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ワインスクール代わりの飛行機(その8):マレーシア航空ビジネスクラスの復習

たまの贅沢は、やりたくなるもの。その質が、日常の質より良いことが贅沢の特徴。いつも輸入牛バラ肉だけれど神戸牛サーロインステーキを注文したり、いつもバスで移動する成田空港にヘリコプターで移動したりと、だいたい贅沢なんてそんなものかと思います。アークヒルズからのヘリ便は廃止されたようですが...。

 こういうケースはわかりやすいのですが、ある人によっては大きな違い、別の人によっては無視される違いも多いのです。例えばシンガポール航空の旧型ビジネスクラスキャビンのシートの革。丁寧な仕上げで、良い肌触りなのですが、リクライニングしかしない古いシートということで、十把一絡げにキャビン自体を軽く見る人が多いようです。これはSQ側も危惧しているようで、ビデオなんか作っています。他社でもできるシートの更新ではなく、ウチはもっと基本的な部分で高級(で、金持ちであるSQの客なら気に入るはず)と箔付けに躍起です。

 不思議なことに一方で、「高級」なのに価値が理解できず、無教養、無作法、価値の分からぬ者と見られることを恐れる人が多いようです。こんなことは自信がないために起こる劣等感のようなものですが、男性に多そうです。

 

なぜこんなことを言いだしたかというと、ワインには「高級」が満ち溢れ、差が分かりにくいなどと、この感覚を引き起こしやすいからです。そしてたちの悪いことに、この感覚に囚われるとワインに近づけません。

 「ワインリストが読めない自分」には、問題ないのです。その自分が他人にどう映るか気になることが問題です。日常的に飲むとか、ハマっている人なら、たまたま出会ったワインを気に入り、それを入口に世界を広げるというプロセスを必ず経験しています。自分がどう見えるかという恐れがあるうちは、この「気に入る」きっかけを逃してしまいます。安酒を気に入っているかもしれない...高級な味は分からないかもしれない...なんて心配が付きまとうのですね。そしてワインは自分をネガティブに見せる小道具のまま。悪循環です。

 その日の小遣いが1,000円しかなければ1,000円なりの、100万円あれば100万円なりの楽しみ方を知る人なら、そういう話からは無縁でしょう(が、これって遊び上手の条件ですね)。こういう精神の自由さが必要です。

 

ビジネスクラスのワインは、個性で選ばれる最低レベルにあります。ここで飲んだワインが気に入ったため、類似ワインを探して機内体験と比べてしまったならば、ワインの世界の彷徨はすでに始まっています。簡単なのですね。機内での選択肢は多くないので、どれを選んでも他人の目を気にする必要ないし、落ち着いて味わえます。メモをとっても変ではありません。

 ワインにまつわる心配の軛(くびき)から解放されるという点でも、ビジネスクラスは良い場所。これからワインに詳しくなりたい人にも、良い機会を提供しています。

 

さて、マレーシア航空(MH)のビジネスクラスのワインリストは

泡:Champagne(産地)、Philipponnat, Brut Royal Réserve(ワイン名・生産者)

白1:Pouilly-Fumé(産地)、Domaine de Minet(生産者)

白2:Bourgogne(産地)、Olivier Leflaive(生産者)

赤1:Haut-Médoc(産地)、Château d'Arche(ワイン名・生産者)

赤2:Crozes-Hermitage(産地)、E. Guigal(生産者)

でした。薄字はワインを指定するのに必要ない情報です。

 

生産地、ブドウ品種、生産者の3要素のうち、一つだけを変えたワインを探してテースティングするのが復習にぴったり。今回もこの方針を踏襲します。

 

まず白2の生産者Olivier Leflaiveのワインは、現在Enotecaが輸入しているため、都内のあちこちで入手できます。完全に私見ですが、どれをとっても上質なBourgogneの白で信頼がおけます。今回選んだのはこれ。

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表示された生産地と生産者は同じ、ブドウ品種が違います。

 Bourgogneでは、白ワインは普通単一品種からつくられます。メジャーな品種はchardonnayで、aligotéもかなり生産されていますが、pinot blancとsauvignon blancの生産量は少ないと言って構いません。

 MHの機内にあったワインはchardonnay。aligotéより貴品種とされます。またOlivier Leflaiveはchardonnayワインの作り手として有名です。こうしたことから、このワインは格下バージョンと言っても言い過ぎではありませんが、代用品ではありません。現代では、aligotéワインは独自の個性で評価されています。

 

このBourgogne aligoté, Olivier Leflaiveの収穫年は2013です。1,500円ぐらい。色はごく薄い黄金色で、照りが認められます。粘度は高くありません。レモン、八朔、カリンなどからなるアロマはそれほど強くありません。口の中ではまろやかで上品です。この品種らしく酸がしっかり乗っています。Olivier Leflaiveらしい、清潔さを感じるつくり。余韻は長くありません。1時間も経つと、果実味が強くなり、香りの角が取れてきます。さらに経過するとgrasが感じられます。酸っぱいワインが好きな人には、絶対おすすめというワイン。

 

他には赤2の関連ワインが見つかりました。

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同じ生産者の広域ワイン。Côte du Rhône, E. Guigal 2011。価格は1,280円だったと思います。Crozes-Hermitageは村名ですが*、Côte du Rhôneは地域名です。したがってこのワインは(呼称制度の下では)一つ格下になります。いろいろな品種を使って良いのですが、このワインはsyrah, grenache, mourvèdreから造られているようです。

*ただし畑は、この村と隣のTain-l'Hermitageにまたがっています。

 中心部は光を通さない濃い赤。ほとんど紫です。しかし周縁部はガーネット色。足はきれいです。カシスなどの黒い果実、干し肉、スパイスなどの香りが支配的です。口のなかでは鉄かインクの香りもします。grenacheを使ったワインではよくありますが、黒砂糖からつくられた飴を(例えば那智黒)連想させます。タンニンは十分ありますが、丸くなっています。アルコール度は高く、酸は中庸。余韻は長めです。

 私はこういうワインには、草で育てた牛のステーキなどを合わせたいのですが、あまり難しく考える必要はなさそうです。

 

だいたいMHのワインリストは、オーソドックス過ぎ。類似ワインも、見覚えのあるワインになります。機内食もマレー料理を別にすると、フランス料理を基調に考えていたようなので、こういうワインばかりになったのでしょう。しかし機内食にアジア料理が増え、ワインもどんどん変わりそうなので、今後もMHは追跡の必要がありそうです。