PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

ご搭乗の多いお客さま vs. お支払いの多いお客さま

多頻度で利用する客は良い客です。昔は間違いなくそうでした。しかしRonald Reaganの共和党政権以来、航空輸送業が自由化され、徐々に価格破壊が進行しました。現在ではエコノミーの搭乗では利益が出ません。企業が拡大再生産を指向するのは本能のようなものですが、利益を出さねば株主は納得しません。マイレージプログラムは顧客を囲い込んで多頻度利用を促す装置ですから、拡大再生産へは有効でしょう。今日の問題は、それが利益を生み出すことにあまり貢献しないことです。

 

(1) 距離基準から金額基準への流れ

デルタ航空のSkyMilesでは、今年から支払い金額ベースの数字がマイルとして積算されます。big dataの処理が可能になり、多頻度利用者の優遇の程度とその客が生み出す利益との間に相関が無いか、逆相関があることが明らかになったと言うことです。Richard AndersonがCEOになって以来、大胆な改革を次々進めて、デルタ航空はすっかり高収益体質になっていますが、SkyMilesの変更はまさしくその改革の一部です。

 ユナイテッド航空のプログラムMileagePlusも追随して、数字までSkyMilesに合わせた変更を行いました。これは自社で顧客の動向を解析したのではなく、猿真似だろうと思います。(知的財産が主張されない)同じ制度の導入で、自分たちの会社も良くなることが明らかなら、最適化にコストをかけるよりさっさと導入するというのも立派な経営判断で、真似は非難されるほどではないと思います。

 マイレージプログラムでは、搭乗したマイルが積算されます。そして距離に応じて必要マイルが異なる無料航空券に交換できます。利用実績も移動距離、報償も移動距離で数値化されるわけです。SkyMilesでもMileagePlusでも前者が金額ベースに変わりました。後者の報償部分も金額ベースに変わると噂されていますが、すでに金額ベースになっているプログラムもあります。ニュージーランド航空のAirpointsでは、航空券購入時に1ポイントを1 NZDとして使います。一方ポイント積算は、支払い金額ベースではなく、飛行距離(と言うか区域)、予約クラスに金額の補正が入っているような仕組みです。

 

デルタ航空のようにプログラムを最適化することが正攻法ですが、ほとんどの大手で多頻度長距離を飛ぶ客と利益を生む客とが異なることはわかっていたはずです。実際、多くの会社でマイレージプログラムの原理は変えず、今まで固定値だったところを変数に変える等の改革を行っています。例えばこうしたプログラムにFlying Blueがあります。積算マイルはファーストで300%、格安エコノミーで25%という極端な勾配をつけており、わざわざ金額ベースを導入するまでもないでしょう。一方上級会員になりやすいのは相変わらず。Gold会員で175%、Platinum会員で200%のマイル加算があるので、拡大再生産を指向する制度も残っています。

 

(2) 利用搭乗クラス別に行う上顧客の認定と優遇

私の関係するところではBAのエグゼクティブクラブの2015年の改革が、利益追求を指向したとも受け取れますが、どうもBAやQFなどのプログラムは別の発想が根本にあるようです。搭乗クラスを中心に発想しているように思えるのです。

 多頻度搭乗する客には、一クラス上のサービスを一部提供してやるという考えです。エコノミーに多く乗る客にはビジネスのサービスの一部を、ビジネスに多く乗る客にはファーストのサービスの一部を提供するという優遇措置。この基本方針は、BAだとBronze会員がエコノミーの高頻度搭乗(25回/年)で到達できること、Silver会員がエコノミーの高頻度搭乗(50回/年)または、近距離ビジネスの8~15回の搭乗で到達できること、Gold会員は長距離ビジネスクラスの高頻度搭乗で到達できること、この会員種別と搭乗パターンの組合せ以外はあまり現実的ではないことから推定されます。ここで長距離=欧州から欧州圏外。おおむね2,000 miles以上です。近距離ビジネスと長距離ビジネスではサービスのグレードが異なることを考えれば、会員レベルと優遇のサービスレベルは良く対応します。

 搭乗クラス別に「多頻度で利用する客は良い客」を考えているわけです。つまりエコノミーの客と言うカテゴリーで上顧客、ビジネスの客と言うカテゴリーで上顧客を選び、それぞれのカテゴリーで優遇するのです。こういう発想に階級意識がちらつきます。

 しかしながら、ビジネスをよく使う客の囲い込みができるので、利益を生むプログラムとしても機能しているはずです。あからさまに「カネ、カネ」とならなくても、何となく対応できているところに欧州流の洗練を感じます。老獪という言葉がぴったり来ます。

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(3) 最も利益を生む客へは無策

顧客の優遇で効率が良いのは自社サービスの無料提供です。「良い顧客」に上の搭乗クラスのサービスの一部または全部を提供することには、経費がほとんどかかりません。

 マイレージプログラムが金額式でも階級式でも、問題は最上キャビンクラスの利用を促す決め手が無いことでしょう。経費があまり発生しない範囲で、ファーストの客に付加して喜ばれるサービスはありません。出せるものは全て出してしまっています。

 

利益の小さい航空券を売る仕組みは色々あって、利益の大きい航空券を売る工夫が無いのは、自然に考えれば大問題です。無いと断定するのは、あれば宣伝して外から客を引き込むはずな一方、どの航空会社も大した優待内容を公表していないからです。

 SkyMilesでは、Gold会員に長距離ビジネスクラスのサービスの一部を提供する形になっています。そして長距離ビジネスクラスが最上キャビンです。それ以上のtierを目指す動機は、マイルとアップグレードバウチャーぐらいしかなく、これも「特に理由が無ければエコノミーを使う」顧客にしかアピールしません。常にビジネスしか使わない層には魅力に乏しいはずです。SkyMilesではさらにPlatinum, Diamondと2つも上位tierがあるのですが、こういう上級会員はどういう意識でデルタを選ぶのか知りたいところです。功利的な理由だけでは説明できない気がします。

 他の航空会社でもファーストばかり乗る客には、多頻度利用して受けられる優遇というものがほとんどありません。シンガポール航空は多額(ビジネス以上の航空券の年間購入金額 > 25,000 SGD = 約2,250,000 JPY)を払う顧客用にPPSクラブを別に作っていますが、その優待サービスは、年会費が高めのクレジットカードの付帯サービスのようです。財布の紐を緩めさせる効果があるのでしょうか。

 キャセイパシフィックでも、Marco Polo Club(MPC)が利益重視型に変わるという噂がありましたが、顧客リストを元に別組織を立ち上げるかもしれません。この会社は複数の顧客リストを使っている、あるいは顧客別に優待サービスを実施しています。MPConeworldとは関係なく優遇するとか、招待制アンケートサイトを立ち上げるとかの取組みにその傾向を嗅ぎ取ることができます。MPCだけが重要顧客ではないという立場を明確にすると、会員離れが起きそうですが、キャセイでも「利益を生む客が良い客」は間違いないので、今後もいろいろ工夫するでしょう。PPSクラブ以上に機能する組織ができることを期待します。金額ベース基準をPPSよりかなり低くして、多くの顧客が該当するようにし、MPCとは別の魅力を持つようなサービスを実施する必要があるので、ハードルはかなり高いと思います。

 そもそも複数のサービス体系、複数の顧客層が並列している方が、経営環境の変化には強いはずなので、こうした変化は良いことです。

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