PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

キャビン照明の新たな可能性と実現性の低さ

あちこちでエアバスの最新鋭機A350導入のニュースが入っています。かなりの期待感を持って迎えられています。A380の就航時のようにネガティブな予想はあまり聞かないし、注文数はすでに損益分岐点を越えているようです。

 テクノロジーに関しては、革新的な試みが噂されています。時差ぼけの軽減です。

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複数の報道があるのですが、どうもアイデア~研究レベルという段階のようです。東西に長距離をよく飛ぶ者なら、それでも気になるはずです。

 そういうアイデアが出てくるに至ったのは、A350 XWBのLED照明。1,670万色の異なった色でキャビンを染めることができるとされています。ソーラーシミュレーターとして使えるわけです。

 どの報道でも光量とメラトニン分泌の関係について触れているので、おそらくソースは一つだと思います。この眠気を誘起するホルモンの分泌が、機内でどうコントロールできて、睡眠覚醒のサイクルの乱れをどれだけ補償できるかはよく知りません。また太陽光に対する直接間接的な生体反応のうち、メラトニン分泌だけが睡眠覚醒を支配しているかというと違うでしょう。しかし生理学は横に置いても、擬似太陽光の周期の制御による時差ぼけ緩和法を確立することは、別に難しくなさそうです。

 

ただし、こうやれば時差ぼけには最も効果的という方法がわかっていても、航空会社が実際に行うかどうかは別問題です。

 

現在ではフライトの時間帯に関係なく、

 

早めに食物を与える⇒機内を暗くする

 

というプロセスがほとんど確立しています。ヒトは夜行性の動物ではないので、暗くすると睡眠に就く、あるいは動きが鈍くなります。そもそもヒト程度のサイズの哺乳類では、生体エネルギーの90%以上が餌を探すことに費やされます。そして満腹になったらエネルギーを無駄に消費しないよう、静かにじっとしているのが本来の動物の行動です。

 機内で多くの人がうろうろしている状態は、保安上問題があるので、運航側としては客がシートに静かに留まっているのが理想です。さっさと機内食を出して、終わったら暗くするのは、動物の習性を利用した優れた保安法なのでした。

 

明るくすると活動度が上がります。時差ぼけのために機内照明をコントロールして、人工的に昼夜を変えるというアイデア自体、エアバスの顧客が嫌がるのではないかと思います。多くの記事に切れがないのは、こういう事情があると勘ぐってしまいます。機内の圧力や湿度を従来の機種より高く設定できる点でも、よく休める、よく眠れる効果が強調されています。要するに航空会社は客には寝ていて欲しく、着陸後の時差ぼけには関心がないのです。このことをよく知っているエアバスが、自分たちの技術の紹介に苦労している節が見て取れます。

 

A350では、効果的な時差ぼけ防止は可能だけれど、時間帯に関係なく「飯の後は夜」という運航が相変わらず続くと予想します。