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バス代わりの飛行機

Tipps für Flugreisen

ブリティッシュ・エアウェイズと階級社会

持ち上げた後は負の面を指摘。階級社会です。BAの利用ではたまに顔を出し、何とも妙な気分になることがあります。

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イギリスの鉄道では1等、2等、3等が基本でした。上流階級(upper class、以下U)、中産階級(middle class、以下M)、労働者階級(working class、以下W)が、それぞれ使う客車です。階級別に違う列車を走らせるという発想にはなりません。客船、航空機の長距離航路も同じです。

 階級が違うと、言葉、価値観、興味全般、娯楽など、生活と人生のあらゆる側面で大きな違いが生じます。階級が異なる人間と交流するのは困難です。階級を変えるのは少数派で、普通は代々固定しています。インドのカーストとよく似ています。

 

階級はどんな社会にもあります。日本では普通否定されますが、距離を置いて観察すると立派な階級社会です。

 

イギリスの場合、所得は階級の決め手にはなりません。Uは生活のための労働が不要な一群です。資産の裏づけを持つ貴族、代々の大地主、資産家、高位の聖職者と言ったところがUです。生活は多くの場面で地味です。こういう人たちは日本にもかなりいるでしょう。Mは専門性が必要な仕事をする人たちです。Wは単純労働に従事します。

 Mはずいぶん増殖したので、上をupper middle(以下u-M)、下をlower middle(以下l-M)と区別します。少し古典的、ステレオタイプな見方ですが、u-Mは非常に専門性が高い仕事に就いています。その分野では個人の名前で広く(普通世界中で)通用し、高い知性と教養を持っており、趣味は知的刺激を必要とする等が特徴です。心臓外科のスタープレーヤー、国際弁護士、世界で名の知れた大学教授などです。日本では学力や仕事のレベルが十分な人でも、趣味が伴わない場合が多く、この階級は少ないかもしれません。

 l-Mは専門性が必要な仕事につく人たちです。日本で言うと多くの人が目標にできる資格(「xx対策」の類の出版物や講座が多い資格)が生きるような仕事です。こういう資格を取って、順調に成功している人たちは、だいたい何も付かないM。ロンドンではタクシー運転手が、試験の難しさからl-Mとなりますが、バスの運転手はWです。運転免許も資格ですが、専門性とは認識されません。

 誰にでもできるわけではない資格や修行が必要な職業、例えば、普通の医師、普通の弁護士、普通の会計士、大企業のエンジニアなどはだいたいMに入れて良いと思います。u-Mとの違いは、資格や肩書き(日本なら加えて勤務先)で差がつき、それ故それを使って自分を売り込む必要があることでしょう。

 Wは専門性が想定されない仕事に従事する労働者、現業部門はこの階層になります。一般事務、販売、工場勤務、建設業、農業、林業、飲食業など。スポーツ選手はどんなに成功してもWですし、決してUの真似をしようなどとは考えません。David Beckhamが良い例です。また全ての職人、アーティストはWに分類されます。成功したら、階級にかかわらずプライベートジェットで移動すれば良いのです。

 

日本の目線では違和感があります。仕事内容より会社名が重いこと、現場(Wの仕事場)主義が強いためでしょうか。イギリスでは、中小企業の経営者はl-Mとされます。確かに趣味がオペラと骨董の目利きでは、社員が着いてきません。l-Mの人生観や価値観、言葉遣いはWを使用する上で必要です。また大部分の公務員は仕事内容で、l-MからWになります。しかし日本では所得も多く、時間もあるため高尚な趣味をお持ちの公務員は多いのです。こういう人はぴったり入る場所がありません。都市銀行行員も同様です。知らぬ者はいない敏腕トレーダー。投資銀行のパートナーでChampagne騎士団のCommandeur、美術品収集が趣味となると、u-Mでしょうね。

 最近は大企業の経営者(英米では個人の能力が社会で認められ、経営職を転々としますから。せいぜい系列会社にしか移らない古いタイプの日本の役員とは事情が異なります。)とu-Mをあわせて、Eliteという分類にすることが提案されています。数はイギリス社会の1%とされます。

 

普通就学前には階級は固定します。階級を変えることは可能です。しかし大雑把に言って家族や地縁を捨てることを意味するので、大それたこと。一般に英国人は自分の階級に帰属意識を持っているし、変えることは悪だと思うようです。また異なった階級の人たちの中に入ると、非常に居心地が悪く、冷たい視線を浴びるのも普通のことです。「自分がいてはいけない場所」なので、気が付いたら”I should be going."ですね。

