その 2は、他社のプログラムとの対比です。今回の AAdvantage の改革は実に示唆的でした。
ユナイテッド航空 Mileage Plus
ユナイテッド航空 UA の上級会員制度は今年 1月から支払金額基準になっています。
ある搭乗回数に達すると航空券支払額 PQP の基準が10 ~ 14 %OFFになるとか、提携クレジットカードの利用も PQP になるもののカード別に決まった上限があるというシステムです。
AA では搭乗回数と搭乗距離は全く影響しなくなる一方、提携クレジットカード利用で獲得できる Loyalty Points に上限はありません。UA よりドル本位制が徹底しています。
彼らのクレジットカードを年間 200,000 USD 利用すると Executive Platinum になれます。クレジットカードの年会費は必要ですから、人によっては JGC や SFC と同じであることに注意しましょう。払わなくてならないものをどこかで払っているだけです。会員種別は JGC、SFC のようなクレジットカード会員向けに用意された特別なティアではなく、レギュラー会員です。
デルタ航空 SkyMiles と日本のアメックス
マイレージプログラム支払金額制の祖と目されるデルタ航空 DL。変革の波は、2015年に起こりました。そして昨年までに米三大手はすべて同じような制度になりました。三社とも特典用マイルには、いきなり支払金額制を導入しました。一方で上級会員の基準は先にも書いた
①搭乗回数の基準 または 搭乗マイルの基準 + ②支払金額の基準
と中途半端な基準に落ち着きました。しかしこの上級会員基準は過渡的な制度で、5年ほどしか持たなかったことになります。航空会社は最初から計画的であり、顧客の意識を遷移させる期間だったのかもしれません。
さて AA の Loyalty Points になるクレジットカードは日本には無いようですが、DL は利用により会員資格獲得、維持ができるクレジットカードを日本でも発行しています。1年目は無条件で、2年目以降は年間150万円(= 13,636 USD)の利用で、SkyMiles のゴールドメダリオン資格が付帯します。これは高いのでしょうか?AA のプログラムが提携クレジットカードの支払いのみで会員資格を維持するようになったので、DL の日本向けクレカ商品の妥当性も判断できるようになりました。
再掲ですが、AAdvantage では上級会員資格の獲得、維持に必要な Loyalty Points は次のとおりです。
Gold 30,000
Platinum 75,000
Platinum Pro 125,000
Executive Platinum 200,000
AA 提携クレジットカードの利用 1 USD は 1 Loyalty Point です。DL ゴールドメダリオンと比較しうるレベルは AA では Platinum ですが、年間 75,000 USD 利用しないと維持できません。このことから、デルタスカイマイル・アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カードの特典は、実は破格なものだということが分かります。以前は年会費だけで資格が付帯していましたから、150万円でも無茶苦茶な変更に見えたのですね。
ブリティッシュ・エアウェイズ Executive Club
アメリカ在住でワンワールドエメラルド会員を狙うなら BA のプログラムも選択肢になります。例えば大陸横断往復を行うと、大雑把に言ってエコノミークラスで 200 USD、国内線ファーストクラスで 2,000 USD(場合によっては 5,000 USD超)かかります。得られる Tier Points は、それぞれ 40、280 です。すると前者は 37.5 往復、後者は12.5 往復で Gold 会員になれます。AAdvantage の Platinum Pro 会員が同じフライトで会員資格を維持するためには、それぞれ 70往復、7往復(場合によっては 3往復)必要です。エコノミークラス利用が多いと BA、国内線ファーストクラス利用が多いと AA 有利です。
BA のプログラムはプレミアムキャビン優遇で知られていましたが、AAではこの特徴が強化されています。
JAL ダイヤ様は安上がり
FOP単価に覚醒した時が JAL 修行の始まりで、FOP単価= 10 JPY は修行僧の黄金律。この比率を使ってダイヤモンド会員維持に必要な航空券購入額を計算すると 9,090 USD になります。これは Platinum Pro を維持する金額の 65 %程度です。このことからも、日本の国内線がワンワールドエメラルド修行にどれだけ適しているか納得できます。
JGC も考えてみればお得ですね。AAdvantage の Gold 会員を維持するためには、すべて航空券購入(とその搭乗)で Loyalty Points を貯めたとしても、毎年 4,286 USD 必要です。これは JGC 修行にかかる費用とだいたい同じ。しかも JGC はその上のティアの Platinum 会員に匹敵します。
シンガポール航空 PPS
AAdvantage「最高位」Executive Platnium の維持には、200万円の航空券購入が必要になります。買ったら後は乗るだけ。これはシンガポール航空 SQ の PPS 会員(25,000 SGD の利用)とほぼ同じ条件です。搭乗キャビンを問わないこと、クレジットカード利用等の手段でも数字を増やすことができることから、AA の方が維持は楽です。一方 SQ の場合、PPS value はマイル加算と独立しており、マイルを提携他社のプログラムに加算して二つの航空会社で上級会員になることが可能です。
なおこうした比較から、Platinum Pro は BA の Gold に、Executive Platnium は SQ の PPS に匹敵することが分かります。
ANA はマイル世界の拡大
ANA はマイルの利用範囲を大幅に拡大し、生活のあらゆる局面での出費がすべてマイルで済むような「商圏」を作り出したいようですが、搭乗以外のマイルをマイレージクラブ上級会員基準に連携させる試みは限られます。しかしクレカの年間利用額が一定金額を超えるとPP一部免除という内容も含まれます。実は ANA は AA に近い所にいます。
SFC は顧客囲込みと収益への貢献が大きく、ANA にとって国内線の利用促進は大きな課題なので、マイレージクラブは支払金額制と相性が悪いと思います。しかしダイヤモンドサービスにだけに導入するなら、おそらくハードルは下がります。新ポイント―――仮に AAAG Point とします―――を設け、航空券購入100 JPY支払 = 1 AAAG Pointとし、ダイヤモンド会員には 100,000 PP に加えて 20,000 AAAG points が必要とすれば、高額航空券を買う客とビジネス客が増えるでしょう。AAAG Pointsには提携クレジットカードのマイルを10分の1に換算して加えることができるなどと、その気になれば陸マイラーへの配慮も簡単です。
日本の場合、条件設定により客層ががらりと変わりそうです。支払金額制を導入するとアメリカより面白いことが起きるでしょう。