バス代わりの飛行機

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

機内ではとりあえずシャンパン?(その1)

クリスマスにはシャンパンで乾杯?の続編。

 

JAL 国内線ファーストクラスに搭乗すると、Champagne を頼む客が多いことに気がつきます。たまにしか銘柄は変更されないので、月に何回も搭乗すると飽きます。たまに搭乗する方が、「デフォールトで」頼むことが目立つようです。

 上級キャビンに Champagne はつきもので、機内で供される代表的なアルコール飲料です。空の旅とは切っても切れない関係にある Champagne について、雑事を2つの記事にしました。

 

Champagne の効能

どんな酒でも生産地では、おしゃれなイメージだけで済むはずありません。いろいろな問題の原因になるし、補助金なり、税金なり、身近なレベルで悪いイメージを必ず持ちます。日本社会での日本酒や焼酎の受容と同じことがフランスでのChampagne についても当てはまります。

 つまり生産者は、悪い印象を前提として、イメージ向上を図らざる得ません。こういう時、イメージ向上の鉄板ネタは「健康に良い」です。この理論は、その他の種々雑多な印象とあまり衝突しません。

 

そしてこの点において Champagne は優等生。フランスでは Champagne が健康に良いという説は広まっており、検索すると効能を説明したサイトがぞろぞろ出現します。

8 bienfaits du champagne sur votre santé

Les bienfaits du champagne sur la santé - Marie Claire

Nouvel An : vous aimez le champagne ? Voici quels sont ses bienfaits sur votre santé | Max

Champagne : 7 bienfaits insoupçonnés pour la santé

Le champagne, un cocktail de bienfaits ! : Femme Actuelle Le MAG

際限ないのでこのぐらいにします。生活習慣病予防から性欲増進まで、数限りない効能がある霊薬なのです。

 Champagne(女性名詞)はこういうイメージを大事にします。例えば公的な機関に研究費を出して健康に良い「証拠」を揃えるなどはお手のモノではないかと思います。

 

多面的なことは特筆すべきです。可能な限りいろいろな方向を探り、どこでも良いイメージを作るよう努力しています。

 

Pechedenfer は健康について言われることが全て正しいとは思いませんが、確かに Champagne にしかない効能があることは経験的に理解しています。

 

Champagneのグラス

70年代のワインに関する文献を読んでいると、クープ型とフルート型の2種類のグラスがすでに代表的であったことが分かります。そしてフルート型の方が、泡の寿命が長いなどの理由で一般に好評でした。

 フルート型は新参者のようですが、James Bond のフィルムを見ると、初期からフルート型ばかりなので 1960年代には定着していたと思われます。

 

以前書きましたが、正式な会食では(宮廷晩餐会はもちろんのこと、大使館のパーティに至るまで)クープ型が用いられます。こういう場では発泡酒に限らず、あらゆるワインでこの色気がない形態のグラスが好まれます。

 これは想像ですが、第二次世界大戦後、Champagne(女性名詞)が Champagne(男性名詞)の販路を広げるため、大衆化を狙い、フルート型を普及させたのではないでしょうか。

 先入観を排除して素直に比べると、フルート型の最大の特長は視覚的に泡が美しいことでしょう。しかも「高品質な Champagne は泡が細かい」という素人向けの尺度(注1)も提供できます。この意味でプロから見ても優れた特性を持つわけです。

注1:赤ワインは室温(15℃~20℃)、白ワインは冷やして提供し、ボジョレーは赤でも白ワイン並みに冷やして提供するなどと同じレベルの蘊蓄披露に役立ちますが、理屈を備えるプロトコルです。

 

90年代以降、ワインの種類によってグラスを細分化することが一般的になりました。そこでは、グラスに香りを溜めることがデザインの鍵の一つです。ところがクープ型もフルート型も、この点はほとんど考慮されていません。グラスメーカーは(開発の中では後回しであったものの、)彼らの哲学で Champagne も処理し、新しいグラスを提案するようになります。フルート型の上を少しすぼめた形態でした。テースターとか評論家とかいう「ザ・コノシュワーズ」は、この新しいガジェットを絶賛します。無知な大衆を教化するのは、彼らにとってはぞくぞくするほど魅力的。いろいろなワインで成功した方法論でプレステージャスな世界(Champagne)を一刀両断する痛快さもあります。

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1990年代のRiedel Vinum Champagne

Riedel のグラスでも数が出る Vinum シリーズもボールの形状が変わってきています。現在の製品はもっとずんぐりしており、白ワイングラスと変わりません。

 一方で Champagne は新しい価値が生じることに対しては、表立っては反応しません。イメージを棄損しないなら放置です。しかもかなり寛容。クープ vs フルートの時代でも、これでなければならないと発言をするのはいつも消費者であり、生産者は放置しました。何かに固執する態度に対してすら考えを持ちません。「こだわるもこだわらないも含めて、自由に楽しんでもらえれば...」なのです。

 

しかしそれはあくまで表向け。実際には自分たちの都合が良い方向へ世界を誘導しているのは明らかです。

 

2021年のクリスマスシーズンに東京で販売されたボトル1にグラス2が付いた Mumm の Grand Cordon のセット、5000円ぐらい。そのグラスです。

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このようなセット商品は昔からありますが、20年前に比べると(注2)グラスはずんぐりしています。明らかに香りを楽しむためのグラスです。小さい目の白ワイングラスと変わりませんが、ボールの底の部分は泡の発生を意識しています。フルート型で世の中に定着した「立ち上がる泡の美しさを鑑賞する」習慣は継承しつつ、香りをもっと楽しむよう仕向けています。

注2:その頃 Pechedenfer が買うセットは Dom Pérignon でフルート型グラスでした。価格は2万円前後。贅沢な感じはありませんでした。自分の意識より、日本が変わっています。

 

Mumm が行う消費者の教化です。しかも押し付けがましさは全然ありません。おそらくメゾンからは、「このような楽しみ方を提案」などと発言することすらほとんど無いと思います。

 

これは Champagne のブドウの過剰生産による質の変化(一般的に言うと低下)をグラスで吸収するための工夫です。ブドウに力がなくなってきたので、手っ取り早く熟成感で高級感を出す(注3)ことにし、消費現場をアジャストしようという魂胆でしょう。ただし自分たちで手を下すのは最小限。ここが非常に重要。

注3:リザーブした古酒のブレンドに工夫が入るはずなので、安物を以前の値段で売るというのとは違います。高級の意味を変えるというのが公平な言い方だと思います。

 

世の中の「いろいろな発想やいろいろな楽しみ方を放置する」Champagne のやり方が、決定的に重要になっていることは理解できると思います。いろいろなベクトルが存在する状態を放置し、変化の時代には必要な一部にこっそりテコ入れして、都合が良い流れを強化するのです。

 もっと凄い点は、Champagne(女性名詞)全体で同じ動きができるところです。これは同じ状況に陥っているという均質性のため、彼らにしては当然なのでしょう。ただ他の国ではまず無理という気がします。

 

Champagne というブランドがいかに強力なものか、自分で書いていてつくづく思いました。こういうところは、フランスにはかないません。