PECHEDENFERのブログ

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エールフランスのストライキ

9月後半のAir France(AF)のパイロットのストライキは、1998年の民営化以来、最長となりました。第3四半期の数字が出た段階で、4億1600万ユーロ(約585億円)の損失になると見積もられています。(29 Oct. Les Echos)KLMの収益により穴埋めが続いている事態となっています。組合の"jusqu'au-boutiste”(結末がどうであれ、施策を極端に推し進める人)ぶりから、経営側も国民もある程度予想した結果だったでしょう。問題はまだ継続中ですが情勢は落ち着いているので、新聞記事から情報を拾い、まとめてみました。

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事の発端はLCC対策です。 以前AFは中途半端な経営戦略の発表を行いましたが、これは経営者が無能で具体的な計画を策定できないのではなく、パイロットへのインパクトを小さくし、軟着陸するためにとったステップだったようです。

欧州三大手のLCC対策:コードシェアとエコノミークラス運賃体系 - バス代わりの飛行機

事実、その後AFが自前のLCC、Transavia France(現在14機のB737で営業)への航空機の移籍と、Porto, Lisbonne(ポルトガル)およびMunich(ドイツ)の3都市をベースとするTransavia Europeを立ち上げる計画をぶちまけたら、この有様です。AFはTransavia Europeの計画を完全に引込めました。(16 Oct. Le Monde)

 

SNPL(Syndicat national des pilotes de ligne, 全国定期航路操縦士組合=ストを行っている主要な組合)の執行部は経営側と交渉を行い、合意(案)を作り上げました。これは10月17日に発表され、11月半ばに組合員により投票が行われます。内容には、Transaviaへ自発的に移籍するAFのパイロットがAFとの労働契約を維持して働くことを含みます。(16 Oct. Le Figaro)

 

SNPL側は、Transavia Franceを除く(現在の)AFグループの110席以上の全航空機は(現在の)AFの労働条件でAFのパイロットによって運航させるという条件を出しています。これは、Transavia Franceという一つの会社において同一職務で2つの労働契約が存在することを意味します。移籍するパイロットの労働条件、賃金条件を将来変更する場合、SNPLとの合意が必要という条項もあります。(16 Oct. Reuters)Transaviaではパイロットの賃金はAFと同等なのですが、労働時間がはるかに長く、RyanairやEasyJetに近い時間です。またAFでは les jours d'indisponibilité(十分な休息を取るための非番日ですが、「休日とどこが違うのか」と言いたいようです。)が非常に多く、AFのパイロットはLCCに比べ優遇されています。(16 Oct. Le Point)

 

経営側が相当な譲歩をさせられたことは明らかで、どこまでコスト削減ができるか、怪しくなってきています。またストライキ一般に対して、正当、当然な方法として国民の合意ができているフランスですが、 これら一連の報道のトーンはパイロットに対してやや冷淡です。

 

ADP(Aéroports de Paris, パリの三空港CDG, ORY, LBGの経営会社)は、AFの大規模なストの結果、2014年9月の交通量は10.4%、一日当たり6万人程度の減少であったと発表しました。欧州外との国際線は11.0%減(アフリカ-8.4%, アジア太平洋-8.9%, 北米-17.5%, 中南米-23.8%など)欧州便が3.6%減、国内便は25.4%減でした。(15 Oct. Le Figaro)

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一方で漁夫の利を得たのは、当然のことながらSNCF。スト直前の時点で、乗車券の売上げは前年同時期より3%増です。実は6月のSNCFのストでは、AFの搭乗率が2.5%上がったので、お互い様というところです。もちろん他の航空会社も大喜びです。ちなみにEasyJetは、Paris-Toulouse便の供給座席数を1,300席増やしました。Toulouseは最も深刻にストの影響を受け、その時点で80%のAF便が運航を中止する予定でした。(17 Sept. Le Figaro)

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Toulouseは欧州の宇宙航空産業の拠点、Airbusの本拠地です。Parisからの鉄道の便も、直線距離の割には悪い都市です。そこが最も「ないがしろ」にされてしまうというのは、どうしてでしょうか。

 

日本にも影響が大きかったLufthansaのストもLCC対策に伴う、パイロットの待遇悪化が原因。こちらも現在までに1億7000万ユーロの損失です。2巨頭の大規模なストライキは、欧州のレガシーキャリアが相当追いつめられていることを象徴しています。