだかピンと来ません。すばらしい衣装なのですが、感慨から遠いのです。制服ですから、そのぐらいが良いのかもしれません。

 ベトナム航空の赤いアオザイも有名です。美しく、大胆、存在感があり、東南アジアから東アジアのスリムな女性が映えます。しかしアオザイですから、中年以降、はみ肉の問題が生じます。あれはベトナム文化では美の一部なのでしょうか?

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はみ肉で思い出したのですが、PEACH JOHNには「はみ肉グイ寄せデコルテアップブラ」なる商品があります。はみ肉とグイ寄せは日本語、décolletéはフランス語、upとbraは英語ととんでもない複合語ですが、このネーミングには破壊力があります。この場合はみ肉は、主に背部体脂肪、アオザイの場合は側腹部体脂肪ですが、いずれにしても日本でははみ肉は退治すべきもののようです。

 

民族衣装とは離れますが、興味深いのが中東の3会社。最初から乗務員は多国籍になることが前提になっていたはずですが、制服のデザインに考え方が現れています。まずEmiratesとQatarは多国籍になることを明確に意識しているようです。Emiratesは赤い帽子にベージュを基調とした2ピース。肌の色、髪の色、体型にかかわらず、それぞれの身体的特徴を魅力として表現することを狙っているようです。逆にQatarは警察や軍隊の制服と同様、誰が着ても特徴を消し、秩序を表すようなタイプ。誰が着ても同じレベルになります。それぞれ良くできていると思います。

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 一方、Etihadの古い灰色の制服は、北欧、英国などの金髪で大柄な女性が着ると非常に見栄えする一方、中華系や日本人が着るとなんとも貧相な感じになっていました。少し問題ありかなと思っていたのですが、A380やらB787の導入を機に新しい制服を発表。紫と茶色を基調としています。軍の特殊部隊のようなベレー帽は勇ましいのですが、旧制服と異なり、色々な人間に似合いそうです。

 

JALも大昔に和装で乗務を行っていたことがあります。復活してはどうでしょうか。クルーの国際色が豊かになった今でも面白いと思います。กลกิโมโนのようなドラマが出現したように和服の文化も国際化しつつあります。JALも新しい魅力を発信するチャンスだと思います。

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