「xx様、いつもご利用ありがとうございます。」
常にそうなのかどうか知りませんが、ANAの国際線ビジネスクラスに搭乗すると、最初にこう挨拶されます。先日、私が搭乗した時もこの挨拶はありました。しかしながら、ANAを使わない客に対して、この挨拶は変です。違和感があるというより的外れ。
実はこの挨拶、深刻な問題を孕んでいます。名前を呼ぶことで、サービスをパーソナル化しておいて、その個人との関係を完全に無視しているのですから。無礼さ加減は、「そこに直れ、手打ちにいたす」並み。
挨拶が形式的で心がこもっていないのは、ありふれた事です。しかし、それを表に晒てしまうANAはかなり問題あり。これはマニュアルが原因でしょう。
サービスの差別化では、今日パーソナル化はかなり重要なようですが、キャセイが先頭を走っていて、JALを含むアジアのいくつかの航空会社が続いていると思います。一方、ANAは最初から転んでいるような感じです。
もちろん文句を言う気はさらさらありません。Pechedenferの基準は、面白いかどうか、役に立つかどうかの2点。興味深い点としては、失礼極まりないのにもかかわらず、気が付きにくいこと。そしてANAは相変わらず間が抜けていること。しかしそれ以上に注目する点があります。
この挨拶、使えそうなのです。こういう不整合を持った挨拶には、いろいろな反応が現れます。つまり人を知る上で役立ちます。サービスの提供側も受容側も本性が現れるので要注意ですが、会話のきっかけにもなります。
困った挨拶ですが、返事のパターンを考えてみました。想定するのはPechedenferのように、他会社は人並みに使っているが、ANAやスターアライアンスはほとんど使わない客です。
(返答1)「(反射的に)うむ、よろしく。」
positiveに黙らせる効果。
的外れな挨拶に、どうでもいい返事。加えてオヤジ臭さ全開。これぞニッポンのエアライン。客室乗務員を穏便に追っ払いたい時は有効だと思います。たぶんその後は、標準サービスが展開されると思います。問題は、若い客と女性客にはこのセリフが似つかわしくないことです。そういう場合は、慇懃に立場を上にできる「ご丁寧に挨拶ありがとうございます。」ぐらいが良いと思いますが、第2波が来る可能性が高い気がします。
(返答2)「いつもは利用しておりません。」
negativeに黙らせる効果。
一見客なら本来こう答えるべきでしょうが、ANAでは非典型的な返答のようで、乗務員の顔が引きつります。すぐ適切にフォローできるのが優れた乗務員。間ができてしまうとダメな乗務員です。乗務員のスキルが分かるので面白いのですが、空気が凍り付くのも何ですし、別の返事の方が平和です。
(返答3)「いつもはJALを使っています。」
negativeに次を誘導する効果。
本当か嘘かは別にして、これは面白いかもしれません。(返答2)は拒絶感があるのに対して、こちらは煽り。加えて適度に個性的な返事です。続けて、「すみません。エコノミーでもラウンジが使えたり便利なんで、いつもJALなんですよ。」と、発言を和らげると共に、ライバル会社の上顧客であることをさりげなく伝えることもできます。もしかすると対抗心を燃やして、過剰サービスを提供してくるかもしれません。「(天真爛漫に)青より赤が好きなんです。」は、おバカな理由ですが、乗務員に興味を持ってもらえそうで、こちらも良好。降機時に「今度からは青も選んでくださいね。」ぐらい言ってきたら、仕事熱心な乗務員。
(返答4) 「人違いではありませんか。」
neutralに次を誘導する効果。
「今年初めてですよ。よく見かけるどなたかとお間違えのようです。」などと続くのでしょうが、こう返事する人は潜在的に自意識過剰ですね。しかしこの程度なら正常で、次の展開につながります。「いや、よく俳優のxxxに間違えられるのですよ。」みたいな。もちろんxxxは、鏡を見て無理のない範囲で。
こういう話題は、会話のきっかけになりやすいのですね。しかし「よく伊東信一郎氏に間違えられるのですよ。*」はたぶん沈黙を生みます。「レオナルド熊と間違えられるのですよ。**」なら、乗務員の顔が引きつります。こういうエグい台詞を言っておくと、その後は寄らず触らずで平穏なフライトになるかもしれませんが...。
*:ANA正史参照
**:ANA外伝参照
(返答5) 「初めてです。」
positiveに次を誘導する効果。
YS-11からのファンであろうが、ここ何年かダイヤモンド会員であろうが、搭乗をAMCに結び付けなければ恐らくバレません。ありきたりの嘘ですが、乗務員は本当という可能性は捨てられません。この後、いろいろ世話を焼いてくれるか、逆に手抜きになるか、乗務員の性格や勤勉さによって変わるでしょう。あなた任せに賭けるならこの返答も悪くないと思います。
補足:
・国内線では「xx様、いつもご利用ありがとうございます。」と言われたとしても、間をおかず「お飲み物をお持ちしました。」となるので、こういうお遊びはできません。
・いくら相手が失礼だからと言って、手で「分かっている」みたいな合図を送るだけでは、相手のレベル以下に落ちてしまいます。きちんと挨拶をすることは、生活の基本です。幼稚園で教わりましたね。
・Pechedenferは(返答2)をやってしまいました。まだまだです。