1987年創立
Aegean Airlinesは、今年で30歳になります。Emiratesが1985年創業ですから、それよりも若い会社なのです。2010~2013年にはOlympic Airを買収し、現在2つのマークでギリシャの旅客空運を一手に担っています。このOlympic Airですが、前身のOlympic Airlinesが1957年の創立。2009年に破綻して会社は変わりましたが、ロゴ等は引き継がれています。ギリシャのnational flag carrierだったのです。
新参者が業界古参を傘下に入れる場合、勢いがある以上に経営がしっかりしており、政治力がないといけません。Aegean Airlinesは、西側キャリアが行う「大企業の責任」的な活動も行っています。それに加え、他の産業も巻き込み、ギリシャ経済に存在感を示すインターフェイスに育ってきています。その点においてユニークです。
以下はOlympic Airと合わせてた数字です。従業員は2,300人、33の国内就航地、111の国外就航地を61機が運航しています。45の国へ就航しています。ギリシャの航空旅客の95%を押さえるとして、EUから許可がなかなか下りなかった買収劇ですが、買収後は寡占となる以上に、絶対的な規模もそこそこ大きくなりました。
Air Berlinは130機で114空港へ就航。そのだいたい半分の大きさになりました。路線の性格がまるで違うので、単純に比較できませんが、JALの数字は160機、21カ国、92就航地です。
国家や地域への影響力の拡大
個人的に、ギリシャの全体への影響力が大きくなってきていると感じられる点をあげます。
(1) Miles+Bonusの提携先は、ほとんどギリシャ国内(+キプロス)ですが、喫茶店チェーンから博物館、無数の独立系ホテルやレストランが含まれます。国際巨大チェーンの外にある施設では、旅客の紹介が非常に大切。Aegeanの広範な提携は、国の観光業の首根っこを押さえる形となっています。そして観光業は、ギリシャの主要産業です。ホテルとレストランを除いた提携先の具体例は以下の記事にあります。
ホテルとレストランは単なるリストにしかならず、記事化できません。
JALとANAも国内提携先がずいぶん幅広く多様です。この点でM+Bと似ていますが、かなり例外的だと思います。例えばAF-KLMが Carte Carrefour や fnac+ と提携するなんて事態は想像できません。JAL, ANAとAegeanの違いは、前者は国内消費者を対象としているのに対して、後者は海外からのバカンス客の取り込みが重要であることです。観光客の数が多く、一般に滞在期間が長いため日常消費へ向うためです。
(2) 2016年5月より ”Closer to Greece” を開始しました。これはギリシャの独自性を世界に紹介する構想(initiative)です。月替わりに地方を重点的に紹介、地域経済と地域社会に恩恵をもたらすことを目的とします。
地域の生産者と提携し、一月に一ないし二地方を紹介します。機内を地方のイメージ、カラー、香りで満たします。同時に全てのラウンジ、機内食でその地方の特産品を提供。更にビジネスクラスでは、会社の提携シェフによる特別メニューのオプションが提供されます。これはそれぞれの地方のレシピを元にした料理となります。
さらにそれらの地方のワインも提携しているMWによって選ばれ、提供されます。12月のワイン。
機内ではその地方のイメージビデオを集中的に流します。
12月はEpirusでした。
こうした活動は、国家レベルで大きなインパクトをもたらします。
こうした地方の紹介に、キプロスが加えられるのは時間の問題でしょう。行政や社会のバックアップがあります。EUすら有利に動く可能性があります。発展が遅れているバルカン半島の国々へもこのinitiativeを広げることも難しくありません。
(3) ギリシャ特産品の販売仲介を行っています。購入者は外国人旅客ですが、2年目にして5,500人を越える客が利用したと言うことですから、なかなか盛況。このFlipse tousというinitiative、すでにキプロスも対象に入っています。
農業生産品のネット直販も日本では盛んになりつつありますが、ギリシャでは国外への販売が重要。その場合、情報伝達の困難さが大きな障害となるでしょう。フランスやイタリアではないのです。Aegeanは、無数にある零細農家と欧州中の消費者との間のインターフェースを構築したのです。国の農業の出口に進出することにより、影響力を拡大しています。
またこのシステムがよく機能すれば、周辺国家も話に乗ってくる可能性すらあります。本質的には拡大だけですから簡単です。未来への成長も見えます。
(4) 会社と地域のブランド化に熱心です。機内誌Blueは立派な冊子で、機内整備の際には、傷んだ冊子を積極的に新品に交換しています。こういうところではコスト削減は行わないようです。
機内販売が行われるAegeanのロゴ入りのボールペンや時計は、ブランドが確立している会社の手によるものです。
機内誌でワインの紹介も贅沢に行っています。機内やラウンジ等で提供されるワインをそれぞれ1ページ、カラーグラビアで説明。ここだけ見ると、Qantasがオーストラリアワインを紹介しているようです。ギリシャワインの評価は何世紀も低いままであることを考えると、このイメージ向上への努力は特殊ですし、大きな挑戦に見えます。
ワインに限らずギリシャのイメージは確立していて、農作物も観光地も新鮮味がありません。新風を吹き込まないと廃れていきます。そういう状況で懸命になっている、そんな企業イメージが浮かび上がります。
ユニークで堅実
4つほど気づいた点を上げましたが、こうした企業活動が存在基盤を堅牢なものにすることをAegeanは知っているようです。国家としてのギリシャが破綻しても、土地と民は残ります。土地と民が必要とすれば、Aegeanも残ります。
一方、事業拡大に自ら制限を課していると考えられる面もあります。例えば、地域航空会社であることは徹底しています。2,000 miles以上の長距離路線を一切持たないこと、観光業における国際チェーンの巨人との提携がほとんどないことに表れています。チャーター機も持っており、富裕層へのサービスも提供する会社にしては、何となく地味なのです。何が無理で、何が可能かよく理解しているのでしょう。
スターアライアンス加盟から数年間、FFP上級会員資格への基準を異常に下げ、顧客を獲得した手法もユニークでした。振り返って思うと、知名度の低い地域航空会社として強力な一手でした。
目下のところ赤字続きは気になりますが、新進の気質に富み、政治力のある経営陣という気がしています。知れば知るほど興味がわいてきます。