バス代わりの飛行機

Tipps für Flugreisen

JALの長距離 LCC、SQのB787-10

JALのニュース

JALがアジア、欧米路線用に中長距離 LCCを立ち上げるという報道がなされて、賑やかなことになっています。ANAに劣らず、JALも愛されているようで何よりです。

 長年 Cairns に運航している JetStar を思い出す人もいるかと思いますが、これは100% Qantasの子会社。JetStar Japan の3分の1を所有するのが JAL。そして JetStar Japan は短距離路線のLCC。少々ややこしいのですが、とにかくレガシーキャリアによる LCC 経営は普通です。4,000 miles超なんて長距離路線はあまりないだけ。ただし、LCC地域会社が長距離国際線に進出するより、レガシーキャリアが長距離LCCを開始する方が、有利なのではないかと思います。

 

親会社の事業を喰うことになるという懸念は、たぶん的外れ。LCC長距離路線への進出は、「本業」の短距離路線に関しても、新興LCCとの競争を有利に進めるために貢献するでしょう。

 

JAL欧米線の機材

その本家本元の JAL の欧米路線は、現在以下のような機材で飛ぶことが多いようです。

 

B787-9 E91

f:id:PECHEDENFER:20180513144155j:plain

B787-9 E71

f:id:PECHEDENFER:20180513144249j:plain

B777-300ER W84。

f:id:PECHEDENFER:20180513144419j:plain

 

どの機材でもキャビンの面積は、ビジネスクラスの方が、エコノミークラスよりも広いのです。その上、エコノミークラスの座席配置も、

 

B787が2-4-2(レガシーキャリア標準は 3-3-3。NH, SQ, AF, KL, QF etc.は 3-3-3。)

B777が3-3-3(レガシーキャリア標準は 3-4-3。NH, OS, AF etc.は 3-4-3。)

 

と、空間を贅沢に使っています。全体としてJALの欧米路線は、高級路線邁進中です。鶴丸印は、高級ブランドのマークなのでした。

 JALは昔からこんなキャビン構成が好きでしたが、それでやっていける所が凄い所。

 

f:id:PECHEDENFER:20180513155408j:plain

JAL B787-9 E71型。

 

事業拡大は企業の本能だという原則を忘れても、レガシーキャリアは上から下まで、出発から帰着まで、西から東、北から南へと、あらゆる軸でサービスのスペクトルを広げることが基本です。JALは自社キャビンの状況を見て、「狭いシートで安く旅行したい客を逃している」と、当然思うでしょう。そしてそれは、かなりのボリュームゾーンになるはず。商機を逃すことに対する危惧がないはずありません。

 機会損失を避ける方法は、いくつもあります。キャビンをさらに分割して、機材を増やすのも一手。複数のシート配置の機材を同一路線で飛ばすのも一手。JALブランドとは別に、空間提供以外にも諸々のサービスを削って、独立した運航を行うのも一手。最初の方法は、多くの会社が採用する有料エクストラシートの設定と同じ、最後の方法は、LCC会社を別に経営することと同じです。

 

つまりJALでは「高級エコノミークラス」を標準、その下にサービスを簡素化した真の「節約クラス」も設けると理解すれば、長距離 LCC の必要性が見えて来るのではないでしょうか。開設路線としては、

・現在直行便が無いが、乗継ぎ客はかなりいる。

・その地と成田間との旅客は、あまり金をかけない。

・空港の使用料、税金などがあまり高くない。

などの条件が揃ったところになるでしょう。ヨーロッパだったら、イタリア、北欧などはかなり可能性がありそうです。アジアだったら、JAL直行便があるところでも需要はありそうです。

 

レガシーキャリアのカルマ

旅客業が販売するのは、サービスのセット商品。需要が多いセット商品を開発することが大切。スペースだったり、機内食だったり、多くの客のツボにはまるところで商品を提供できるところが勝つのです。航空輸送サービスをざっくりとクラス別に分類すると、

・プライベートジェットのチャーター

・ファーストクラス

ビジネスクラス

・プレミアムエコノミー

・エコノミー

LCC

となります。各社、広くサービスを提供する一方、市場の状況に応じてメリハリをつけて収益構造を良くするということをやっています。例えばアメリカではファーストクラスの需要が小さく、チャーターの需要が大きくなります。DL, UA, AAでファーストクラスがお粗末か、存在しないのは、移動量全体に対しての需要が小さいため。

 いろいろサービスを取り揃えておけば、市場環境の変化にも対応できます。企業が長く生き延びたければ、現在の市場で徹底した最適化を行ってはダメで、低効率ながらもいろいろな事業を行う必要があります。LCCは逆の発想。現在の市場に最適化して、構造的に儲からない時代になったら事業撤退という立場です。これは、レガシーキャリアには許される選択ではありません。

 

今のJALの状況を考えると、長距離LCCの経営は有効な選択肢。他を見れば、BAも同様にやや贅沢なことをやっているので、同じでしょう。Norwegianの株を取得し、騒がれたばかりです。

IAG, la maison mère de British Airways, s’invite au capital de Norwegian

これ以外にも、IAG が長距離 LCC を考えているというニュースは時々出てきます。

 

重点の置き方が違うレガシーキャリアも数多く見られます。ANA の長距離国際線エコノミークラスは詰込み型。LCC との差が小さく、長距離 LCC を立ち上げる必然性は JAL より小さいはずです。一方でチャーター機のサービスを始めて、上のサービスを拡大しようとしています。

 

ちょっと注意が必要なのが、シンガポール航空B777-300ERでは上から下まで贅沢キャビンで構成しましたが、世界初就航が誇らしい B787-10 では詰込み型キャビンを採用しました。今まではエコノミークラスは立派なシート、充実した付帯サービスと、文句なしに高級航空会社だったのですが、高級路線から離れる方向へ方針転換したのでしょうか。この最新型では、ビジネスクラスも、エコノミークラスも、一人当たりの空間がかなり小さいようです。

f:id:PECHEDENFER:20180513155216j:plain

SQ の B787-10。主翼のかなり前方でビジネスクラスのキャビンが終了します。シートの数は36。エコノミークラスは3-3-3。一方JALB787-9 E71ビジネスクラスでは、機体全長は5.4 m短いものの、主翼中央までキャビンがあり、シート数は30。胴体幅が同じで、エコノミークラスは2-4-2。相当な差があります。

 

シンガポール航空は、スクートという LCC を持ちます。この LCC はアジア圏に路線網を持ち、長距離と言っても SIN-NRT (3,300 miles) とか、SIN-SYD (3,900 miles) 、SIN-ATH (5,600 miles) *程度。スクートの長距離路線を拡充することなく、SQのサービスレベルを落として安売りする方向(あるいはコストを吸収する方向)へ変わるのでしょうか。B787-10 は単純に古くなった A330-300を置き換えるためであって、フリート全体がチープ化しないことを願います。

*: ご指摘により、追加しました。ありがとうございました。

 

客にとって望ましいのは、

・選択肢が増えること

・自分に合ったサービス(バリューだと思えるサービス)が見つかること

です。したがって JALLCC 事業を拡大することは歓迎。ANAチャーター機サービスも、個人的には関係ないものの歓迎。一方でシンガポール航空B787-10 は、サービスのスペクトルが縮小するのなら、残念な話になります。