PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

機内エンターテイメントの整備

機内エンターテイメントシステムは、新機材の導入、新ビジネスクラスシートの導入のように耳目を集めるような出来事は起きにくいのですが、着実に進化する分野でしょう。

 

機内エンターテイメントは Wifi 経由に?

レガシーキャリアの長距離便では、思いつく限りのサービスが試みられてきた歴史があります。最初はファーストクラスにのみに貸出しがあった機内ビデオも、大型スクリーン設置による機内映画館化がなされ、エコノミークラスでも退屈せずに移動できるようになります。そして個人モニターの時代になり、現在に至っています。

 ところが短距離路線一般、2,000マイルぐらいでも国内線では整備が異常に遅れています。機材の大小のためでもなければ、航空券の利益率の問題でもなさそうです。短い時間だから不満なく過ごせるだろうと、手を抜いていたという線が最も確からしいようです。

 

そんな中で、JALの国内線 Wifi 無料化はなかなか優秀でした。身近だから感じにくいかもしれませんが、北米や欧州の巨人たちに先じているといってもよいかもしれません。

 

しかしながらLCCとの差別化のためか、最近世界中でメジャーキャリアが短距離路線のIFEを充実させるようです。

 

Delta 航空は 5月半ばから、国内線で試験的に無料 Wifi を提供しています。一日 55 路線ということですから、本当にごく一部。会社の規模が大きいので、Wifiの充実はインフラ整備のようになるだろうし、小さな会社では想像できないことが起きる可能性もあります。したがって将来のサービス拡大に関しては、慎重な見方を崩していません。

Delta to begin trialling free in-flight wifi – Business Traveller

 

JALもそうですが、現在は航空会社ごとにコンテンツを用意している場合がほとんどのようです。そのメニューの中でインターネット接続が用意されることがあります。

 

GAFA が GAFANになる?

飛行機による移動は、行動が制限される数時間~十数時間というまとまった時間。映画やドラマがサービスのコンテンツとして重要ですが、既存の作品を使うのは当然。そこで注目されるのが、Netflix

 もし機内からインターネットに無料で接続できるなら、Netflix 会員には IFEシステムは不要になるはずです。この発想は半分正解、半分不正解と言えるかもしれません。確かにNetflilx のライブラリーは巨大で、従来の IFE とは比べ物にならないでしょう。またユーザー・インターフェースも革命的であり、料金も手頃、インフラがあれば世界中どこからでも同じサービスを受けられます。IFEでもパラダイムシフトを起こす可能性が非常に高いと期待されます。

 

しかし乗り越えるハードルは低くないようです。例えば

(1) 機内 Wifi の容量が地上と比べて貧弱であること

(2) B to Cモデルへの特化に方針転換の必要があること

はかなり大きな問題。(2) では Netflix にとって本質的な playback metrics に関する技術はもとより法的根拠も必要となりそうです。おそらく解決すべき課題は多岐にわたっています。

 Netflix は機内エンターテイメントへの事業拡大を早くから考えていたようで、2015年に Virgin America と提携したのを皮切りに、現在では Aeromexico, Qantas, Virgin Australia そして最近 SAS とも提携を始めました。機内用システムの開発は当然行っており、inflight 2.0というシステムが 1 年半ほど前に立ち上がっています。

Where Does Netflix Really Fit in the IFE Content Marketplace?

機体側でもハードウエアは良いものが必要になるらしいのですが、解像度やユーザー・インターフェイスの使い勝手など、結局使ってみないと良し悪しが判断できない気がします。

 

SASは近距離路線で高速 Wifiを提供。EuroBonus の Gold 会員、Diamond 会員は無料。SAS Plusでも無料になります。

https://www.flysas.com/au-en/fly-with-us/inflight/wifi-onboard/

個人的に少し気になっています。

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技術進歩の速さを考えると、数年で機内エンターテイメントの世界は、

・無料、有料の Wifi が完備

・シートに設置される個人モニターは廃止

・情報機器は客が持参

・有料、無料で情報機器を機内貸出

・空港では情報機器の販売が活発*

と変わっても不思議ありません。LCCはもとより、フルサービスキャリアでも航空券料金の幅が広がります。またコンテンツ配給で Netflix の寡占化が進み、GAFA は GAFAN となっているかもしれません。

 *タブレットは 1 万円台で新品が購入でき、ヘッドセットと同程度。カメラや旅行鞄より価格帯は低いのです。忘れたからと、空港で買う人も出てくると思います。

 

ANAの投資

機内エンターテイメントに関して、先週日本で大きな動きがありました。ここで書いた最近の動向を思い出さなければ画期的に見えますが、本当に正しい方向へ投資しているのか、不安になってくるのがミソです。

 

ANA は今年秋から国内線機材で新シートを導入すると発表。5月29日のプレスリリースです。

パーソナルモニター付きの新シート導入により、さらに快適で充実した国内線の旅を提供します|プレスリリース|ANAグループ企業情報

主要路線を担う機材では、全シートに個人モニターを導入します。プレミアムシートでは15インチ、普通席では11.6インチのモニターになるそうですから、長距離国際線並みです。そして「ビデオ番組、オーディオ番組、電子書籍など約190コンテンツを高画質でお楽しみいただけます。」とのこと。

 主要路線に限られますが、現在のJAL国内線に大差をつけられます。大変すばらしいのですが、一度キャビンを改装したら10年ぐらいは使うことを思い出さなければなりません。ANAの投資はシステム自体が 3、4年で陳腐なものになってしまわないでしょうか。

 

蛇足ですが、ANAの新シートのイラスト。男性、女性、それから日本人は入れず、「身長〇〇cmの人」などと表記すべきでした。「国内線だし、日本人にはこの表現がわかりやすい」という判断は理解できますが、国際的には性差別、人種差別と騒がれるリスクがあります。個人としては見逃されるけれど、全世界を相手に商売する団体としてはまずいというレベル。

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このイラストの英語版は用意していないようなので、事は起きないでしょう。やれやれ。

ANA upgrades domestic fleet with locally sourced seating - Aircraft Interiors International