PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

どちら側の航空会社が優勢?(その3)

せっかくだから、ヨーロッパの大空港に関しても少し調べてみました。何といっても、列強と言われていた時代から、近隣との張り合いが強烈な土地がら。ナショナルフラッグキャリアーの時代はもちろん、今でも何となく勢力争いの色調を帯びています。

 

英国、フランス、ドイツの勢力が強いのも、列強時代と同じ。変わらない部分は全然変わらないヨーロッパ。そこで列強に挟まれた列強、フランスはパリを見てみます。大空港が存在するロンドンとフランクフルトの路線が面白い対象。パリはCDGとORY、ロンドンはLHR, LCY, LTNと、定期便が就航する空港が複数あるのに対し、フランクフルトはFRAのみです。結果は

 

パリ(56)-ロンドン(105)その他28

パリ(35)-フランクフルト(56)

 

でした。カッコ内がその都市をベースにする航空会社の便数。一週間当たりです。

 エールフランス(AF)の不調がそのまま数字に表れています。仏英間では、AFが週42便、トランサヴィアフランス(TO)が週14便しかないのに対し、英国航空(BA)が週77便、イージージェット(EZY)が週28便も持っています。その結果、倍近い差になってしまいました。その他の週28便はCityJet(WX)によるORY-LCY便。都市中心から近い空港を結ぶビジネス便です。WXはアイルランドの会社ですが、AFの子会社。AFはこの路線で全く別種のビジネスをやっています。一矢報いる感じです。

 仏独間は、ナショナルフラッグキャリアーのみ。AFが週35便に、ルフトハンザ(LH)が週56便です。ここでもAFは歯が立ちません。

 

自国の航空会社に関しては、様々なニュースが自然と耳に入ってきます。旅客はサービスそのものの評価に加え、そうしたニュースから受ける印象で航空会社を選択します。悪いニュースばかり聞くAFに、嫌悪感を覚えるフランス人が増えても不思議ありません。私の知り合いにも、遠距離はLHを使うフランス人とか、BAを使うフランス人、逆にLHは使わずAFを使うドイツ人などがいます。いずこも同じなのですね。

 

さてヨーロッパ内の勢力争いでは劣勢に立たされているフランスですが、北米路線ではどうでしょうかと、花形路線パリーニューヨークを調べてみました。 パリ側がCDG, ORY、ニューヨーク側がJFK, EWRとそれぞれ2空港あり、合計4路線からなります。すべて合計すると、

 

パリ(56)-ニューヨーク(35)

 

相変わらず目立つところでは強いフランス。AFのCDG-JFK便が週35便、XL Airways France(XLF)のCDG-JFK便が週7便に加え、OpenSkiesのORY-JFK便とORY-EWR便がそれぞれ週7便ずつあります。一方迎撃するアメリカ勢は、DLのCDG-JFK便とCDG-EWR便がそれぞれ週7便ずつ、AAのCDG-JFK便が週14便、UAのCDG-EWR便が週7便でした。

 アメリカ側は3大航空会社が競争力に応じて就航している感じですが、フランス側の構成には癖があります。XLFは機材が5つ、従業員600人の小型の会社。OpenSkiesは、ORY空港とニューヨーク間に特化したBAの子会社です。B757-200を3機有するだけ。一応「フルサービス」ですが、コスト削減に成功しています。

 意外なことに航空大国アメリカより、フランスの方が遙かに先進的なことになっています。

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パリだけではつまらないので、ドイツからミュンヘンを調べてみました。

 言うまでもなくFRAがドイツ最大の空港ですが、都市の格はかなり落ちます。一方、ドイツ連邦の首都はベルリンですが、空港整備が遅れています。そこでバイエルン王国の首都であったミュンヘン。旅客数がドイツ2位の空港MUCを擁します。少し古くなりますが、昨年10月のダイヤで調べました。

 

まずは近隣の列強諸国から、

ミュンヘン(55)-ロンドン(92)

