PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

国境近くの都市と空港:アルザス(=エルザス)編

フランスという名前はフランク族に由来します。王の一人だったクロヴィス1世が、計により手中に収めた領土が起点と認識されています。1,500年以上かけて現在の中央集権国家を形成しました。当然、国境に近い地域はフランスではなかった時の歴史が長く、過去の記憶ははっきりしています。このことは、現代でも人の移動に影響を及ぼしています。外国からは見えにくいけれど、通奏低音のように続く思惑の歴史。そういう大陸ならではの空港アクセスの事情

 

アレマン人の居住地アルザス

日本ではドイツ—フランス間に絶対的な国境を引いてしまい、それから外れたことを(普通ナチスと関連させ、)悪と考えがちですが、これは見識不足。民族の分布と国境は常に一致せず、ドイツという国家もせいぜい150年しか存在していません。ゲルマン系諸民族をドイツ民族としたのは、政治のプロパガンダ。実体があるとも言えるし、虚像とも言えます。

 アレマン人の居住する土地は現在、アルザス、「ドイツ語圏」スイス、リヒテンシュタイン、オーストリアのVorarlberg州とドイツのBaden-Wurttemburg州です。アルザス語、スイスドイツ語、シュワーベン語は、響きが全然違いますが、文法や語彙は確かに似ています。例えば簡単な解説書

Elsässisch - die Sprache der Alemannen | Reise Know-How Verlag

Schwiizertüütsch - das Deutsch der Eidgenossen | Reise Know-How Verlag

Schwäbisch - das Deutsch im Ländle | Reise Know-How Verlag

を読めば、その辺のことは実感できます。アレマン人は民族統一とか、自分たちの国家形成には全く関心がないようで、歴史をいくら調べても、統一国家という話は見つけるのが困難です。民族分断の悲劇だなんて、見当はずれの同情です。カタロニアやバスク、コルシカのような独立運動も聞いたことがありません。自分の住むところが戦場にならなければ、為政者には頓着しないのでした。

 

一方で言語、習慣などは明らかにゲルマン系です。もし民族と言う概念が有効なら、アルザス人をドイツ民族に分類するのは当然です。アルザスでも朝が早いとか、学校の後のスポーツクラブが繫盛しているとか、「ドイツ人」の生活習慣が広く見られます。もちろん食文化や建築もVosgesを超えると全然違います。民族衣装も健在、南部ゲルマンなのです。

 そもそもフランス語で、ドイツはAllemagne。アレマン(les Alemans)が語源です。アレマン人の土地から向こう側は、一番近い連中の名前で呼んだのでした。

 

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あの朝早い習慣は、原初的な死生観とか肉体と魂の認識というレベルまで遡りそうです。信仰のレベルではないことは確かです。

 

為政者が住民に気に入られようとするのは当然。たまにセンスのない政治家も出ますが、残虐な為政者というのは、ふつう次の為政者の作り出す虚像です。ドイツがアルザスを統治した時期も、住民の生活にはそれほど変化はなかったと考えるのが、統治リテラシーです。

 現在はフランス共和国の一部として、まずまず栄えるアルザスアルザス語の消滅は少し不安ですが、統治者が変わることを望むアルザス人は稀だろうと思います。一方でドイツも嫌いではありません。標準ドイツ語を不自由なく(”Wir können alles. Außer Hochdeutsch.”がモットーのシュワーベン人よりも上手に)話せるアルザス人は非常に多く、ライン川をまたいだ交流も盛んです。隣の町に行くようにドイツへ出かけます。ドイツ制作のテレビ番組も、普通に視聴されています。ドイツの方がフランスより失業率が低いので、アルザスの失業者には職業レベルの標準ドイツ語をトレーニングするコースが人気です。

 

もちろんドイツ側では、いつでも歓迎。交流が盛んになることは、文化的にも経済的にも重要です。EUの時代、領土的な野心は意味を持ちません。遠慮なくラインの対岸から、秋風を送ります。

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アルザス人向けの空港、FRA

Strasbourgにもまずまずの空港はあります。しかし、彼らが長距離便を利用する時はFrankfurt am Mainが便利です。Strasbourgから210 km、直行バスで3時間です。価格は11~17 EURで1日7便もあります。これなら隣国であることに何も不都合はありません。

 Lufthansaも自社便として、アクセスバスを運行しています。1日1往復です。バスだけ利用すると49 EURとお高いのですが、航空券の一部としてフライトを組み合わせる場合、実質的には無料になるのではないかと思います。

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アルザスの隣、ロレーヌの中心都市、Metzも同じような状況です。MetzからFRAまで230 km。一日10往復ほどあり、片道11 ~ 25 EUR程度です。

 

これらの接続バスの価格は、次のアクセスと比較すれば格安であることが良くわかります。

・Paris Charles-de-Gaulle空港の代表的な都市アクセス、Roissybusが 11 EUR

・Frankfurt空港からStrasbourgまで、ICEで2時間10分程度で約 60 EUR

・Frankfurt空港からMezまで、列車を乗り継ぎ3時間30分程度で約 66 EUR

バスは鉄道に比べて、スピードで不利というほどではありません。

 

もちろん需要もあるでしょう。しかしドイツが国境の先の "Land" に対して、官民を問わない特別な配慮を行っているとしか思えません。こういう特別便利なサービスを、外国人も使わない手はありません。ただし、現地住民以外には見えにくいのですね。日本からフランス行くのに、ルフトハンザの直行便なんて、そもそもルートとして思いつきませんから。