PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

JALのドリンクメニュー崩壊版

国内線ファーストクラスのお品書き

JAL国内線ファーストクラスの機内食では、選べる皿はありません。食べるか食べないかの選択だけ可能です。その反面、乗る便によって種類は細かく変わり、

(1) 常に羽田発と羽田着で2種

(2) それは洋食と和食

(3) 朝昼晩で別メニュー

(3) 10日で内容変え

となっています。同じ便を毎日利用するとか、1日に6本搭乗するとかしない限り、同一メニューには出会わないようになっています。

 

時々、国内の優れた旅館等とタイアップします。その期間には旅館のパンフも配られています。意欲的な試みです。確かにそこに行ってみる気が起きます。

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飲料もタイアップに合わせます。旅館が岡山だと、岡山の日本酒がリストに載ります。(ちなみに和食の場合、米の産地も都道府県を一致させるようです。)またどういう頻度かわかりませんが、ドリンクの入れ替えもかなり激しいようです。

 そういう状況で、いちいちメニュー冊子を作るのは大変立派。立派なのですが、編集、校正が追いついていないようです。

 

1月中旬のドリンクメニューです。英語版。

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ANAではないので、これを手にした時、ネタ探しを考えていたわけではありません。しかしよく見ると、JALも惨憺たる状態。

 一部の客がここぞとばかり注文するシャンパンに限り、しかも目立つところだけ指摘します。複合的に壊れていて、指摘にはキリがありませんから。

 

パッと見ても、1つ目のNicolas Feuillatte Brut Réserve 200 ml では、accent aiguが正しく入っているのに、2つ目のCuvée Royale Brutでは抜けていることが目につきます。cuvéeは綴り間違いが起きやすい語ではなく、少なくとも仏語では珍しい誤植です。

 実は、これが疑惑の始まりでした。

 

わずか9行の中に...

壊れている文だというバイアスを持って読んでみると、Nicolas Feuillatte Brut Réserve 200 ml の第一文からやらかしています。

 

"Number one share in France 11 years in a row after only 30 years in business Established in 1976, Nicolas Feuillatte enjoys a marvelous place as the number one champagne maison in France."(原文のまま)

 

先行する名詞句は主語と同格。提示される情報(Number one)も主節で言っていることと同じ。「取扱量フランス一番であるNicolas Feuilatteは、フランス一番のメゾンという名を欲しいままにしている」ということ。書く先から何を書いたか忘れている作文。2つの number one の内容が大きく乖離すれば、問題はやや小さくなりますが、ここはどう見ても同じ。

 第ニ文は it で始めて、前後のつながりを悪くしています。この代名詞の内容がそれ以前の文に出現しません。第一文は作り手、itはその生産物です。どこに it の正体が隠れているかと探すと、表題でした。小学校の先生に直されそうな作文です。こういう場合、第二文の書き出しは、生産物を明示した形で主語にし、短く煌びやかな形容を添えます。そうして読者の関心の的を、作り手からその作品へ素早く、確実に変えます。これが紋切り型の形式。

 本文最後の this high-quality cru も意味不明。cruは土地の区画(Champagne地方では村だったりしますが...)を指します。この文章のどこに土地区画を特定する情報がありますか。

 

なお Nicolas Feuillatte は union de coopératives(農業組合連合会)です。CV-CNF (Centre viticole-Champagne Nicolas Feuillatte) という略号が使われる全82組合、5,000以上の農家から構成される巨大組織。シェアトップとは「物は言い様。」どうせ彼らの自己紹介をそのまま持って来て、変に加工したのでしょうと、仏語を話す人間は推察できてしまいます。こうした巨大組織は、広域から原材料を集め、品質を平準化し、安定した生産量を保証します。価格も抑えられます。cru 限定と真逆の取り組みなので、なおさらこの呼称の利用に違和感があります。それに maison も詐称になりませんか。大丈夫ですか。

 

それから2つ目のシャンパンでは、名前に欠落がありそうです。作り手を特定する情報がシャンパン名に示されない*のは、許容範囲を越えます。本文を読むとJoseph Perrierのものだということが分かります。

*Champagne大手でこの名前で出しているのは、Joseph Perrierだけですが、Cuvée Royaleという名前がありふれている点に問題があります。Champagne地方で排他的に使えるかどうかという問題ではありません。

 Nicolas Feuillatte Brut Réserve 200 ml に比べて、品物そのものの表記、本文の長さが大きく異なり、メニュー全体のバランスが欠けています。

 

全体として、冊子のスペース不足に対して、どこを削るか十分検討せずに切り詰めた印象を受けました。

 

無理はほどほどにした方が...

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上に書いたことは英語の文法、綴り、語法の誤りではありません。編集の時間不足が原因なのは間違いありません。この任務に従事する人間の数に比べて、改訂が頻繁過ぎるようです。

 機内食とドリンクの高頻度な交代は、確かに強力なアドバンテージ。これはそのままで、メニューの編集は簡素化してはいかがと、要らぬ世話を焼いてしまいます。Les Confréries du Champagneには悪いのですが、このクラスのシャンパンなんて、代り映えしません。ガチャガチャ説明する必要なんて無いでしょう。名前と容量だけの表示にすれば良いと思います。おそらくそうした方が、JALに好ましい客層を引き寄せ、JALに好ましい客を育てる気がします。

 

立派な修行僧の皆さんは

搭乗中にドリンクメニューの説明のあら捜しなんかしない方が、精神衛生上良いと思います。Pechedenferは本当にため息が出たので、客室乗務員に声をかけられるところでした。