PECHEDENFERのブログ

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上級会員制度の地域差

マイレージプログラムは改悪につぐ改悪を重ねて、今日ある姿になっています。もともと会員の搭乗マイルが特典へ交換する時の通貨として機能しました。それでマイレージ云々という用語が生まれたわけです。その後搭乗マイルは廃れ、航空券の購入金額を一部還元するポイント制が主流になっています。スーパーの顧客囲い込みと似てきています。

 一方で会員を利用実績に応じて上級会員に格付け、手厚くもてなす制度も昔からあります。その利用実績を図る方法が、地域によって独自に進化を遂げているというのが本日の主旨。世界は一様化ではなく、多様化していました。

 

北米:UAとAAの最近の変更

アメリカン航空は 2019 年から、AAdvantage の Executive Platinum 会員資格を得るための航空券購入最低金額を12,000 USDから15,000 USDとしました。日本円にして160万円超。日本風に表現すると、「エクゼクティブプラチナたるもの、最低そのぐらいはまともに買うべし」と言うことです。

 制度としては数年前から、

 

「対象マイル(換算後の飛行マイル, EQM)または対象飛行区間数(EQS)」

「対象ドル(航空券購入価格, EQD)」

 

という2条件が必要です。デルタ航空が「創始した」金額制を3大会社の中では最後に導入したアメリカン航空ですが、その後毎年のように補正しています。現在、提携クレジットカードの年間利用金額に応じて、その年の EQM の一部が免除されます。20,000 USD利用すると5,000 EQM、40,000 USD利用すると10,000 EQMです。

 

提携航空会社の搭乗でも、EQM, EQDは獲得できますが、予約クラスの他、会社によって異なると言う複雑さ。

 

さらに個別に連絡され、公表された制度ではありませんが、年末に上級会員更新にEQDやEQMが足らない場合、その会員資格の販売が提案されるようです。その金額は残りの搭乗を済ますのに必要な航空券を買うより、少し安い程度になるようです。

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以上の制度はデルタ航空ユナイテッド航空でも基本的に同じです。つまり米国の3大航空会社では上級会員になるために、

 

・搭乗実績(換算後のマイルか搭乗回数)+航空券購入金額が基準

・提携クレジットカードの利用金額に応じて条件の一部を免除

・期末には足りない分を金で解決可能なことがある

 

という特徴を持ちます。何と言いますか、複雑です。そしてドルが幅を利かせています。

 

ここに来て、United が2020年の搭乗実績分より制度を単純化します。大枠に変更はないものの、評価されるパラメーターはプレミア資格ポイント(PQP)とプレミア資格搭乗(PQF)の2つに減ります。PQPは支払い1USDあたり 1 pt。対象となる支払いは、航空券料金、サーチャージの他、座席指定料金やアップグレード料金等に広がります。Premier 1K の基準は 24,000 PQP か 18,000 PQP + 54 PQFです。

 24,000 USDを支払い(、利用を済ませたら)1K。単純化は歓迎されるものの、支払いのよい客が上級会員という点で先鋭化しています。God save our gracious dollar!

 

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欧州:LHが変わり、3社並び

British Airways は 1991年に tier point を導入して、飛行距離と航空券種類の2つの要素を1つの利用実績パラメーターにまとめ上げました。距離の分類が5段階、航空券種類が6種。tier point は30マスの表で与えられます。会員年度中に獲得した全 tier points で Executive Club の上級会員資格が得られます。ただしBAの年間4搭乗が必要条件です。このプログラムは、現在 BA と IB が利用しています。

 Air Franceも昨年4月から Flying Blue を変え、同様の制度を設けました。距離の分類が5段階、航空券種類が4種の 20 マスの表で xp が決まり、年間獲得 xp で上級会員資格が得られます。搭乗は Flying Blue 加盟会社以外にSkyteam 各社でよく、BA より単純化されています。このプログラムは、AF, KL, ROが利用しています。

 最後に残った Lufthansa も 2021年 1月より、同様の制度に変わります。ただし距離の分類はたったの2段階、航空券種類が4種の8マスの表で point が決まり、年間獲得 pointsに応じて Miles & More 上級会員資格が得られます。一方で LH, OS, LX の搭乗が半分以上という必要条件は BA や AF より強力です。このプログラムはLH, OS, LX, LO, JP, OU, EN, LG, SN, 4Uが利用しています。

 

このようにヨーロッパでの3大プログラムにおける上級会員資格は

 

・距離別、航空券種別によって決まるポイントを積算

・自社プログラム加盟会社利用についての必要条件(BA-IB, LH-OS-LX)

 

で決まります。北米より単純。しかしもっとも重要なことは、金の話が表に出ないことです。

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その他の地域:古体か欧州型

日本の2社の場合、まだ搭乗マイルを核としたパラメーターを使っています。古体を保っているともいえますが、換算法が独特で、その現実はかけ離れており、むしろ欧州のポイント制に近い制度になっています。ただし近距離で加算率が高く、長距離は加算率が低いという欧州とは逆の加重性を持ちます。近距離で低競争・高利益、長距離では高競争・低利益であるというほど単純化はできませんが、近距離路線網でLCC・陸上交通に会社存続を脅かされている欧州とは異なることが関係しているのは、間違いありません。

 また中程度の上級会員資格を一度獲得すると、その後はクレジットカードを継続することで、特典をやや簡略化した会員資格が保てる制度(JGC, SFC)があります。この場合、実質的にカードの年会費で優待されるので、まずまずお得。この辺の事情は良く知られています。

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アジア・パシフィックの有力会社の間では、Qantas と Cathay Pacific は欧州タイプです。タイ航空とシンガポール航空は、距離制を修正しつつ使っています。北米の金額式は露骨過ぎるのか、複雑なのか、Singapore Airlines の PPS 会員などを例外とし、ほとんど採用されることがありません。

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資格ポイントを購入できるなんて、「何でも買える」アメリカらしい制度ですが、Finnair が似た制度を採用しています。ただし、特典ポイントで「支払い」ます。一年に一度、搭乗で獲得したtier points の半分まで購入可能です。この制度を使うと、oneworld Emerald である Platinum 会員も維持が容易。難易度は BA の Gold 会員と同じ程度になります。あまり特典航空券に関心が無い人向けの仕組みです。 

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