PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

「唯一の日本の」5ツ星エアラインANAへの文句

Startrax 5つ星。強者 ANAいろいろ文句は聞きますが、結局よく利用されています。文句が出るにもかかわらず、世界の人気評価でトップクラス。それが事実です。考えようによっては、問題が解決されたら凄い会社になります。ANAはヘリコプター輸送から開始しました。2輪車からスタートした町工場ホンダも、4輪、そしてジェット機を開発、販売にこぎ付けました。ANAは、現在荒削りの段階かもしれません。

 

旅の達人たちの文句はさておき、Pechedenferも言いたいことはあります。体験から受けた印象とそれを元にした勝手な推論です。実はこの会社、心底感服する点もあるのですが、強者を褒めてもつまらないので止めます。

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無用な感情の共有

ANAJALの違いは国内では時々話題になりますが、国際的にはどうでも良い仔細な問題。これがANAには分かっていないようです。昔からJALへの対抗意識が強かったのですが、あらゆる場面でこの意識が共有され、表現されるのは異常です。例えば英文サイトに出てくる広告。

ANA is the only Japanese airline to receive a 5-Star rating from SKYTRAX. | ANA SKY WEB

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これは英語。つまり日本人以外の世界の顧客に向けたメッセージです。「唯一の日本の」なんて全くどうでも良い話です。他社を意識するのは、経営陣、投資家の間にとどめるのが健全なセンスです。客にそういう側面を出してどうすると言いたくなります。

 この体質は、時折表面化します。例えば、ANAパイロットがJALに対する「嫌悪」をFBに表現した事件。

全文表示 | 「倒産して税金でやってる会社…調子乗ってんじゃねえよ!」 ANA機長、JALのフェイスブックに暴言 : J-CASTニュース

「酔っ払ったついでにやっちまった」というような話で、処分に発展するような問題ではありませんが、考えれば、考えるほど不思議な事件です。与えられた労働を確実に行い、相応の報酬を雇用主から受け取っていればよい者が、どうして同業他社に対して特別な感情を持つのでしょうか。こんなものは、経営陣が押し殺していればよい歪んだライバル意識です。現場の労働者まで共有しているのは異常で、百害あって一利なしではないかと思います。

 

この辺のANAの社風は理解できません。

 

この「5つ星」広告は別のことも示唆しています。かつては「JALはもはやライバルではない。」とか「今の目標は○○エアラインだ。」というステートメントが、経営者の口から出てくることが多かったのですが、この「追いつけ、追い越せ」のみが経営哲学という状態が変っていないことです。勝利宣言のようなものですね。

 

センスのない広告

Singapore AirlinesやCathay Pacificもそうですが、白人男性に媚を売るような若い女性客室乗務員の広告が目立ちます。ミュンヘン空港の小冊子(2015年版)に出した広告。

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これはアジアの他社に「追いつけ」で真似したのでしょう。ANAだけの問題ではありません。先駆者がいます。さらに言うと、Munchen空港自身も男性の妄想を刺激する系統の広告を出しています。男の願望が下らないのは今に始まったことではないと、大目に見る場面なのかもしれません。それより疑問は、ANAに独自の宣伝センスはあるのかということ。

 

メッセージの受け手を第一に考えるセンスが欠如していることは、上の「5つ星」広告に現れています。一方、広告で大問題を起こしたことがありました。TVコマーシャルで人種差別ビデオを放映、非難され、撤回したことは記憶に新しいところです。

Nippon airlines apologises for 'racist' advert that pokes fun at Westerners' big noses and blonde hair | Daily Mail Online

ビデオも見ることが出来ます。

Racist Japanese ANA (All Nippon Airways) Commercial - YouTube

プロの広告屋が付いて、どうしてこういう問題を起こすのか、不思議な話です。担当部署は、国際感覚が壊滅的なほど不足しています。

 

もちろん、これはセンスが独自のものだったからこそ起きた問題です。そして独自性が人種差別だったとは、先行き暗い話です。

 

偏った顧客層

ANAの顧客は、サラリーマンに偏在していると思います。経営的には長所です。それ以外の人には、居心地が悪くなりがちなことが欠点です。ある特徴が同時に長所と短所になっている例です。

 この会社は、先発の国策航空会社ではありません。規制の強い産業では、規制緩和や社会状況の変化を機に後発組が参入しますが、何かに特化するのが定石です。先発組は規制に守られる一方、政策がらみのビジネスを行っているため、無駄に太っています。市場を読んで、高収益が期待できる部分に特化するのは、参入組の基本です。ANAは国内線では先発隊になってしまったので、結構苦労していると思います。

 ANAはことさら意識したのではなく、自然とそうなったようですが、日本の空の移動でマスを占める被雇用者層を上手に取り込んだと思います。出身大学、雇用主、賃金、住居、自家用車から、果ては腕時計やスーツまで隣人と比較したがる人たち。向上心があり、役に立たないハウツー記事・本・講演が好きで、消費の流行への関心が高い層です。階層が一様だと、マーケティングもしやすいと思います。一方で、ANAは働いていない人、一次産業従事者、高度専門職従事者などを取りこぼしていそうです。そう感じた機会は以下の通り。

 

・国際線ファーストクラス利用者向けの Suite Lounge。一番の騒音は、数多いフロア係の足音。硬質な靴底で石のパネルの上を歩き回るのですから、騒がしいことこの上ありませんでした。ノイズの原因が完全に従業員にあるにもかかわらず、不平を言う客が居ないとすると、このファーストクラスラウンジの顧客は大部屋で働いていたり、騒がしい現場や大都市の通勤に慣れっこだと推察できます。個室で仕事をする人間や自然相手に仕事をする人間は、例外的なようです。

 

・日本語が、スターバックスマクドナルドなどのマスサプライヤーのそれです。平凡、平坦、無個性です。「ならでは」の言葉遣いは、全く期待できないと感じられます。ANAの顧客はマスに向けた「マニュアルのサービス」が好きで、そうではない世界(料金の多寡に関係なく、いろいろあります。)は、ほとんど知らないのではと思わせます。

 

自動販売機やラーメンなどが至る場面に登場します。もちろんこれらの存在自体は、卑下されるものではありません。組合せが変でも気に留めない所が特徴的で、供給者として繊細さが欠落しているように感じられます。

 京急羽田空港国内線ターミナル駅のホーム待合室。壁で囲われ、飲料の自動販売機があるのは大都市の駅ホームですから普通。こういう場所で、JFK便のビジネスクラスを模型まで用意して宣伝するところがANA

 例えばレクサスが新シートを開発したとして、こういう場所で特別展示を行いますか。ANA北米線ビジネスクラスの顧客層が見えてきます。

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ANAの世界が心地よいか、違和感を感じない客を相手にしていればよいのでしょう。それは、航空券を買う層の大きな部分を占めるかもしれません。上質なイメージは、時として経営の足を引っ張ります。お高く留まっているより、(一人当たりが払う金額)X(運ぶ人数)を大きくして、コストを削減することが必要なのは当然。他の階層は金があっても少数。または数が多くても金はない。下手に取り込もうとすると、コストばかりかかり儲からないという事態に落ち入ります。見切りが必要です。この点、ANAは上手です。

 

会社が今後どう成長していくかですが、曲がり角に来ていることは意識しているようです。A380を武器にJALの牙城ハワイ路線に攻め入るようですが、ここはANAの得意とするサラリーマン路線ではありません。老若男女、幅広い層が相手です。広く薄く利益を得るために、相当の仕掛けが必要なはず。どういう戦略で参入するか、Pechedenferは期待しています。