酒屋で見つけたワイン
10月10日の記事
の続編にすればよかった話です。
またラベルを見て仰天しました。もっとも酒屋での出来事です。格式云々は問題になりません。名前がショッキングなだけです。JALサービスの「新路線」にちょうど良いかなと、思いました。
これは是非、ファーストクラスラウンジへ。
呼称
ワイン名がLe Libertin。これは区画ではなく、Cuvée名。規制呼称はBourgogne passe-tout-grainsで、生産者はMongeard-Mugneretです。値段は16~17 EUR。各種データは、生産者のページにあります。
Bourgogne passe-tout-grainsは、赤のみに許される呼称です。Bourgogneの赤は、普通Pinot noirだけ、またはGameyだけで造られますが、この規制呼称は例外。2種のブドウを混合して造ります。混合割合も前者が30%以上、後者が15%以上と規制されます。許容ではなく、義務。つまり、混合することに存在意義があります。
Bourgogneでは、単一品種、単一年、単一区画こそが高品質の証し。Bourgogne passe-tout-grainsは、規制呼称上の最下位とされます。ところがこのワインの価格は、同じ生産者のBourgogne rouge pinot noirと同程度。ブドウの樹齢は25-45年と、明らかに高品質、高価格を狙った商品です。異端児と言えます。
語源
libertinという単語は古風です。辞書で調べると、おそらく放蕩者と出ていると思います。日本語ではこの単語が最も適当となるでしょうが、ニュアンスは違います。現代では、パートナー交換や乱交、全裸での生活などを実践する者を指します。
もともとは、ある軛を超えた者を表すラテン語のLibertinusから来ています。ローマの解放奴隷もLibertinusと呼ばれていました。フランス共和国のスローガン(la dévise de la République)の自由、平等、博愛(Liberté, Égalité, Fraternité)の筆頭、Libertéと同根です。
つまりLibertinageは、無駄な社会規範からの解放という主義主張であり、Libertinは実践者。現代(フランス)では、人間性の解放が性行動に限定されるのは、世の中が良くなった証拠かもしれません。
生産者のMongeard-Mugneretはドメーヌの名称ですが、(少し前の)当主の名前Mongeard Mugneretから来ています。
ハイフン(trait d'union)が入るか、入らないかで、人の名前か、その人に因んだモノ、コトなのか区別がつきます。Saint Émilionが庵を結んだ地(正しくは洞窟に籠った地)は、Saint-Émilionという町になっています。
このMongeard Mugneret氏は、Vosne-Romanéeの村長を勤めた立派な方。日本で言うなら、Mongeard-Mugneretは旧家の類。その子や孫が、軽々しい名前をワインに付けるわけにはいきません。いたって真面目なはず。想像するに、旧習への挑戦の意味を込めて、挑発的な名称としたのでしょう。
効果
しかしながら、libertin, libertine, libertinageなどという単語を耳にして、思い浮かべるのは普通、
Les Chandelles (扉がパリの歴史的建造物に指定されたclub libertin, 1 Rue Thérèse)
Dominique Strauss-Khan(前IMF会長。Les Chandellesの元顧客。)
Cap d'Agde(ヨーロッパを代表するnudiste地域)
etc.
関係ない人間には、怪しげな場所、怪しげな人間ばかり。「良い子は近くに行ってはいけません。」みたいな。さらに平均的な所得では、アクセスは簡単ではありません。フランスで生み出されるイメージは、いつも小金持ち向けの何かなのでした。
ワインのLe Libertinも、Bourgogne passe-tout-grainsを高く売るための新しい試みなのでしょう。農民の挑戦です。
ということで、ショッキングな名称に屈折した背景、なかなかよくありませんか、JALラウンジに。事情通なら、30分ぐらいは簡単に話が出来そうです。
21世紀の農民は中世の農民とは違い、教育もあります。少しばかり知性が感じられる名前を付けるのでした。Bourgogne人って、内気で照れ症のくせして、大胆な名前をよく使っています。何でこうなってしまうのか、いつも面白いと思います。
流すBGMには、
・Mylène Farmer, Libertine (1986)
・W. A. Mozart, Don Giovanni (1787)
が、偉大なる先輩方をテーマにしていてよろしいのではないかと。
品質
飲んでいないので、わかりません。購入しましたが、開ける前に記事にしています。この種のワインは、ラベルと由来だけで十分。大切なのは、お遊びですから。