ロンドン・ヒースロー空港(LHR)のターミナル 5(T5) は、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)の専用ターミナルとして開業。途中経営統合した IB が入ってきたものの、基本的には COVID-19 の汎世界的流行(Tedros Pandemic)の前まで BA のターミナルでした。T5 も疫病禍のため 3月下旬には開店休業状態になり、BA ラウンジも全て閉鎖されました。7月に入り BA は運航の再拡大を始め、一部ラウンジの営業が再開されました。これは予想できます。しかし T5 には驚くべき変化も起きました。アメリカン航空(AA)、JAL、カタール航空(QR)の移入です。そしてこの 2つの出来事はリンクしていたのでした。
なお以下の写真は、全てパンデミック前のものです。
7月以降の T5 ラウンジと利用航空会社
T5 のラウンジでは、現在 Galleries South Club, Galleries North Club, Galleries First が営業しています。到着ラウンジも7月に再開したのですが、客が少なすぎて再閉鎖になりました。これらは BA のラウンジです。
象徴的な空間 The Concorde Room(CR)は依然として閉鎖中ですが、ここにアクセスできる客(T5の出発客のうち、BAのファーストクラス搭乗客(F 客)、The Concorde Room Card(CRC)の保持会員、Premier 会員)のために、Concorde Terrace が Galleries First の一角に設営されました。
Welcome back on board FAQs | British Airways
Concorde Terrace は CR の代替空間ですが、後継になるかどうかはわかりません。CR は良い場所にあるので営業再開すると信じているのですが、BA は今後について何も語っていないようです。
AA, QR, JAL の引越しは、それぞれ 7月7日、21日、29日と少しずれていますが、どう考えても一つのグランドプランが存在しています。そして フィンエア(AY)も 8月中旬の移動が予定されています。
American Airlines moving into Terminal 5 at Heathrow: Travel Weekly
Qatar Airways and Japan Airlines (JAL) to move to Heathrow T5
こうして T5 は BA 専用から、BA, IB, AA, QR, JAL, AY が集まる oneworld ターミナルへと変身を遂げます。ただし oneworld 他社の移動の予定はない模様です。
T5 利用客へのサービス向上
ラウンジについても革命が起きています。
Concorde Terrace は AAの F 客と Concierge Key 会員も利用可能
になりました。
CR が極めて排他的なラウンジだったことを考えると、大きな方針転換です。
Concierge Key は招待制の AA 最上級会員。基準は非公表です。50,000 USD + 300,000 miles 利用しても招待が来なかったケース、45,000 USD 使って 100,000 miles しか飛んでいなくても招待されたケースが報告されています。
映画 Up in the Air の主人公の中年男は、Concierge Key 会員という設定ですが、映画の予告編(公式版)
https://www.youtube.com/watch?v=rTL1FmvVCuA
は、「会員カードを見せたら、ナンパ成功!」という風にも見えます。そんな神通力があったとは!ですね。
BA や AA の公式説明はないようですが、T5 への AA の引越しは、BA, IB, AA が行う大西洋横断のジョイントベンチャー(JV)の効率化以外の何物でもありません。航空券の販売会社や搭乗機の運航会社が違っても、一定のサービスが受けられることが JV の価値を高めます。Concierge Key 会員と AA の F 客を、相当する BA の顧客と同様に迎えるのは JV では質の向上。CR や Concorde Terrace の利用客拡大は、ほとんど論理的な帰結なのでした。
日本の客、特にJALの会員が期待できること
BA と IB は JAL と AY と共にユーラシア横断の JV を行っています。そして T5 に JAL は引越し済み、AY も近々引越しと、AA との大西洋横断 JV と同一の処置がとられます。となると、JAL や AY の会員、それらの運航便の利用客には、AA の場合と同じ処遇が待っているはずです。すなわち高い確率で、
メタル会員、Platinum Lumo会員、JAL の F 客は、CR /Concorde Terrace へ招待
されます。oneworld のサイトで Concierge Key と Platinum Lumo は表示されるのに対して、メタル会員*のデータはないので心配ですが、JAL か BA が何とかしてくれるでしょう。JAL便の F 客については間違いないと思います。
*:この名称自体、通称だったように記憶しています。
ヒースローが世界一のプレミア空港であるとはいえ、日本の居住者には数ある大空港の中の一つに過ぎません。そしてこの記事で取り上げた T5 でのサービス向上はハイエンドの客だけが享受でき、大多数の客にはあまり縁のない話。しかし明るくなる話です。昨今の状況ではロンドンへの渡航自体が困難なので、なかなか確認できないことが残念です。
相対的にはイメージ向上
SkyTeam ではデルタ航空、AF-KLM、アリタリアが大西洋横断 JV を行っていますが、T5 に見られるハイエンドの共通サービスは存在しません。Star Allianceでも Lufthansa mit seinen Knechten、ANA、シンガポール航空が F 客および最上級会員への共通サービスを提供しています。しかしそれは oneworld ではエメラルド会員への共通サービスに相当し、oneworld の方が系統的で内容も充実しています。他の JV では、BAが提供する高いレベルのサービスはほとんど実現不可能なのです。
もっとあからさまに SkyTeam と Star Alliance を引き離したと感じられる点もあります。LHR の T5 が JV の中心として格段に目立つようになったことです。「BA ばかり...」という批判はさて置き、SkyTeam と Star Alliance は LHR T5 のようにブランドイメージを牽引できる「世界の極」を持てそうにありません。Brexit も後押しした感がある T5 への集約。長距離便がより幅を利かすターミナルになり、UKの民にもかつての陽の沈まぬ帝国を想起させることになるでしょう。それはそれで、T5 を特別な場に仕上げます。この相乗効果は、BA にとってはもちろんのこと、AA, JAL, AY にとっても都合良く働きます。
もっとも T5 の inauguration を行ったのは Queen Elizabeth II。格の違いが顕在化しただけなのかもしれません。