PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

ルフトハンザが旅客便運用をやめた齢 83 歳の機材

機内誌に見る意外な機材

ルフトハンザ航空の機内誌を見て、気になったことがある人が多いと思います。保有機材のページです。2018年12月号でも見られました。

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右下に掲載される小さな機材。この図は、相対的な機体サイズを保って描かれているはずです。CRJ900 や Embraer 190 と比べるとその小ささが際立ちます。隣のページのデータを見ると、旅客定員16人。これぞルフトハンザの懐の深さを表していた Junkers Ju 52, D-AQUIです。

 

簡単ないきさつ

Junkers Ju 52 は1930年初飛行、1932年より運用開始とあります。合計 4845 機製造されたそうですが、もともと輸送用、爆撃用に設計された飛行機。D-AQUI は1936年製造で、第二次世界大戦を生き抜いてきた訳です。ルフトハンザは 1984 年に購入、1年以上かけて Hamburg でレストアしました。言葉本来の意味で前時代の遺物ですが、客寄せパンダ役であると共に企業の誇りを担っていました。この Oldtimer* で実際に定期運航(ただし季節運航)しているのですから、驚きます。博物館の静態展示より2段階以上**大変なはずです。

 

*クラシックカー、ヴィンテージカーをドイツ語でこう言います。車のみならず、飛行機でも使います。Handyと同様、ドイツ人が英語だとたまに勘違いしている独製英語。英語にも oldtimer はありますが、用法が違います。

**:素人考えですが、静態展示と定期運航の間には、イベントでデモ飛行するために維持、イベントで一般客を乗せて遊覧飛行するために維持の2段階が入りそうです。

 

残念ながらルフトハンザは、財政的にもはや維持できないと、2019年 1月に定期旅客運航を取りやめると発表しました。年間百万€費やして維持していたそうですから、昨今の状況では大変かもしれません。

Lufthansa ends Ju 52 passenger flights

 

München ベースの機材だったようですが、4月に Hamburg に移されました。そこはルフトハンザの整備拠点であり、35年前この D-AQUI が購入後、レストアされた場所です。

Mit Video: Die letzte Reise der Lufthansa Junkers Ju 52 D-AQUI | Austrian Wings

この記事はビデオ付き。バックグランドミュージックがこの機体に対する哀惜の思いを伝えてくれます。少々重苦しい気がしますが、現地の感傷は尊重しないといけません。"Tante Ju"(Juおばさん)という愛称のためか、Die letzte Reise der alten Dame (老婦人最後の旅)なんて書かれていますが、機体整備工場を終の住処にするのは良いアイディアでありません。事実ルフトハンザは展示に相応しい博物館を探す間、ハンガーに保管する意向でした。

 

いろいろなレベルで再飛翔の期待はくすぶっているようですが、現在のところこれといったニュースが見つかりません。

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その影響

たとえ工業製品だったとしても、古い時代に抱くノスタルジーが大きなエネルギーに変換されるのがヨーロッパ。ドイツ (語圏) やイングランドでは、特にその傾向が強いように思われます。

 商魂たくましい限りですが、古い飛行機を題材にした腕時計が多いことは良く知られます。有名どころでは Breitling。1950年代にパイロットが利用したシステムを象徴する Navitimer、1930年代のコクピット計器製造部の名に由来する Aviator などがそうです。英国の高級腕時計製造会社 Bremont も Concorde がモチーフの限定モデル Supersonic を(運用者であった British Airways の百周年以外にこのタイミングで製品化する理由が見つかりませんが、)世に送り出しました。

 

Junkers Ju 52 も腕時計のモデルになっています。製造するのは Junkers の名称使用ライセンスを得ている POINT tec。

PointTec

POINT tecは 1987 年に設立された独立系の小さな会社です。Junkersの他、Zeppelinのマークでも腕時計を作っています。それほど高価格ではありません。もしこのブログでこれらの時計を宣伝するなら、

「低価格帯から製品があり、機内販売でも時々扱われます。航空旅行が好きな方なら、こういう時計を腕に巻いて搭乗するのも一興かと。」

ぐらいになります。

 

ルフトハンザの D-AQUI が完全引退したら、Ju52、Cockpit Ju52、Tante Ju の3シリーズ6製品は廃版になるかもしれません。それどころか、Junkersブランドの威光にも陰りが出るのではないでしょうか。

 他にも運用している航空会社はあるものの、ルフトハンザほどの暖簾は持ちません。

 

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D-AQUI の顛末が与える影響は、妙な所まで及ぶ気がします。POINTtec は Ju 52 がフェードアウトしそうだからと言って、さらに有名な Ju 87 の名を冠したモデルを出す訳にもいかないでしょう。Ju 87は Die Luftwaffe を代表する急降下爆撃機。モデルができても、それを腕に巻いて東欧、ロシアの地を踏むには勇気が必要です。柳の下にまだドジョウはいるでしょうか。