PECHEDENFERのブログ

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オプションタウンの謎:ベトナム航空の場合

過去の記事の中で、オプションタウン(OT)に関してアクセスが多く、全体の30 ~ 40%で推移しています。他の記事も読んで頂けるとうれしいという本音は横に置いて、OTには私も大きな関心があります。仕組みが今一つわからないからです。

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OTを使うと、予約を持っている客は、その予約に含まれないサービスを低価格にて「買う」ことができます。

 

日本就航会社では、アエロメヒコ(AM)、ベトナム航空(VN)、スカンジナビア航空(SK)、エアアジア(AK)などがOTの「パートナー」ですが、私はVNで利用した経験しかありません。

 

VNに関しては、現在アップグレード・トラベル・オプション (UTo)のみのようです。エコノミーの予約をした客は事前に料金を支払い、「空きがあれば」ビジネスクラスで旅行でき、「空きが無ければ」返金、元の予約のまま搭乗します。OTのルールでは、出発の4時間前までに電子メールで通知があります。

 

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これは「ビジネスクラスのサービスの一部を提供すること」になるのですが、誰に提供できるかに関しては、複雑な調整を行っているとされています。今、明記されている規則以外は決して公開されないでしょう。しかし、航空会社がどう席を埋めるかを理解し、客席がどの程度空いているか観察して照合してみると、少し傾向がつかめるのではないかと思います。

 

UToでは、アップグレード後の搭乗キャビンは保証されますが、付帯サービスは航空会社により異なります。(明記)

 

VNの場合、以下の二点が明記されています。

Ground service priorities, free baggage, Business Lounge… are excluded. Passengers upgraded to Business Class are offered boarding priority.

(地上の優先サービス、追加荷物、ラウンジは含まれない。優先搭乗は含まれる。)

Golden Lotus Plus (GLP) members travelling on Business Class/Deluxe Economy Class by using Upgrade Travel Option (UTo) program of Option Town can only earn miles with the initial purchased ticket according to GLP regulations.

(ゴールデンロータスプラス会員が得るマイルは、購入した航空券に対するマイル。)

 

VNでは、UToの可否は出発の12時間前までに通知されます。

 

さて、次の様な点に疑問が出てきます。

1.オブションの販売価格

2.アップグレードに含まれるサービスの実際

3.OTへの座席の割り当て

4.元の予約サブクラスによる違い

5.GLP会員、GLP上級会員の優先権

6.OTの多頻度ユーザーの優先権

7.アップグレードされる確率

8.同伴者がいる場合の扱い

9.オプションの払い戻し

10.アップグレードされた便が運休あるいは変更された場合の取扱い

11. インボラアップグレードとの関係

 

航空会社とOTの双方に利益があるという原則から考えると、いくつか仮説が立てられます。以下で(仮説)と書きます。その他に私が経験したことを(経験)と書きます。HAN-BKKと、BKK-SGN+SGN-NRTの3便でUToを申込み、最後のSGN-NRT便はアップグレードされなかった例です。

 

1.オプションの販売価格は25%からだそうですが、これは、エコノミーとビジネスのチケットの料金差を基準にしているようです。私の場合、GW後半でしたが、およそ50%でした。(経験)

 

2.アップグレードの通知が来たら、そのクラスのチェックインカウンターが使えます。(明記。通知が無くてもビジネスのカウンターで確認した方が良く、ついでにチェックインを行ってくれます。これはずるいことではありません。)食事を含めたキャビンサービスはビジネスクラスと同じでした。(経験)荷物は通しで預けましたが、優先扱いのタグが付き、これはそのまま成田のターンテーブルでも優先扱いでした。(経験)ラウンジは明記されているとおり、利用できません。(経験)フライングブルーにマイルを積算した記録では、予約クラスがJに変わっていました。(経験)優先搭乗はありました。(経験)

 VNによると、受託手荷物の優先扱いはしないはずです。しかし、一般に優先タグをつける判断を末端の地上係員が行っている現状を考えれば、タグが付いても不思議はありません。ミスかも知れませんし、サービスかも知れません。

 なおOTとは関係なく、乗継便に荷物を通しで預ける場合、前の便が優先扱いだと、よっぽどのことがない限り、通しで優先扱いになるはずです。

 

3.VNは直前まで機材を決めません。これは直前まで大きな座席調整があることを意味します。したがって旅行代理店への席の放出と同様に考えれば良いのではないかと思います。実際には、出発日が近くなってから(7日ぐらい?)席を放出していると思います。(仮説)

 

