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ANAの機内サービス:アルコール

マスメディアの伝えるところ

6年連続「5スター」、ANAにまた災難です。今度は奉公人に裏切られました。4月にパリ支店長にしてやった社員が、自社NH216便で出張移動中、隣の客に医療措置を要するケガを負わせました。事件は10月2日に起きましたが、こんな社員、言語道断と即刻クビ。

ANAパリ支店長、機内で酒酔い…女性客が負傷 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

記事のソースはANAにあるようで、複数のメディアが同じように報じています。

 ANAは「警察が捜査中なので詳細は明らかにできない」と詳細説明を拒否しました。ところが、それによりパリ支店長が刑事事件を起こしたことが一段と強調されました。「暴行」、「傷害」という用語が記事に現れ、企業イメージが下がることは阻止したものの、そこで払った努力を自分で台無しにしました。少なくとも凡人の目には、そう映ります。

 よく使われる「捜査中だから」という回答拒否が使えるからといって、このケースでは墓穴を掘ることに気が付かないなんて、6年連続「5スター」の広報にはありえません。社の「至らなさ」を顧客にだけ伝えたのでしょう。社員も顧客もエクセレントなANA、記者会見も一見 inconsistent になります。凡人からかけ離れた言語に慣れている顧客に向けのメッセージだと考えれば、さっぱり要領を得ない広報戦略も納得できます。

 

ANA自身のプレスリリース

平均の2倍程度の世帯所得、優れた知性持つだろう顧客が相手。凡人には理解困難な言語を使うのは当然です。そんなANAにも、社に相応しくない社員が紛れ込むことがあります。発見したら即クビです。そして解雇後は、在籍時のいかなる実績に関しても「弊社元社員が...」と記録を書き換えるようですANAにはそんな社員は居ないはずだという信念を事実にする努力。普通の企業にはとても真似できません。

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凡人には、事件時に男がANA社員ならば「弊社社員が...起こしました」が正しい日本語なのですが、ANAは違います。6年連続「5スター」は時の理解も Einstein 並みだと思っているのか、時空に関する不確定性を自由自在に操るANA。お詫びの原因が「事象」ですからね。今さら因果律論争でもありませんが、凡人は彼我の差をよく認識する必要があります。

 そしてANAの言語では、飲酒の上、婦女に怪我を負わせ、警察の厄介になるという行為は、「隣席のお客様にご迷惑をおかけする事象」と表現します。普通はこうなりませんが、何しろ6年連続「5スター」ですよ。ANAの公式発表は国語審議会の答申より権威があるのではありませんか。

 「警察が捜査中なので詳細は明らかにできない」ぐらい重大性がある「ご迷惑」ってどんなこと?なんて、疑問を持っては無礼千万。ANAは Inspiration of Japan なのです。日本の霊感にけちをつけるつもりですか。

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具体的に何をしたのか隠された状態のパリ元支店長の行為ですが、機内で摂取したアルコールの生理作用が誘因にあることが報道でもほのめかされています。とすると、軽くて

 

「ふらついて倒れそうになり、手をついたところが隣席女性の頭部であり、当たり方が悪くて頚椎捻挫を起こした。」

 

というシナリオ、普通は

 

「些細なことから隣席女性に激高し、暴行した」

 

というシナリオ。さらに凶暴なシナリオも考えられます。いずれにしても刑事事件の捜査ですから、慎重に調べる必要があります。それが人権と言うものです。

 女性が被害届を出すかどうかによっても、犯罪性は変わります。したがって普通の組織なら捜査結果を待って処分を下します。しかし昨年まで日本唯一の「5スター」だったANAは凡人には想像もできないほどの高い視点を持つがゆえ、直ちに諭旨解雇しました。「あんしん、あったか」を標語にとどめず、社員を大切にする会社であることを思い出せば納得できます。相応しくない社員は見つかり次第「元社員」に名称変更、最初から他所の者だった扱いにしてそれ以外の社員を安心させます。

 

ANAのサービスとスカイトラックスの評価

ネットの記事に寄せられたコメントに興味深いものがありました。6杯のワインで酔っ払うのは酒に弱いと断じたものです。個人的な経験を基にして恐縮ですが、ANAの場合、ワインを大量に注ぎます。やや大ぶりのグラス(Riedel Oシリーズを思い浮かべて下さい)を使い、一注ぎで7、8割一杯にします。「ワインの香りを楽しむ気取り屋なんて、ANA の客ではない」という無言の主張なのかどうかはともかく、ANA機内の6杯は高い確率でボトル1本の量を超えます。

 ANAがパリ支店長に抜擢するだけのことはあり、機上でワインを鯨飲とは素晴らしいマナーですが、この種の客は恐らく搭乗前のラウンジでも同じぐらい飲んでいます。ANA のエクセレントな客室乗務員なら仕方ありませんが、冷静に新聞記事が読める凡人には、そういう想像力が欲しいところです。

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ANAの機内では今年 8月17日にも、機内で客が別の客に放尿する事件がありました。

US man urinates on Japanese passenger during flight | The Independent

警察に逮捕された搭乗客は幸い ANA 社員ではありませんが、酔っ払った末の行為。つまり今回のパリ支店長暴力 (?) 事件とこの24歳アメリカ国籍放尿事件の原因には、共通項があり、それは機内で提供されたアルコール。

 ANA的には「客にしろ、社員にしろ、相応しくない者が機内に紛れ込むことはゼロにはできない」が、凡人にはANAの機内では、飲酒が誘引となった犯罪が多い」となります。2つの事件は 50 日も離れており、この程度の偶然で ANA の機内が危険と考える無知蒙昧なる者は ANAには要りません。日本の霊感が操る新鮮な言語を理解できない者も要りません。6年連続「5スター」の繰り出すサービスは客を選ぶのです。

 

そしてビジネスはビジネス。時に非情であるのがビジネスの本性。

 Skytraxの評価の年次推移を見れば、食物・アルコール飲料の「ただで」、「大量に」が高評価の鍵になることがわかります。グラスの7、8割までワインを注ぎ、ほとんど無制限にアルコールを提供する ANA のサービスはもちろん優れており、Skytrax高評価の一因になっている可能性が高いのでした。6年連続「5スター」の原動力なら、サービスに変更なしというディシジョンが取られてもおかしくありません。

 つまり企業イメージに関して、機内サービスが一因と疑われる事件で毀損される程度と、同じ機内サービスで獲得する「5スター」で増強される程度を比較して、どうするか判断します。凡人に ANA のエクセレントな経営陣の思考様式なんて分かるはずありませんが、経営判断の一部でも理解するよう努力に勤めないと、そのサービスもうわべの理解に終わります。

 6年連続「5スター」の実力が分からないなんて、どこの無作法者?と軽蔑されたくなければ、ANAのやることは何でも高く評価しているふりをしましょう。ビジネスパーソンのたしなみですね。