 Bridget Jones's Diaryという映画がありましたが、Mark Darcyとその家族はu-M、Bridgetやその取り巻きは、Mかl-Mでしょう。Bridgetは等身大のおバカさんという設定。続編では、Mとu-Mの交流が簡単ではないことが描かれています。そもそも知り合ったのも、家が近所でごく小さい時に親しくしていたという理由。Bridgetは、Mark Darcyの仕事上のパーティに出席して半端ではない違和感を発散しています。

 

階級の基準や性格は国によって異なります。イギリスでは階級が異なる人間の有様を毛嫌いする面がありますが、こうした態度は日本では異常です。

「あんな子たちとは遊んではいけません。」「医者の子は医者。」「親戚に公務員が多い。」などの台詞は、階級社会の証左。大学院卒には、高卒の友人は少ないでしょうし、会社を立ち上げる人の親は中小の経営者あるいは自営だったりします。日本に階級はないという認識は、明らかに現実から乖離しています。ただ日本が他より優れていると思うのは、たいていの職業が責任感をもって行えること、そして尊敬されることです。これはかなり特殊。また会社の中しか知らずに社会生活を終える、という井の中の蛙の生産システムも、階級意識が成長しなかった理由でしょう。最近は変わりつつありますが、こういう社会が続いたので本来の「社会」における自分の位置が気になるのかもしれません。JGCSFCあるいはDelta Amex Goldは、そういう日本人の特性を突いた「商品」ですね。

 

階級と所得の間には相関があるのですが、そのことが階級の維持を大変にします。映画Titanicでは、借金で首が回らなくなった貴族がアメリカの実業家に輿入れするのですが、19世紀から20世紀初頭にかけてありふれた光景でした。貧乏貴族が実業家から嫁を取るケースもありました。階級の外へ飛び出すことは、社会での居場所を失うことを意味します。金がかかっても何とかして、しがみつくしかありません。成り上がろうと必死になるのは軽蔑の対象、留まろうと必死になるのは悲劇です。

 

長くなりましたが、BAでした。3階級制は航空旅客輸送では健在で、first, business, economyと来れば、それぞれU, M, Wを対応させるのが自然です。UはFirst, MはBusiness, WはEconomyを利用することが期待されます。極端な言い方をすると、お金が有っても無くても、そのキャビンを使わないと不都合になる様に設計されています。

 「お金が無い人たち」の救済措置も用意されています。例えば上のキャビンを当日upgradeする時の費用は小さいとか、比較的少ないaviosで上のキャビンにupgradeできるとか、抜け道も舗装された歩道のように存在します。

 とは言うものの、硬直していると言わざる得ません。PYのキャビンでDaily Mailが出てくるのも、そこはW用だから。しかし今時のWでBAを使う人はどれだけいるのでしょうか。さらに外国人は、彼らの「基準」につき合うと妙なことが起きます。私の良く知るドイツ人は英国流でもドイツ流でもu-Mですが、エコノミーで世界を移動します。

LHRのGalleris First Class Loungeは、u-MとMばかりという感じでした。その意味では少し気取った(posh=本来の自分より上のレベルを演出する)空間です。

 

母国での社会意識とイギリス社会での階級がかけ離れていることもあります。それが原因で居心地の悪さを経験する人もいるでしょう。例えば日本の地方公務員で結構な月給をもらっているけれど、趣味は大衆的(例えばゴルフ。「大衆的」は「やりたがる人が多い」、「多くの人の趣味に合う」という意味です。物品ではブランド物の服、靴、バッグなどが良い例です。費用の問題ではありません。)と言う人がいたとします。「少し」贅沢するのは良いのですが、Club WorldやFirstのキャビン、LHRのFirstラウンジでは、「変な奴がいる」という視線を浴びるかもしれません。階級的にバランスが取れていないため、大いにありえます。

 以前LHRのFirstラウンジでは、こうやって気どるべきという記事を書きました。

ギャラリーズ・ファースト・ラウンジ詣で - バス代わりの飛行機

ステレオタイプとして書きましたが、この種の「武装」は雰囲気を壊さないマナーの一種ともいえます。

 

どんな社会でも、自分がそこにいるべき場所か、今入ってきた人間はその場にふさわしいかを気にします。日本ではそんな必要ないという人は間違っていて、物心付く頃から付き合っている社会では意識しないだけです。「雰囲気の悪い店だった」とか「スタバに変な奴がいた」という感覚が、まさにそれです。

 

階級意識自体も日本より強く、区別の感覚がかなり違うイギリス。決して深刻にはならないものの、BAの利用では時々鼻に付きます。

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外国の航空会社は、その文化や社会を引きずっています。良い面と同じぐらい悪い面も持っています。いかんともしがたい気がします。もっともアジアやヨーロッパの航空会社を好んで使う人たちは、短所にも魅力を感じているからだと思うのですが、どうでしょう。