4.元の予約サブクラスが高い利用者は、すでに高い金をVNに払っています。一方OTは割り当てられた席をなるべく高く売りたいはずです。客に売ったオプション代金がOTの懐に入るなら、予約サブクラスは関係なくOTの提示料金が決まるはずです。客に売ったオプション代金をOTとVNで分けるなら、元の予約サブクラスに応じてオプションの料金を決める必要があります。たぶん後者のようになっていて、提示料金に傾斜があるのではないかと思います。(仮説)VNとしては「常にビジネスが空いている便を狙って、最低予約クラス+OTで予約するビジネスマンが増える」事態は避けないといけません。

 そもそも、予約サブクラスが低い客は節約志向が強く、サブクラスが高い連中をターゲットにしなくては、オプションを売りさばけないでしょう。

 

5.GLP会員によるOTの利用に関して、VNは何も言っていません。たぶん優先扱いは無いのではないでしょうか。(仮説)

 

6.More you sign-up for UTo, higher are your chances to get an upgrade.(より使うほどアップグレードの機会が増える)とOTは宣伝していますが、これは単純な比例計算の話をしているようです。頻繁に使うからと言って、優先順位は変わらないでしょう。すると優先されるのは、元の予約サブクラスが高い者ではないでしょうか。(仮説)ただし将来は違ってくるかも知れません。OTの会員制度もあるので、過去の利用実績が反映されるようになるかもしれません。

 

7.ビジネスクラスが空いている便が確率が高くなります。

 航空会社は一つの便からなるべく金を集めたいわけです。全て自分で調整するとコストがかかるので、OTに委託しているわけです。ただし、どの割合までOTに任せるのかは変動しそうです。(仮説)私がアップグレードされた2便のビジネスクラスは4分の1も埋まっていませんでした。(経験)

 世界的にはVNは小さな会社ですが、日本では存在感があります。これは日本便ではビジネスもエコノミーも混むことを意味します。一方、政治的、地勢的な理由で維持されていると思われる路線もあります。そのような路線の利用でアップグレードの可能性が高そうです。

 

8.同伴者もOTに申込みがある場合、アップグレードは同伴者ともに行われます。(明記)

 

9.オプションの払い戻しは不可。(明記)UToが通らない場合は、5日以内に返金されます。(明記)私の場合は3日で返金されました。(経験)

 

10. これがやっかいで、

If your flight is canceled or changed after you are upgraded, normal airline policies shall apply and you should contact your airline for all such questions. UTo Sign-up price and Upgrade price are non-refundable.

(運休・変更された場合、航空会社の規則が当てはめられることになっているので、すべて航空会社に照会すべし。OTからの返金はない。)

と明記されています。航空会社次第ということです。すぐ後の変更便のビジネスに空きがなければ、返金無し+アップグレード無しになるでしょう。空きがある便が数日先だったら、ホテル代の補償は無いでしょう。(仮説)OTはイレギュラーな乗り方であり、変更に弱いことで可能になった低料金です。利用客は理解する必要があります。低価格で高いサービスを利用する場合、OTとは関係なく、どんな会社でも起こりえます。

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               ビジネスと言ってもこんなモノですが....。

 

11.ごく一般的に考えると、エコノミーがオーバーブッキング、ビジネスが空いている時は、OT利用者がGLP上級会員などに優先してアップグレードを受けるはずです。航空会社は予約席の移動という無理(involuntary)を客に依頼するより、席の移動に喜んで(voluntary)お金を払う人を優先します。involuntary upgradeが少ないのはFFP会員としてはガッカリですが、航空会社としては健全です。しかし出発12時間前を切ってから、オーバーブッキングとかノーショウの調整がある時は、GLP上級会員や高い予約クラスの購入客が対象になるでしょう。(仮説)

 

知識が蓄積するとOTも使いやすくなるはずです。こうして整理してみると、まだまだ事実より推論が多いので、経験を増やさないといけません。

オプションタウンの謎:いったい何者?

