PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

映画に描かれるパリ+どこか(その 3)

パリが登場する映画は多過ぎるためか、物語の舞台としては印象に残りにくい気がします。いま日本で公開されている Cédric Klapisch の "Deux moi"(2019)もパリの話。”Ce qui nous lie”(2017, 「私たちを/に結びつけるもの」)で気に入ったらしく、Girardot の娘(Ana)が再び主人公。どうでもよいのですが、父(Hippolyte)も優れた俳優で、フランス男の外見が20代から60代でどう変化するか良い例を提供します。

 

5. Taxi 2

パリ+マルセイユ

2000年Gérard Krawczyk。日本語タイトルもほぼ同一。マルセイユを舞台にして大ヒットした映画の続編は、前半はマルセイユ、後半はパリを疾走します。ベース車両は Peugeot 406。第一作の悪党たちはメルセデスに乗るドイツ人、第二作はランサーエボリューションに乗る日本人です。ランエボは昔フランスにも輸出されていました。

 日本のカリカチュアがたくさん登場するため、おそらく日本での評価は低いと思いますが、そういうものが平気で笑える人には楽しめる映画です。マルセイユやパリのカリカチュアにも事欠きません。強烈なマルセイユ訛のコソ泥2人組も前作から引き続き登場します。

 このシリーズはハチャメチャぶりが度を越している気がしますが、パリの風景だけに注目していれば旅心が刺激されます。18時以降の外出禁止実施中でまたロックダウンの噂が出ている現地では、のん気なことを言っていられないと思いますが。

 

6. Les Poupées Russes

パリ+ロンドン

2005年Cédric Klapisch。日本語タイトルは「ロシアン・ドールズ」で英語から。若者の物語の二作目であり、第一作 L'Auberge espagnole は「スパニッシュ・アパートメント」と訳されたので対応しています。ちなみに第三作まで世に出ており、シリーズものとしては珍しく安定して高い評価を得ています。しかし製作費が単調に増加する一方で興行成績は単調に減少。これまでの流れで、第四作を制作するのは難しそうです。

 Cédric Klapisch はテーマで若者の成長、舞台でパリという作品が多く、このシリーズでは第一作がパリ+バルセロナ、第二作がパリ+ロンドン、第三作がパリ+ニューヨークになっています。おっさん、変に形式主義的なところを見せます。

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主人公 Xavier がシテ島からサンルイ島へ向かって Pont Saint-Louis を渡るところで、正面の建物から取材対象の英国人女優が手を振るなんて、恐ろしいシーンもあります。主人公は TGV でパリ-ロンドンを行ったり来たりします。対比が気になったのか、パリらしい風景が展開されます。観光案内するというストーリーから、ロンドンもそれらしい風景が満載です。

 

なおこの映画、英語3、フランス語7ぐらいで英語が使われます。お互いの言葉を使うフランス人とイギリス人の自然な対話に見えるよう心を砕いているように感じられます。

 Wendy は前作とは別人のようになっており、この作品では段違いに重要な役を果たします。演じる Kelly Reilly はフランス語はできないようで、Wendy もほとんどしゃべりません。一方、その弟 William はフランス語をおふざけ程度にしゃべるのですが、俳優の Kevin Bishop がそこそこ勉強していることぐらいはわかります。

 

何が言いたいかと言うと、Cédric Klapisch はそれぞれの俳優の地の部分を、魅力的な役作りに利用しています。この能力に長けていることが伝わってくる映画でした。

 

7. La Vie d'une autre

パリ+ラ・デファンス La Défense

2012年Sylvie Testud。原題は「一人の(誰かわからない)他の女の人生」の意味です。ある朝目覚めると、過去15年間の記憶がすっかりなくなっていた女性の物語。驚くべき人生を送っていたことが次々明らかになるという筋です。下敷きになった小説も同じタイトル。基本アイデアは同じで、設定がだいぶ異なります。日本語のタイトルは「マリー、もう一つの人生」でこれは内容に忠実。

 41歳既婚、帝王切開で産んだ息子一人という設定の Marie に大物 Juliette Binoche を据え、有能な制作陣が凝りに凝った映像を繰り広げます。特に色彩感は抜群で、セーヌに浮く péniche の船艘にしつらえたバー/クラブ/ディスコテーク(つまりパリの屋形船)のシーンには圧倒されます。そこでかかっている音楽も Blondie の Maria と、ナンバーの特徴、タイトルの一致を意識しています。

 記憶喪失中の Marie はあか抜けない設定。逆にパリが文化と芸術、歴史で見栄えする街になっています。言葉遣いは15年間の空白を意識して書かれていますが、違和感を覚えます。そもそも 47~48歳の Juliette Binoche に26歳の女子学生を演じさせることに少し無理がありました。この映画では監督の Sylie Testud (この方も有名な女優で当時41~42歳)ならそうした若作りも可能だったでしょう。

 

そうした問題はともかく、この映画ではパリはきれい。この映画を見たら、疫病禍終息後の旅行第一弾は、パリに「また行ってみたくなる」ことでしょう。

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おわりに

次々都市が追加されるオムニバス形式による映画 "I love you" シリーズに Berlin も Paris もありました。

Berlin "Berlin, I Love You" (2019)

Paris "Paris, je t'aime" (2006)

イデアの使いまわしは低評価になります。最初のパリは話題になったのですが、それ以降のニューヨーク、ベルリンは低調です。ただベルリンでもパリでも言語が英語と、旅行客の視点にはマッチします。