PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

売れ残りから利益を得るイノベーション:Sleeper's Row by Lufthansa

エコノミークラスの並びのシートをまとめて販売、フラットベッドとして使えるという触れ込みで売る仕組みは、おそらく Air New Zealand が最初に導入しました。確か 8年前のことです。Economy SkycouchTM という名です。寝台面が大きくなるようにシートを改良する(部品を加える)というハード上の工夫を行い、大人と子供の人数によって、シートの使い方を指定するという結構しっかりした仕組みを導入しました。

Economy Skycouch™ - The long haul experience - Onboard your flight - Experience | Air New Zealand

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この緻密さに新しいシステムのパイオニアらしさが現れます。

 Economy SkycouchTM は予約時に指定できます。非常口席とか、シートピッチを広げた「特別席」と同様、エコノミークラスのキャビンに設けられた特別席の扱いです。

 

他種のエコノミー「特別席」の販売は、基本的には普通のシートと変わらないのに対して、Skycouchは3席とか6席まとめて販売します。売る方からしたら少し面倒なはずです。また余計なメンテナンスも加わります。他社がこぞって真似するということにはなりませんでした。

 

同種のシートは、ANAA380 のエコノミークラスに導入しています。この機材はホノルル線での運用が決まっており、多くの家族利用が想定されるため、Air New Zealand と同じ仕組みを導入したようです。1階後部座席6列(3-4-3配置)ですから、エコノミーシート60席分です。この機材では、エコノミーのキャビンにもバーカウンターが設けられるなど、ハードウェアが他社A380と比較しても盛りだくさん。ANAの広告塔にもなるし、機内サービスの可能性を広げる効果もあるので、導入を決めたのではないかと想像します。

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やはりエコノミークラスのシートを改造した特別シートが使われています。Air New Zealand よりは、簡単な改造に止めたように見えます。

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さて最近 Lufthansa が試験的に FRA-GRU 線の LH 506、LH507 便に導入したSleeper's Rowは趣が異なります。エコノミークラスの並びのシートを3~4席まとめて使えることは同じですが、

・枕、毛布、マットレスを含むルフトハンザ・ビジネスクラスのキットの利用

ビジネスクラスと同じ優先搭乗

・3席の列でも4席の列でも220 EUR/260 USD で販売

・空港のみで、つまりチェックイン時か搭乗ゲートで購入可能

・地上係員に申し出て、クレジットカードで決済

という特徴になっています。そしてシートは、普通のエコノミークラスのシートと何も変わらないようです。

Sleeper’s Row: your new Economy Class experience

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皆さんはお気づきになりましたか。Lufthansa は、出発当日に売れ残っているエコノミークラスのシートから収益を上げる新たな仕組みを考案しただけです。

 

多くのエコノミークラスの客が事前座席指定しないことが、このプロダクトの前提となります。売り方としては、おそらくキャビンの一角を予めリザーブして、座席指定できないようにします。普通に満席になりそうだったら、少しずつ開放、満席になればなったで良し、ならなければ、当日チェックイン時に Sleeper's Row を売り込みます。買わない個人客でまだ座席指定していない場合、チェックイン時に販売と同じパターンで席を指定していくシステムだろうと思います。高度なアルゴリズムが必要には見えません。

 

それでいて価格とサービスの関係は、かなり魅力的です。かなり賢い Lufthansa

 

利用者として残念なことは、利用を前提に航空券を購入するのができないことです。そこそこ空いている日を狙う以上のことはできません。他のデメリットは今までは可能だった空いているキャビンで3席または4席を一人で占拠できる可能性が徐々に低くなることでしょう。このプロダクト、そのうち値段は変動制になると思います。

 

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客には Air New ZealandANACouchLufthansa の Sleeper's row が同種のプロダクトにしか見えません。しかし供給側としてはコストのかけ方が違います。Sleeper's Row は、現在一路線で実装試験中のようですが、単純で普遍性もあるので、このサービスはいろいろな路線に拡大するでしょう。

 

Lufthansa のこの仕組み、LCC 向け*ではないでしょうか。何よりコスト最優先の客が集まり、事前席指定も有料なのでシートは出発当日のコントロール。甘言でフラットベッドを売り込むだけ。空の席をそのまま飛ばすよりましです。今でも隣席ブロックは広く見られます。両隣席ブロック、フラットベッドとオプションを増やすのみで実現。LCC による長距離路線が増えてきた現在、むしろもっと広く導入されてもよい気がします。

*:そもそも Lufthansa のエコノミークラスは LCC 並みだなんて、余計なことを思い出してはいけません。