PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

SAFへの取り組み:Lufthansaの場合

 

酷暑となった2022の欧州。南欧から中欧まで、「今まで生きてきた中で最も暑い夏」だった人ばかりのはず。フランスでは最高気温に関する大半の記録が更新された模様です。

 こうなるとうるさくなるのは、温暖化ガス排出削減の声。もはや政治的にかなり危険な状態です。対応が遅れると社会は不安定になります。自動車や飛行機など、一般人にも目立つ対象への風当たりは強く、テロが起こりかねません。

 

そんなこんなで、自動車業界は化石燃料を利用する乗用車を製造しない方針になりつつあります。現実的な解決法は、蓄電池+モーターでしょう。ひょっとしたら水素燃料(燃料電池+モーター、水素エンジン)という解決もありえます。いずれにしても二酸化炭素は排出しません。二酸化炭素排出の責任を電気エネルギー製造者や水素製造者に押し付けられるのです。批判の矛先は、それらの産業になります。

 

航空輸送でも同じようなことが言えますが、この業界では

(1) Sustainable Avitation Fuel (SAF) の利用

(2) 排出二酸化炭素を吸収する樹木の植樹

の二方法が標準的な対策になりそうです。(1) は燃料が相当高くなり、革命的な工夫が必要です。この記事では料金負担の話が主題ですが、その前に(2)にちょっと触れておきます。これは曲者です。

 

科学的な理屈の上では、植樹は生育環境だけ整えば世界中どこでも良いことになります。そして外国の土地を購入する必要はありません。この点まで航空会社に要求するのはさすがに無理だと誰しも考えるでしょう。すると二酸化炭素排出削減の社会運動が起きそうにない国の適当な土地に植樹することになります。何年かしたら、当然切り倒され、木材は「有効活用」されてしまいます。するとまた二酸化炭素削減のための植樹と繰り返されることでしょう。

 その国では、穴を掘っては埋めるタイプの事業が長期にわたって期待できます。航空会社は社会の矛先をかわせます。政治としては、禿げた土地に植物が生育している期間が重要なので非難される筋合いではありません。そして金は航空機を利用する客のポケットから出るわけです。実によくできた仕組みだと思いませんか。

 

(1) の方法はしばらく必要ないぐらいですが、そこは航空輸送産業。いろいろな方法を同時に進めるのがセオリーです。植樹だけでは、植える土地が無くなったらおしまいです。樹木が化石燃料になるのを待つわけにはいかないでしょう。

 

SAF は高価なので、現在のシステムで燃料の切り替えは無理筋です。経費にすれば事業として持続不可能。客に燃料費増大をすべて転嫁すると相当な料金高騰となり、これまた事業が潰れます。すなわちサーチャージの考え方も適用できません。税金として徴収する方法もありますが、課税国の空の交通が貧弱になることは目に見えています。

 

客の意識の高さに期待して、自発的に払わせるしかないのです。しかし大雑把に言って航空券価格が1.5倍から 2倍になります。意識の高さだけで折り合いが付くような金額ではありません。そこで飴も用意するわけです。航空会社はすでにいろいろ試行していますが、結局上級会員制とマイルを餌にすることになりそうです。

 

先行したのは AF-KLM。

環境対策に上級会員制度を利用する AF-KLM(1) - バス代わりの飛行機

環境対策に上級会員制度を利用する AF-KLM(2) - バス代わりの飛行機

 

8月になって Lufthansa も同種の枠組みを発表しました。

Green Fare: Lufthansa Group bietet als erster internationaler Luftfahrtkonzern Tarif für CO2-neutrales Fliegen - Lufthansa Group

Light, Classic, Flex に加えて、航空券予約で新しい料金カテゴリー Green Fare を設け、そこでは (1) および (2) に係わる出費を含めることになりました。まずは欧州内のフライトでエコノミークラスとビジネスクラスが対象となっています。一方で、客へのサービスとしては予約変更が無料で可能なことに加え、ステータスマイルと特典マイルが上乗せされます。この秋に開始ということです。一読するとSAFの切り替えに料金差額を利用するように見えますが、確実ではありません。

 

客の立場だと、価格がどれだけ違い、どれだけのステータスマイルと特典マイルが得られるかに関心は集中します。これについては、One Mile at a Time が「ヒトバシラー」を実施、報告しています。

Lufthansa Launches Intriguing "Green" Fares - One Mile at a Time

それによると料金は Flex運賃と同じ。ステータスマイルと特典マイルは20%増という具合です。

 植樹と SAF 購入にいくつかの組合せオプションがあり、10€ で 1 xp で 1,780 € も SAF が購入できてしまう AF-KLM の新システムと比べると、

・シンプル

・控えめ

です。

 

欧州他社も二酸化炭素排出削減は緊急性の高い課題です。AF-KLM、Lufthansa に追従せざる得ないことでしょう。ただこの2社を見ても内容に大きな差があり、利用者から見た相場の形成は先になりそうです。

 

日本では欧州ほどには二酸化炭素排出削減の運動は先鋭化していませんが、日系2社もすでに費用負担に関して検討しているはずです。ユニークな方法を見せてくれると期待しています。