ミュンヘン(38)-パリ(48)

ドイツの惨敗ですね。LHRに就航するLH便しかありません。LHRへのBAだけでも46便あり、その他にEZYがLGW, LTN, STNから46便持っています。伝家の宝刀Germanwingsの援護飛行はいつになったら見られるのでしょうか。

 パリはAFだけでも41便あり、LHだけのドイツ軍はここでも敗退。

 

このように首都ガチンコ勝負では劣勢だったドイツ(というよりバイエルン)も、地方都市便を見ると全く違います。フランスの主要都市に目を向けると、

 

ミュンヘン(27)-リヨン(0)

ミュンヘン(27)-マルセイユ(0)

ミュンヘン(26)-トゥールーズ(0)

 

という結果が待っていました。LHが十分な利便を提供しているのに対し、フランスのスコアはゼロです。これは、「花形路線は目立つから、俺がもらっておくね。その代り地味な地方路線で実をとってよ。」というフランス外交の結果ではなく、国の成り立ちの違いが原因でしょう。フランスは中央集権型国家で、交通網もパリ中心。地方都市からパリへの交通網の整備は大変熱心なのに対して、地方都市間交通はかなり貧弱です。何をするにもパリへ出るのです。一方ドイツは、いろいろな国の寄り合いで成立した連邦。中心を決めても、その求心力は弱く、都市間の直接移動が重要になります。この傾向が、隣国にも波及しただけです。

 今欧州でLHが強いのは、ドイツ圏の交通網発達の特徴と航空輸送の世界的趨勢が同期しているためなのでしょう。ヨーロッパでハブアンドスポーク化が進んでいれば、フランスはもっと強かったはずです。

 

MUCのアメリカ全路線は、以下のとおり。ミュンヘン側はすべてLHです。

 

ミュンヘン(14)-ニューヨーク(7)

ミュンヘン(7)-ロサンジェルス(0)

ミュンヘン(7)-サンフランシスコ(0)

ミュンヘン(7)-ボストン(0)

ミュンヘン(7)-シャルロット(0)

ミュンヘン(7)-シカゴ(7)

ミュンヘン(0)-アトランタ(7)

ミュンヘン(0)-フィラデルフィア(7)

 

圧倒的にドイツ優勢です。負けているのはDLのATL便とAAのPHL便だけ。共にデイリーです。これらの都市はそれぞれのハブだから、運航しているのでしょう。直接これらの都市へ向かう旅客は多くないでしょうから、LHが運航する必然性はありません。

 ニューヨーク、シカゴはUAが運航していますが、同じアライアンスですね。LHに任せてしまって良いようなものですが、そうでもないのでしょう。

 なんだか、アメリカは弱くなりました。

 

ところがLHも中東勢には全く歯が立ちません。

 

ミュンヘン(7)-イスタンブール(50)

ミュンヘン(0)-アブダビ(14)

ミュンヘン(6)-ドバイ(14)

ミュンヘン(0)-ドーハ(14)

 

トルコ人労働者が多くなってからすでに30~40年経ち、マイノリティーとしては一大勢力となっているトルコ人。当然トルコードイツ間の人の往来は盛んです。しかし運航しているのはトルコ航空だけで43便。LHの6倍の発着数です。他にPegasus AirlinesがSAWに7便持っています。LHはデイリーで1本と、かろうじて路線を維持するのが精一杯。トルコ強し。

 中東3会社の本拠地へは、大方の予想通り。LHは何とかDXBは維持し、アブダビとドーハはゼロです。むしろこの3会社間の競争が表れています。

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ドイツの鶴も中東勢には勝てません。もっともAUH, DXB, DOHが中継地としてその力を発揮するのは、オセアニア行。少し時間を要しますが、南アジア、東南アジア。それほど多方面ではないのです。それでもLHやAFにとって脅威なのは明らか。今後欧州着発の長距離便がどうなっていくのか、予断を許しません。