構成要素の命名
あるシリーズやサイクルを作るなら、その構成要素に名前が必要です。有名な PDCA サイクルを例にして説明します。これは生産などに適用される継続的な改善方法で、P = Plan, D = Do, C = Check, A = Act を意味します。
ここで見逃されがちな特徴を一つ。シリーズやサイクルの構成要素は、同種のものになります。例えば PDCA サイクルの例では、四要素は全て
①単音節、②基本語彙、③動詞原型
であり、最低三つの共通点を持ちます。「XXX(=ある集団)の PDCA サイクル」などとパロディを作る場合、この①~③の共通点を維持すると効果が高くなります。確かに英語の並列では「同種」にこだわる傾向がありますが、この特徴に鈍感な人は日本語能力も含めて言語能力が低いように感じられます。
さて航空会社やホテルなどの会員プログラムでは、利用実績に応じた会員種別を設定、サービスに差をつけます。つまりどのプログラムでも会員種別の命名が必要です。この命名で「でたらめ化」が進行中というのが、この記事で指摘したいこと。
古典的な例
ブリティッシュエアウェイズの Executive Club では、会員種別は以下のようになります。
Blue(平会員) < Bronze < Silver < Gold
です。平会員を除くと、スポーツ大会のメダルと同じ。(貴) 金属シリーズになっています。会員レベルと金属の価値の序列も一致します。キッチリしている一方で、やや退屈。一方で盟友 JAL の Mileage Bank では
名無し(平) < Crystal < Sapphire < Diamond
水晶、碧玉、金剛石ですから、このシリーズは貴石です。会員レベルと石の価値の序列はここでも一致します。JALではこれに並行して Global Club という伝統ある会員組織に Premier という会員種別が存在します。
平 < Ruby < Sapphire < Emerald
となっており、これも貴石のシリーズ。
増える会員種別、足りなくなる名称
会員種別の命名では (貴) 金属に人気がありますが、金・銀・銅では足りないのか、あまりにも古臭いのか、序列の基本は今日、
Bronze < Silver < Gold < Platinum
が普通。金と白金の価格の序列は時々変わりますが、会員種別では Gold < Platinum。
これでも足りなくなったのか、新たに出現した Titanium。これは金属材料ですが、貴金属とは言えません。チタンが加わり、シリーズは貴金属ではなく、金属材料になってしまいました。それならアルミでもステンレスでも良いのですが、とにかくチタン。違いは、新素材のかっこよさぐらい。
例えば ベトナム航空 Lotusmiles では
Silver (ほぼ平) < Titanium < Gold < Platinum
となっています。チタンは銀の10分の1程度の市場価格ですが、会員種別では上になる傾向があります。これは不思議な話。
価格とイメージの逆転も変ですが、金属と石を一緒にしてはいけません。いけない例として ANA に登場願いましょう。彼らの言語感覚がおかしいことはたびたび指摘していますが、会員種別でも ANA は ANA でした。
名無し(平) < Bronze < Platinum < Diamond
ですから、(貴) 金属材料と貴石が混ざっています。これは デルタ航空もやっていて、
名無し(平) < Silver < Gold < Platinum < Diamond
です。デルタの場合は、最上位の会員種別を設定するにあたって、白金の上に適当な金属が見つからなかった感じがします。しかしながら貴石を加え、シリーズが糞味噌になっていることは、嘲笑の種にされています。Flyer talkで創造されたパロディの数々は、Googleの画像検索でいくつも見つかります。ある単語での画像検索。
上位17画像の内、6個がパロディです。架空の金属名や実在性が未決着のイオンなどは手の込んだおふざけですが、Ham Sandwich Medallion、Kettle Medaillion なんて無茶苦茶。
同じく白金の上が見つからなくて、苦労したようなアメリカン航空。
名無し(平) < Silver < Gold < Platinum < Platinum Pro < Executive Platinum
白金を使った会員種別が3つもできてしまいました。ちなみにユナイテッド航空では、デルタの愚を避ける努力が感じられます。
名無し(平) < Silver < Gold < Platinum < 1 K
最上位は数字になってしまいました。一線を画するという感覚を与えますが、考えようによってはデルタ航空よりひどい混在かもしれません。ちなみにキャセイは、ANAやデルタと同じ貴金属ー貴石混合型です。
最初から原則を外した疑いが濃い ANA は別にして、会員種別が多くなり、名称が足りなくなる時に問題が起きるようです。
カオスの極み
しかし最近、ANAなど全く問題にならないチャンピオンが登場しました。Marriott BONVOYです。Marriott は、招待制の会員種別を設けると発表しました。その名称は Cobalt。彼らの会員種別をあたらめて整理すると
平 < Silver < Gold < Platinum < Titanium < Ambassador < Cobalt
となります。まさにカオスの極み。
貴金属の序列、銀・金・白金では足りなくなったので、チタンを加えて、得体の知れない金属材料シリーズに変質。よせば良いのに、その上に加えた新会員種別は、大使。脈絡なく、国家レベルの役職名が登場します。今回加わるのは、金属は金属ですが、材料・素材というより元素。物質系に限ってみても、具象を抽象に変えてしまいました。このカオス、もはや形容する言葉が見つかりません。
松竹梅のように、日本にも序列を表す時、利用されるシリーズがあります。ここで BONVOY のカオスに匹敵する序列を日本の伝統に沿ってつくるなら、例えば
平 < 梅 < 竹 < 松 < 杉 < 右大臣 < 白檀
のようになるでしょう。ゴタゴタ感は半端ではないことが分かっていただけると思います。
Marriottの場合、史上最大規模の会員プログラム統合という特殊事情がありました。そのため、名称が無茶苦茶になったと大目に見ることもできます。BONVOY は少し走らせてみて、資格要件や会員特典を調整するような気がします。その時に会員種別は再命名され、すっきりするだろうと思います。
個人的には
原則を外さず、独自性にあふれる命名に心惹かれます。例えば World of Hyatt の
平 < Discoverist < Explorist < Globalist
は、会員の経験の厚みや利用の頻度をわかりやすく象徴的に表しており、好感が持てます。会員を金物や石ころで表象するより、ずっと良いと思います。