バス代わりの飛行機

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

ゲームの要素が失われるマイレージプログラム(その 1)

 

2021年象徴的な変化

 

今年一番印象に残ったニュースは、アメリカン航空アドバンテージの改革です。来年以降、搭乗ゼロでもクレジットカードの支払いのみで上級会員資格が獲得、維持できます。このプログラムでは、距離制から金額制への遷移がほぼ完了しました。

 クレジットカード会社に毎年一定額支払うだけで上級会員であり続ける点はJGCSFC と全く同じです。違いは名目ぐらいで、アドバンテージがカード決済、JGCSFC がカード年会費です。金額も違います。前者は年20万ドル、後者は年150ドル程度。関わる客層は大きく異なることでしょう。

 

共通する本質は金で片付き、会員資格に至る過程をおおかたスキップしていること。そんなことに煩わされたくないという意見は拝聴しますが、その過程が面白いという人より、楽しみが一つ少ないのですね。場のお飾りとしてしかシャンパンを見ない人は、いろいろ飲み比べ、これがいい、あれがいいと年中騒ぐ者が知る人生の喜びには縁がありません。同じことです。

 

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昔々...

 

マイレージプラスの 1K 会員が大挙してチェンナイを訪れた時代がありました。会員資格の更新基準を搭乗回数で越えるため、安く、短距離で高頻度運航するスターアライアンス路線を探した結果、見つかったのが、タイ航空のチェンマイーチェンライ、チェンマイ-メーホンソンの2路線だったのです。目的地に目的がない外国人がタイに短期滞在(〜2週間)、その間に100フライトするなんて常識では理解できません、この奇習はバーツランとして知られることになりました。

 10 ドル程度で一搭乗できたということですから、タイへの旅費を合わせても 3,000 ドルにはならないはずです。マイレージプラスが支払い金額基準になった現在、3,000 ドルで何ができるでしょうか。

 

時は変わり、現代日本。エグゼクティブクラブの Tier Points は JAL 国内線クラス J が先得でもビジネスクラス、国内線ファーストクラスも堂々ファーストクラスで、それぞれ2,000 マイル未満の国際線と同じ扱い。抜群に高い費用対効果をもたらします。しかも日本国内線ですから、短距離で高頻度運行。時間対効果も高いのでした。こうしたことから、日本はエグゼクティブクラブ会員の楽園。例えば BA で東京―LHR―パリ往復後、JAL のクラス J で羽田―伊丹を18往復すれば、たいていゴールド会員の基準を越えます。

 バーツランには及ばないものの、「出し抜き型」の利用法としては最高。1日に二往復するとシステム上厄介なので、良くも悪くもバーツランのような奇妙なことはできません。外国から大挙して会員が訪れ、JAL 国内線前方キャビンを占めることはありません。

 事実上、日本在住者だけに許された特権である JAL 国内線のメリットが広く知られるようになり、エグゼクティブクラブのゴールド会員が増えました。

 

純国産のプログラム、マイレージクラブでは会員は獲得PPの効率化に余念がありません。OKA-SIN だとか、三角飛びだとか、楽しそうな旅行が次々ソーシャルメディアで紹介され、真似をする方が多かったようです。残念なことに、回数基準はなくなり、特別にPPが稼げるルートは塞がれ、遊び心が漸減して今日に至ります。

 

以上は上級会員資格に関する諸相ですが、特典マイルについても同じように工夫が見つかっては流行して、やがて消されていくのがこの界隈。全世界を舞台にしてゲームができることは、航空会社マイレージプログラムならではの魅力でした。

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世界は舞台、会員ティアはゲーム、会員はみなプレーヤーだ ええっと、これ誰かのセリフ?

 

上級会員特典やマイレージ特典を獲得するために、費やす金と時間の点から効率良い方法を探求する楽しみ。このゲーム性は、プログラムの魅力を大きく左右します。損得だけでは、人を魅せるのには不十分なのです。

 

抽象化すると次の (1) から (4) の条件が欲しいところです。上から順にゲームとしての魅力を決定づけるのに重要です。

 

(1) その特典を利用する権利は金では買えない。

(2) その特典を利用する権利は金および労力がないと獲得できない。

(3) その特典はサービスの集合であり、権利が得られれば、低額で行使できる。

(4) その特典は、買うのは到底無理という高額商品の一部として常に提供されている。

 

そして一般的に

 

(5) 価値を測る数値(ポイントやマイルなど)が、金額と相関が低ければ低いほど

(6) 工夫のしどころが個人により異なり、それが多様であればあるほど

 

ゲーム性は高くなるようです。

 

工夫しだいで大きな費用対効果、大きな時間対効果が得られ、人のやることは参考になっても完全に真似するのは難しいというのがベスト。エグゼクティブクラブはこの (6) の点で優れたプログラムだと思います。

 人によってはひたすら JAL 国内線クラス J に搭乗、ヒルトンのダイヤモンド会員資格が欲しくて GGL 会員を継続という使い方もできます。あるいは Tier Points 獲得はゴールド会員の基準のみにして、年一回のロンドン詣エコノミークラスの旅で、JAL国内線(羽田から島嶼部を除く)全路線の往復特典航空券分の Avios を得てホクホクという楽しみもできます。会員の嗜好や状況によって、求めるものが違うなら、使い方も違う、そんなことが可能なプログラムなので、個人は工夫せざる得ないのです。

 

上記(1)から(4)で会員プログラムがゲームになる必要条件を指摘した形ですが、実際のところ金で解決しないわけではありません。しかし金で解決する世界は、金持ちにとってもつまらないはずです。

 航空会社を買えば、自分の好きなプログラムを作り、特典を自分自身に無制限に与えることができます。しかしこういう人たちはプログラムが想定する客にはなれません。彼らは、車もジェット機も船もチャーターで移動。場合によっては、機材は保有、操縦者は雇用しています。ホテルの宿泊は最上の部屋を常に取り、良く滞在する土地やろくな宿泊施設はなくても行く必要がある土地では不動産を所有、召使、調理人、医者 etc. を雇います。こうした人生では質の追求はそれなり可能ですが、選択肢は限られ、料金にも相場があるので退屈。

 多く人間にできないことが自分にできるという優越感はあるかもしれません。しかし優越感の拠り所が、金で買うサービスの違いでは物足りないことでしょう。

 

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少し脱線しましたが、「マイレージ」プログラムは金額との相関を高めており、ゲーム性が急速に失われています。 アメリカン航空アドバンテージは上記条件の (1) を完全に放棄し、ゲーム性が消失しました。