PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

長い列を作り優先搭乗を待つ人たち

日本人旅行客は目にする機会が多いと思います。優先搭乗を待つ人の列です。JALANAは上級会員が多いため、形成されやすい傾向があります。特に関東には多いらしく、羽田の JALANA の出発ゲートでは長蛇の列が形成されます。

 

航空会社は定時出発を確実にしたいため、搭乗時刻を早めにアナウンスする傾向がありますが、上級会員の集団はそのアナウンスを基に列を形成します。10分、15分の搭乗開始の遅れは頻繁に起きますが、その場合彼らは30分近くも立って並ぶことになります。

 航空会社がこの現状を放置していることを鑑みると、彼らがダイヤモンド会員等の上級会員をどう考えているかよくわかります。

 

それはさておき、そんなに長い間列に並んでいるならゲート周辺で座して待つ方が良いと考えるのが、常識的で健全な発想でしょう。

 羽田―伊丹などの主要路線では、

 

・列の瞬間最大長は大雑把に言って、最優先が2、次優先が1、一般が1

・夕方の良い時間帯に利用すると、特に長い列が形成

 

となっており、背景を少しかじったことのあるマグルな客なら

 

「ダイヤモンド会員って、ひょっとして列を作るのが好き?」

「列に並ぶために、修行するの?」

 

なんて疑問が浮かんでもおかしくありません。

 

搭乗で会員種別が考慮されなくなったら、立って待つ時間は一様に長くなるでしょう。優先搭乗は、列に並ぶ時間の平均値を下げるために役立っているはずです。その結果、立って待つ上級会員、座って待つ一般客なんて現象が起きているわけです。皮肉と言えないこともありません。

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事前改札でも列ができることがありますが、多くはありません。

もちろん上級会員には列を作らないという選択肢もあり、どちらを取るかは全く自由。彼らが適当に列を作るから、航空会社が助かるわけです。なぜ自発的にわざわざ列を作るか?という心理は、会社にとっても重要なポイントのはずです。そこで列に並ぶ上級会員たちの心の内を想像してみました。

 

(1) 実利がある

一番に自分の席に着くことができるなら、そこに別の客が間違えて座っていることはありません。頭上の荷物入れのスペースが無い可能性も低くなります。そういうレベルでは、優先搭乗に実利があります。心配症な方、予定調和が好きな方は、数十分間列の中で立たされても優先搭乗する価値があります。

 

(2) 列を作るのが好き

単純に立って待つのが好きという人は少数でしょう。秩序ある社会において自分に優先権が用意されているという特権意識を確認したいというなら理解できます。こういう人たちには十分な動機になります。その亜種ですが、優先権がない人たちに見られるのがうれしいという目立ちたがり屋も少数混じっていそうです。いずれにしても、自分の中で完結する気分です。旅では気分は大切。頭からバカバカしいと否定できますまい。

 

(3) 航空会社への忠誠心

マナーの悪い上級会員はよく見かける一方、そうした行動に眉を顰め、上級会員はこうあるべしと自らの襟を正す会員も大勢います。こういう風に規律を重視する方は、航空会社の描く設計図に沿って行動するのが心地よいはずです。権利が与えられるなら、それを享受するのがあるべき形と感じてしまうのでしょう。航空会社へ貢献してますし、秩序の維持という意味では客全体の利益にもなっています。この立場からは、一見奇妙な「上級会員=お得意様の方が立って待つ時間が長い」という現象も十分に正当化できます。

 

(4) 機内が好きで好きでたまらない

狭い機内のことです。純粋に好きな人は少ないと思います。ただし機内の様子をツイッターで発信しなくてはならないとか、ラウンジやロビーで仕事中で区切りを考えると、早く機内に入った方が良いとかはありそうな話です。機内での時間を最大限欲しいなら、立ち時間が長くても整列を厭わなくなるのは自然です。

 

(5) いろいろな選択肢による気分転換

個人の容量が有限であることを前提にすると、特権の本質は「社会を構成する者のうち、一部は A も B も選択でき、残りは B しか与えられない」です。ただし特権者は地位を維持するために、Aだけを選択しなくてはなりませんでした。昔は文句なしに B より A が良かったのですが、今は B も良くなっており、伝統的な特権者(例えば王族)は現代では窮屈なだけという事態になっています。

 優先搭乗でも同じことが言えます。「早く入る方が良い」という価値がどこかにあります。これは権利であり、搭乗の度に利用するか放棄するかを選択できます。しかも B を選択したからと言って、自らの権力基盤が揺らぐことはありません。するとある時は停泊機内での時間を長くとる、ある時は最後まで広い空間を享受するなどと、旅に変化をつけることができます。人によりますが、自由度の高さは精神衛生上、重要です。

 

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一見不思議なことになってしまっている上級会員の優先搭乗ですが、考えるといろいろな理屈が見つかります。並んでいる上級会員たちを見て、奇妙な連中がバカバカしいことをやっていると考えるのは結論を急ぎ過ぎかもしれません。