バス代わりの飛行機

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

映画に描かれるパリ+どこか(その 1)

映画に描かれる都市第2弾は、素直にパリ。

 パリではロケがよく行われます。そのためベルリンに比べると舞台としての新鮮味に欠けます。新しい表現を追求するには、使い古された都市なのです。パリの過去100年をベルリンのそれと比較すれば、土地に密着する「新鮮な」映画を製作することの困難さが想像できます。

 しかしながらフランス文化への影響という点では、パリは別格。日本も東京集中が言われて久しいのですが、そんなレベルではありません。それでは映画ではどういう形でパリが映されるかというと、対比が多いようです。パリだけ映していては特徴は現れにくいのですが、話の都合で他の土地も表現されるとパリの持つ象徴性、記号性が明確になります。

 と言うことでベルリンとは趣向を変えて、「パリ+どこか」でまとめてみました。もしかすると Fernweh をこじらせるかも。

 

1. Ridicule

パリ(正確にはベルサイユ)+ドンブ La Dombes

1996年Patrice Leconte。日本語のタイトルは、そのまま「リディキュール」だった気がします。フランス革命前夜の「貴族の生きにくさ」を描いたこの映画は質が高く、お勧めです。

 革命以前、平民搾取のおかげで良い思いをしているはずの貴族も実は大変だったというお話。L'Ancien Régime が誰にとっても悪い制度だったと言うのは簡単ですが、人間は暇になれば暇になったでやることはあるので、こういう事はどんな階層社会でも普遍的に存在します。

 

エスプリ l'esprit が中心的な概念です。この映画で描かれるセリフの数々は、フランス語のレトリックと対話のあり方の良い例です。ある人間をその場の嘲笑の種に変える切れ味の良い一言。これは現代フランス社会でも高く評価されます。もちろんイジワルなので、使い方には注意が必要。

 不自然に恰好を整えようとか、マウントしようとかいう愚かな言動(注1)に対してエスプリは抜群の効果を発揮します。その場をウンザリさせる言動を続ける人間を大人しくさせるために利用するのが正しい使い方。よりウンザリさせるほど、より愚かなほど、エスプリは強烈に働きます。意味なく特定の個人に集中することはなく、罵りや呪いではないのでイジメにならないところがミソ。

 フランス語に関心が高いフランス人の間で評価が高かった映画です。歴史物語としては主題の意外性で興味深く、言葉の能力を磨く上では良い教材。

 この種のセンスは母語話者でも磨く価値があります。なおフランス人はエスプリを称賛するぐらいなので、全般的に「きつい表現」に慣れています。そういう常識も身につく映画です。

注1:日本でもソーシャルメディアでは花盛り。詐欺、イカサマ、マルチなども多いようですが、曲がったことが嫌いな方々からあからさまに攻撃されていますね。これは健全な社会の在り方。Web上だからこうなりますが、顔を合わせている場合、ストレートに言うと同じ土俵に立ってしまいます。そこでエスプリで攻撃するわけです。

 

舞台は18世紀で、貴族社会の豪華絢爛な装束も見ものとなります。いろいろな魅力がある映画です。

 

2. Amour et Turbulences

パリ+ A380 ビジネスクラス

2013年Alexandre Castagnetti。日本では「恋のときめき乱気流」という信じられないタイトルがついています。確かに内容は恋愛物語に相違ありません。Cirrus Airlines という架空の航空会社(注2)のA380のキャビンが延々映されるので取り上げました。

 パリを映画の舞台とすると新鮮味がなく、作る方はそこだけでは難しいだろうと指摘しましたが、この映画では観光客がイメージするパリの風景が多出します。ベタです。「いかにも」という風景が、意外性のある会話と障害物走のような物語を際立たせているような気がします。

 閉場後のエッフェル塔に昇って、パリの夜景を背景にダンス、Champagne で乾杯なんて聞くとこの映画を見る気を無くしますが、実際にはこの cliché のおかげで内面にすんなり入ることができます。Pont de l'Archevêché 上で撮影したシーンはまさに「観光客のパリ」ですが、tutoyer する瞬間があります。ネットでも検索できる個性的なセリフの直後。このブログでは2回目の引用ですが、こんな会話。

女:"Tous les hommes ont un très grand cœur pour pouvoir mettre plein de filles dedans." 

男:"Pas tous."

女:"Si, tous. Toi, alors, je t'explique même pas."

男:"On se tutoie?"

こんな調子でセリフやストーリー展開は屈折しまくる一方、視覚的には clichés を満載。フランス人には退屈させず、外国人にはパリが美しく映し出される作品となっています。

注2:昔ドイツに同名の航空会社が存在したようです。

 

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