PECHEDENFERのブログ

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ワインスクール代わりの飛行機(その5):キャセイパシフィックのmets et vins

mets et vinsは、皿毎の料理とワイン。ワインリストの説明がいくら詳しかろうと、機内サービスが機内食を中心に回っているのは、疑いの余地がありません。したがって、ワインだけ取り出しても仕方ありません。

 

キャセイパシフィックでも、機内食との関係を考え、ワインをセレクトしているはずです。

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私は、ワインリストも機内食メニューも、以前と比べて変化がありそうな場合に持ち出していました。結果、機内食メニューの方が遙かにたくさん集まりました。中をチェックすると、同じメニューになっている冊子は一つもありません。頻繁に利用する場合、いつも同じ3種類からの選択ではがっかりです。こういうところも、キャセイは優秀。

 

ところで料理とワインの組合せは、世界中で喧々諤々。収束する方向にないのですが、問題は整理しなくてはならないと思います。

 

(1) Matt Kramerというアメリカで著名なワイン著述家・ワイン研究家がいます。この人の本は日本語にも訳されています。fin dégustateur(優れた利き手)かどうかわかりませんが、少なくとも人並みの臭覚、味覚はあるはずで、アメリカに多いと言われる味盲ではありません。この人の指摘した良い組合せは、「pinot noirとダークチョコレート。」意外ですが、「嘘だと思うならやってみると良い。」という調子。好奇心旺盛な私は試してみました。Côte de Nuitsに、一粒300円ぐらいのダークチョコレートです。

 結果。確かに味わいは、大きく変わりました。しかし現れたのは、アメリカの安菓子に多い薬品の臭い。例えて言うと、ワインがDr. Pepperに変質してしまいました。この臭いは、大部分のアジアの食文化、中欧・南欧の食文化では嫌われます。要は食の文化圏では、排除すべき悪臭か、高く評価されても俗悪な香りでしょう。

 しかしこれは完全に文化の問題。食品でこういう香りが好まれるのがアメリカなのでしょう。それまで私は、アメリカ人は味盲だったり、食品の香りに鈍感なので、人工香料でこういう「変な」香りをつけるのだと思っており、積極的に評価されているものだとは想像もできませんでした。大きな発見です。

 この体験での教訓。

「能力あるワインのプロも、嗜好は育った環境に支配される。」

「英米人のワインライターが推奨する食との組合せは要注意。」

用心すべきは英米人に限りませんが、一般的に食文化がひどいとされ、そういう背景を持つ人達ですから、嗜好がそっちの方向へ引きずられるのは必至。おまけにライターは、英米系が多いのですね。この現状は始末に負えません。

 

(2) 最初から整理すると、食事とワインを組み合わせる時、

①「それぞれの持つ香りや味のある部分が強調され、ある部分が隠れる」

したがって、

①’「それぞれの香りや味は、単独で味わう時から変わる」

は正しいのです。しかしどう変わるかに関しては、「このワインは、〇〇と〇〇の香りがする」という試飲結果の一致、不一致と同じ確度しかありません。さらに、

②「それが好ましい変化か、忌まわしい変化かは、嗜好の問題」

です。他人の言うワインと食事の組合せは、あなたの美食を保証しません。

 

(3) そうはいうものの、①, ①’のレベルで多くの日本人が敏感な要素はあります。キャセイ機内食で関係しそうなことを並べてみます。

 

・発酵食品は生(き)のままだと、別の「生の発酵食品」であるワインとぶつかります。つまりそれぞれの味わいが大きく変わります。どちらかが加熱されていると、特に顕著な問題ではありません。キャセイ機内食では、醤油、味噌、酢、発酵した漬物、チーズが要注意です。ワインは白より赤で顕著です。

 

・トマト、トマトソースも果実の香りがあるうちは、赤ワインとはぶつかります。普通嫌われる組み合わせです。白ワインはOK。キャセイのパスタは最低だから食べないという全否定派だと、リスクが減ります。

 

化学調味料とワインは根本的に合わないという人が大勢います。

 

