PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

航空会社の顧客ではない搭乗者

航空旅客運送業のコストの大半は、客の多寡に無関係な固定費です。航空機の整備や運行だけでなく、機内サービスの維持も大部分が固定費です。したがって航空会社は、あの手この手で全席を埋める努力をします。

 

このような事情から生じた結果ですが、機内には様々な搭乗者がいます。そして「乗客」と航空会社の「顧客」は一致しません。だいたい下記のような内訳になっているのではないでしょうか。

 

(1) 航空会社から航空券を購入、あるいは代理販売を通じて購入した者

オーソドックスなサービスの購入をした者で、航空会社にとって本来の客です。歓迎される客はこのカテゴリーであり、FFPによる囲い込みの対象です。

 

(2) 他の航空会社便からの(エンドースメントによる)振替客

コストの大部分が固定費なのはどの航空会社も同じ。となると、航空会社間で協定を結び、テクニカルな理由で搭乗させられなかった客を協定会社に搭乗してもらうというシステムは、リスクの分散に有効です。この乗客も、航空会社にとっては客として認識されているはずです。

 

(3) ツアー客

この辺から怪しくなります。搭乗者は旅行代理店の商品を購入しています。航空会社は席を旅行代理店に販売しています。形式的には、搭乗者は旅行代理店の顧客であり、航空会社の顧客は旅行代理店です。乗用車で喩えると、部品メーカー(航空会社)、完成品メーカー(旅行代理店)、ユーザー(搭乗者)の関係です。

 

(4) 特典航空券での搭乗者、福利厚生の利用や任務による搭乗者

これらはツアー客以上に会社からは客とは見なされないと思います。

 搭乗距離に応じて無料航空券を提供するというFFPは、優良顧客向けのサービスでした。つまり空席にして空気を運ぶよりは、上顧客の優待に利用し、販売促進に役立てるという企業戦略です。航空会社にとってみれば、空気を運ぶぐらいなら、社員の福利厚生に利用しようというサブローチケットと同じような発想です。前者も後者も協定各社で融通し合うことにより、空席、満席のリスクを低減されているのは、エンドースメントの場合と同様です。ただし、この業界の特徴として同業者には愛想が良く、サービスが良くなるため、厚生福利での搭乗はいろいろと割が良いようです。

同じ苦しみを知る仲間?

 

今日ではマイルは販売され、協定会社でも無料航空券が発券でき、別の業界のポイントとも交換できるようになると、自社や協定他社の優良顧客ではないのに特典航空券で搭乗する者も増えてきます。

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マイレージプログラムは、もともと会社と顧客との関係が第一にあり、「上機嫌にし、財布の紐を緩ませる」という戦略の一部だったはずですが、今では会社の資金調達の多様化に貢献するようになっています。購入したマイルを無料航空券に変えて搭乗する者に対しては、空気を運ぶなら債権を抹消した方が良いという立場になります。航空券を買ったわけでもない、お得意様でもないので、扱いが悪くなるのは致し方ありません。これはイレギュラーなことが発生した場合に、顕在化しがちです。

 

これらさまざまな搭乗者、会社にしてみたらありがたさはかなり異なるはずですが、機内サービスに違いが出るかと言うとそうでもありません。というのは、航空運送業のサービスは一連の流れ作業だからです。場合分けはあるでしょうが、大企業が大人数を処理していくわけですから、やることは決まっています。たとえば日系の航空会社で、お辞儀から笑顔まで規格化されていそうなことを考えれば、明らかだと思います。「心のこもったサービス」も「上級会員向けのサービス」も、現場の話ではなく、企画の話です。

この種のイメージが強いJALが、最近現場の自発性を尊重するようになっているように見受けられます。結構おかしなこともやっていますが、いつも同じ質の高いサービスよりは、質のばらつきはあっても毎回違うサービスの方が歓迎できるのは、私だけでしょうか。

 

航空機の利用が、限られた者にしか関係しなかった時代の名残で、質の高いサービスにも時々出会いますが、この大量輸送時代、最高級旅館のサービスがスターバックスのそれに代わるのは仕方がないことだと思います。これは気軽に航空機旅行ができることの代償です。マニュアル化され、大量生産されるサービスでは、差が見えにくいため、有償搭乗にならない搭乗者が増えるのは仕方ありません。