PECHEDENFERのブログ

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上級会員への道程を変えるMiles & More

Miles & More は Lufthansa ドイツ航空のマイレージプログラムとして1993年に誕生しました。その後四半世紀。欧州の空も様変わりしています。Lufthansa ドイツ航空経営統合の結果、いつの間にか Lufthansa - Austrian - Swiss 大ドイツ航空になりました。もっとも、本人たちがそう自称することはありません。

 Miles & More がこれら3つの高級エアラインの共通プログラムになったことは自然ですが、他に Brussels Airlines、Eurowings、Air Dolomiti、Adria Airways、Croitia Airlines、LOT、Luxair も参加することに。いつの間にかドイツ人たちの Lebensraum は拡大しているのでした。めでたし、めでたし。

 

さて Miles & More の26年も改悪の歴史ですが、上級会員基準は積算搭乗マイルで量る方法を修正しつつ継承してきました。しかし 2021年 1月1日、ついにポイント制に変わります。正式な告知は Lufthansa のサイトで読むことができます。

Update Vielflieger | Miles & More (ドイツ語版)

Update Frequent Flyer | Miles & More (英語版)

特典は支払い金額ベース、上級会員の基準はポイントベース。Miles & More は、もはやマイレージプログラムとは呼べません。

 

新制度の概略

・ポイント獲得は Miles & More の参加会社、スターアライアンス加盟会社の便が対象。

・基準は2つ。キャビンクラスとフライト種別(大陸内か大陸間か)。

・得られるポイントは以下の通り。

            

エコノミークラス   大陸内   5 大陸間 15

プレミアムエコノミー 大陸内   5 大陸間 20

ビジネスクラス    大陸内 10 大陸間 50

ファーストクラス   大陸内 10 大陸間 70

 

・会員資格に要求される暦年積算ポイントは以下の通り。

 

Frequent Traveller 160 pts (and  80 qualifying pts)

Senator       480 pts (and 240 qualifying pts)

HON Circle                       1,500 qualifying pts

 

・Qualifying Pointsは、Miles & More の参加会社のフライトでのみ得られる。

 

会員資格は、翌々年の2月までのようです。

 

改革の特徴

Miles & More の参加会社と、その他のスターアライアンス加盟会社のフライトは区別されます。素直に読むとポイントが別建てで積算され、前者は points と qualifying pointsの両方に、後者は points だけに算入されます。Frequent Traveller 会員、Senator 会員になるためには、獲得 points のうち半分は Miles & More 会社への搭乗で得る必要があります。HON Circle 会員になる場合、Miles & More 会社の搭乗以外は算入されません。

 会員の搭乗実績において「自社」優遇は普通に見られます。例えば Aegean Airlines では、年間4搭乗すると必要マイルは半分になります。従来の Miles & More では、Frequent Traveller 会員と Senator 会員はスターアライアンス便の搭乗だけでなれたのですが、これが JALANA 並みに「半分は自社で」となりました。

 Lufthansa と言えば、スターアライアンスの盟主。それが連合軽視—自社重視の方向へ制度を改革します。象徴的な出来事です。

 

欧州の潮流?

地勢的、歴史的、政治的に LufthansaAir France、British Airways と競争する運命なのですが、今回の改革で3社並びます。つまり3社とも、キャビンクラスと飛行距離の2変数で計算されるポイントを元に上級会員基準が定められます。上級会員制度は、特典マイルとは完全に独立した概念になります。顧客プログラム進化の潮目ですね。

 

Miles & More の特徴は、飛行距離を2段階にしか区別しない点にあります。これにより上級会員制度は単純になりました。Executive Club (British Airways) と Flying Blue (Air France) は、(ほぼ)距離に応じた5段階になっています。Executive Club と Flying Blue ではキャビンクラス間の獲得ポイント比が一定という単純化が図られているものの、新生 Miles & More を前にすると無駄な工夫にも見えます。

 考えてみれば、フルサービスキャリアではサービスの基準は、短距離便と長距離便で大きく異なり、それ以上の差はごくわずか。コストや運賃の考え方も2種類で十分なのでしょう。収益に効くのは、距離ではなく利用回数とキャビンの種類。これを元に大胆に単純化したという背景がありそうです。

 

軽くなる一方だったエコノミークラスの搭乗がやや重みを増します。近距離エコノミークラスでも収益に寄与できるように体質改善したのでしょうか。欧州内の(公共交通機関による)空の移動は、LCCFSCのエコノミー、FSCのビジネスの3階級に変わっていますが、マイレージプログラムもその環境変化の下、進化したように見えます。

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改善?

改悪ではないようです。Senator = 10万マイル/年というイメージは非常に強いのですが、これは相当なフライトを意味します。エコノミークラスでマイル加算率 50%だったとしても、東京—FRA/MUC-ロンドンを16往復必要です。25%積算だとその倍。新制度だと積算率や航空券価格に関係なく12往復で済みます。また欧州内の移動は飛距離がないため、マイル加算ではなかなか上級会員に到達できませんでした。それがビジネスクラスなら48フライト(乗継往復なら12旅行)で Senator。だいぶ楽になります。

 極めつけは HON Circle 会員です。上級キャビン客しか相手にしなくなって久しいのですが、2021年 1月からはエコノミー客も歓迎するようです。欧州便 300フライトでOK。NUE-MUCをひたすら往復するなら、実飛行距離は 25,800 miles。数字の上では、従来の 600,000 milesから96%引きです。欧州と北米をビジネスクラス乗継往復なら、13往復。毎月往復+αで達成。上級会員が増えそうな気配ですね。

 

有利なプログラムに?

Miles & More の現在と比べると、未来は確かに楽になるので歓迎できますが、Flying Blueと比べてしまうとまだまだ渋ちんです。Flying Blueでは、欧州便ビジネスクラス乗継往復3回で Gold 会員、5回で Platinum 会員。Senator が Platinum と等しいレベルと仮定しても、2倍以上の搭乗が必要。Platinum Ultimate は Platinum の3倍の水準で、これは HON Circle と Senator の関係にほぼ同じ。結局このレベルでも倍以上大変。

 

大きな差があるのは事実ですが、どちらのプログラムを選ぶかと迷う人は多くないと思います。欧州ではドイツ語圏に縁を持つ住民、フランス語圏に縁を持つ住民は、割合しっかり分かれており、他方のことはほとんど見えません。朝食のパンからして、食べ方が全然違います。よく飛行機で移動する人間も、上級会員のなりやすさで利用航空会社を変えることはないものと思われます。

 やはり Miles & More は、ドイツ文明やドイツ語文化になじんだ人向け。これは欧州の住民以外でも同じです。ドイツ圏にちょくちょく出かける人なら、今回の改革を注視しているのではないかと思います。

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