Optiontown (OT)はTenon & Groove, LLCというアメリカの会社が運営しています。個人客相手の旅行業者というより、航空会社が顧客だと考えた方が良さそうな業態です。業務は、言ってみれば「航空会社の余剰サービスの分解と切売り」です。この会社の新しい点は、企業コンサルタントか、せいぜい商品販売プログラムの開発業者のような存在が、個々の乗客とのインターフェイスになって、サービスの販売にまで踏み込んでいる事だろうと思います。

 

OTの自己紹介を読むと、使われている用語がまるで投資ファンドの宣伝のようです。

http://www.optiontown.com/jsp/MTP/MTP_About_Us.jsp

 

航空会社の商品は「様々なサービスのセット」です。旅客と荷物を「運ぶ」という単純なサービスに、次第に付加サービスが加わった結果、現在はかなり肥大したセットとなっています。ビジネスクラスというカテゴリー自体、割引運賃を作った後、正規運賃との差が次第に広がり、正規運賃を払った人への差別化されたサービスとして生まれています。

 

さて航空運送事業では、コストの大部分(ざっくり言って60%)が固定費であること、商品在庫が存在しないことの2つの特徴が際立っています。在庫が存在しない=座席は指定された時間にしか存在しないので、売れ残りを別の機会に売るということが不可能。この2つの特徴から、航空機を含む設備や人的資源を常時フルに活用することが経営上極めて大切になります。搭乗率が業績の指標となっているのはこのためです。

 

ここからがOTの基本となるところです。

 航空会社の提供するサービスを要素に分解すると、非常に種類が多いことがわかります。例えば、ビジネスクラスにしても、人と荷を安全に運ぶと言うこと以外に、

座席、飲食、トイレ、毛布や枕、アメニティ、雑誌・新聞

優先チェックイン、優先レーン、優先搭乗、荷の超過、荷の優先扱い、ラウンジ利用

付加マイレージ

などがエコノミーのサービスに加わったり、上質になっている要素です。もっと細かく分けることも可能です。OTの考え方では、航空会社のサービスの単位は、供給する座席ではなく、これらのサービス要素です。サービス要素を機動的に販売することにより、収入を増やすことが可能です。

 

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もちろんビジネスクラスの毛布利用を販売しても、エコノミーの客は買いません。商品の魅力、客の支払意志といった消費行動の分析から、サービス要素を再構成してセットにし、適正な価格で販売する必要があります。かなりのリサーチと特殊な計算のノウハウが必要とされそうです。

 

普通だったら、航空会社相手の業種になりそうなものですが、ビジネスモデルが革新的だったのか、航空会社と個人客との間に立って、直接金を扱う事業にしています。

 

ビジネスクラス(やファーストクラス)のサービスは巨大化した恐竜のような存在です。サービスをばら売り、あるいは再構成後セット販売して、利益を最適化するという考え方は、企業買収、事業再編、事業の切売りに似ています。

 

航空会社としては、OTへの委託費用が合理的なら、売れ残ったサービスと余力の全てを任せて、収益を最適化してもらうのが、四半期の数字を上げるためには効果的でしょう。しかしながら、これは経営者にとって麻薬のようなもので、価格の決定権や、事業の自由度を著しく下げてしまいます。最終的には、大した元手なしにOTが会社の事業を管理、自分たちは下働きという状態になることは容易に想像できます。

 

ベトナム航空で、ビジネスクラスの座席数に相当余裕があっても、OTで販売されるUToは僅かなのは、全く不思議ありません。そもそも体力のある大手はOTを使っていません。自分たちでサービスの再構成を行う力があると思っているはずです。OTほどラジカルにはできませんが、工夫は表れています。

ビジネス空席へのアップグレードをオークションで販売するキャセイパシフックの試みは、まさにUToに匹敵します。また、より多額の支払いを行った人を上級会員(さまざまなサービス要素の受容者)にするデルタのFFPの変更も、広い意味では同様のサービス改革でしょう。

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航空会社はOTの支配を避けたいので、対象座席を絞るでしょう。アップグレードは高頻度では起きそうにありません。私の経験もそれを裏付けますが、16席の容量で、1件か2件ではないでしょうか。

 

OTのパートナー会社は、様子見、販売の多様性の確保、ノウハウの習得などの動機からOTと契約しているではないかと想像します。

 

ここではベトナム航空に関連するUToを例にしましたが、OTのOption商品は9種類有り、過剰荷物運送の低価格の販売などもあります。運べる荷物が大きく異なると、旅行計画を立てるのに困らないのかと思いますが、需要があるのでしょう。エアアジアでは、6つのOptionを販売していて、複数予約オプション(MBo)とか、フライト選択オプション(PFo)とか、僅かな金額で予約時に複数便を押さえ、期日(前日)までに一つに決めるというオプションも含まれます。ますます金融工学の手練れたちの影がちらつきます。

 

搭乗客としてはサービスの切売りは歓迎できますし、お金の流れも透明なので利用しない手はありません。ただし仕組みをよく理解して、期待しすぎないことが大切なようです。