PECHEDENFERのブログ

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ビジネスクラスでも「ライト」運賃

LCC の影響を受け、 3年ぐらい前から欧州で導入に踏み切るレガシーキャリアが続々出てきた預入荷物有料、事前座席指定有料の運賃。LCC への対抗が主眼と考えられ、エコノミークラスではこれらのサービスを切り離した航空券を販売するようになりました。

 

そして今、ビジネスクラスでも同様な運賃体系が出現しつつあります。セットになるサービスが多い分、削減サービスの自由度は原理的に高くなります。

 

カタール航空の場合

ワンワールドでは、カタール航空が先駆者のようです。昨年の11月に導入したクラシック運賃は、

- 空港ラウンジ利用なし

- 事前座席指定不可

ビジネスクラス

https://www.businesstraveller.com/business-travel/2020/11/10/qatar-airways-introduces-classic-business-class-fare-with-no-lounge-access/

手荷物については、預入、機内持込ともに他のビジネスクラスの運賃(コンフォート、エリート)と全く同じです。

 

カタール航空は高収益を上げていますが、反面いつ利用しても経費削減が目立つ航空会社です。本拠地ドーハのラウンジは良い例。ビジネスクラス利用者用のラウンジ (Al Mourjanラウンジ:カタール航空ビジネスクラス利用者のラウンジ) は、充実しているものの混雑が激しく、あまり行く気がしない場所でした。ワンワールド上級会員資格でも入れるビジネスクラスラウンジでは混雑はさらにひどく、入場制限を行うほどです。

 

一般の待合スペースの方が広々としており、ストレスを感じないのです。もはや本末転倒、まさにマリオット化しているドーハの地上サービス。この状況を考えると、このラウンジアクセスなしのビジネスクラス運賃は「値引き」が大きいならかなり価値があるように思えます。

 

ソウル発欧州行だと、普段からクラシック運賃が設定されているようです。

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これでパリ往復が20万円ぐらい。

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一方でカタール航空は Q-suite のような格上シートも用意し、ビジネスクラスの中で上下に格差を広げます。もともとこのクラスで圧倒的に評判が高かったカタール航空。新たな需要を掘り起こし、従来からの顧客により多く金を落とさせるためにサービスを多様化するのは自然な流れです。客の望むレベルに応じてサービスを提供でき、この点については誰しも評価せざる得ないところです。

 

重要なことは、ワンワールドの上級会員ならば(ドーハの全く期待できないラウンジはどうでもよいとしても)そもそも空港でラウンジは利用できます。つまり航空券には不要なサービスが含まれており、その分の料金も支払っていたということです。彼らは全くの無駄金を払っていたわけです。

 

フィンエアの場合

6月15日にフィンエアが導入したビジネスクラスのライト運賃によって、上級会員が無用なサービスに金を払っている事実がさらに意識されるようになりました。

Business class unbundled: your guide to Finnair Business Light [2021] - Executive Traveller

この新運賃ではビジネスクラスにもかかわらず

- 預入手荷物有料(ビジネスクラスの他運賃では 32 kg x 2まで無料)

- ラウンジ利用有料(ただしこれはエコノミークラスの全運賃も同様)

- 事前座席指定有料

- 優先搭乗手続きなし

- 優先保安検査なし

- 優先搭乗なし

となります。

Finnair ticket types: Light, Classic and Flex | Finnair

ここまでカットすると、エコノミークラスと異なる点は、機内サービスと機内持込手荷物(総重量10 kg の最大 2 個とビジネスクラスの全運賃で共通、エコノミークラスは全運賃で 8 kg x 1)ぐらいになります。機内サービス以外はほとんどエコノミークラス。大胆な商品を開発したものです。

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これはワンワールドの上級会員には、良い方向への変化でしょう。彼らは加盟会社の利用では、

+ 預入手荷物一つ追加

+ ラウンジ利用

+ 幅広い事前座席指定

+ 優先搭乗手続き

+ 優先保安検査

+ 優先搭乗

というワンワールド共通の特典が受けられ、ライト運賃でのサービス削減はほぼヘッジできます。

 したがってサービスを削ったため料金が安くなる(、あるいは値上がりを受けない)という利点だけが享受できるわけです。荷物が多くない会員には、ライト運賃の導入はビジネスクラスの広範な値下げになると思います。

 

航空会社の上級会員へのサービスは、エコノミークラス利用時でもビジネスクラス向けのサービスを一部提供するというものです。エコノミークラスに「ライト」運賃が導入された時は、従来のエコノミークラス運賃で不必要なサービスに金を払っていたことはそれほど意識されませんでした。会員特典はビジネスクラス並みのサービスだったからです。フィンエアのライト運賃の様にビジネスクラスで不必要、あるいは重複しているサービスが削られた運賃が出現すると意識は全く違います。

 

カタール航空では手荷物についてはビジネスクラスのサービスは同じ。もちろん規準以下なら、運ぼうが運ぶまいが料金は変わりません。フィンエアは相当踏み込んだ改革を行っています。

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なお加算マイルとか、予約変更可能性なども運賃によって違います。これらについては本記事では省略します。

 

近未来の読み

こうした運賃の導入は、消費者の選択の幅を広げる点からも評価されます。旅客サービス、輸送サービスという視点では明確な進歩です。

 ご存じの通りフィンエアは JAL、BA と日欧線の共同事業を行っています。航空券を購入する場合、システム上でこの3社はほとんど平等に扱われ、客に提示されます。1社だけ特殊な運賃を導入している現状は混乱を招きます。

 こうした状況を考えると、結局 JAL、BA も早晩ビジネスクラス「ライト」運賃を導入せざるえないのではないでしょうか。

 

JGC を含め、ワンワールドの上級会員資格の価値は高くなりそうです。