チーズとワインは緊密な関係がありますが、私個人はチーズには硬質なミネラルウォーターが一番だと思います。roquefortと貴腐ワインなどという、有名な「良い組合せ」もあります。しかし、いつも香りの大部分が死んでしまう気がします。

 トマトと赤ワインの組合せは、どのぐらい嫌になるかという程度の問題でしょう。ただし悪要素を完全に取り除くためには、トマトをかなり加熱しないといけないようです。Bologeseソースのように。

 アジアだと化学調味料が避けられないのですが、これも程度の問題だと思います。化学調味料が嫌いな人でも、使われる食材によって拒絶度が異なることに似ています。

 

(4) ワインと皿の「組合せ」には、定石がいくつもあります。しかし、これらはローカルな食文化、歴史、風俗を元にいつしか形成されたものです。無視して構わないし、自分の意見が違っていても、ワインを味わう能力や経験量とは全く関係ありません。

 

キャセイビジネスクラスのワインリストでは、型が維持されているという話をしました。

ワインスクール代わりの飛行機(その4):キャセイパシフィックのビジネスクラス - バス代わりの飛行機

再掲すると、

①泡:Champagne

②白:Bourgogne

③白:New ZealandのSauvignon Blanc

④赤:France (BordeauxまたはBeaujolais)

⑤赤:AustraliaのShiraz

デザートワイン:Vintage Port

です。一方、料理の方も機内食ですから、ある決まった枠組みがあります。相互の組合せについて、ぼんやりとでもいいから、何らかの意図はあるはずです。

 

以下、ビジネスクラス機内食をステージごとに見ていくと、

 

ナッツ:ワインは何でもOKではないでしょうか。うるさくなる必要はないようです。

 

前菜:生野菜、レモンソースなどの植物性の味には、ワインはあまりぶつかりません。したがって何でもよいのですが、エビや合鴨などと一緒に出されます。前者は②、後者は①、④あたりが良さそうです。

 

のびた蕎麦に茸:これにワインを合わせるのですか?試したことがありません。

 

メイン和食:この辺から好きなもので良さそうですが、①、②、④あたりを考えているのではないでしょうか。魚は白ワイン、肉は赤ワインです。鶏は調理法に応じて白でも赤でも。

メイン広東料理:魚には③、肉には⑤ですかね。鶏なら③か⑤。「エキゾティック」な香りが入ることが多いので、NZやaussieが良さそうです。キャセイのセレクションだと食事に寄り添うようなワインより、一貫していて特徴を失わないワインの方が良さそうです。この場合、互いに引き立てるというより、味覚をリフレッシュにするような役回り。もちろん①もOK。

メイン洋食:牛ステーキやラムなら④でも⑤でも。鶏ならソース次第ですが、クリームソースなら②かBeaujolaisですかね。魚料理はあまりないのですが、トマトソースなら②か③。ワインも常識的、料理も常識的なので、これと言って考えるほどでもないような...。

メイン東南アジア:これも魚には③、肉には⑤でしょうか。鶏は調理法を見てから。

 

チーズ・デザート:水または⑥

 

アイスクリーム:何も無しまたは⑥

 

プラリネチョコレート:最近見ないチョコレート。⑥を合わせたければどうぞみたいな存在。

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何度も強調するように、皿とワインの組合せは自由ですし、いろいろ新しい試みにチャレンジするのが創造的、建設的です。上に書いたことは、キャセイは何となくこんなことを考えているのかなという想像です。

 

HKG-BKK間でアフタヌーンティーセットに③を合わせているドイツ人女性がいました。(たぶん)旦那と2人でヘリンボーンのキャビンに並んでいましたが、旦那はさっさと寝る一方、女性は4杯目をお代わりしてすっかりご機嫌、昼間にも関わらずポッポ来ていたようでした。この方が欲求不満だったかどうかは別として、スコーン、サンドイッチ、ケーキにsauvignon blancの組合せはユニークです。自由過ぎるmets et vinsです。