PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

ブログ 10 周年(取り巻く環境の変化)

 

このブログの 1号記事は 2014年3月22日に公開されました。今日はちょうど 10周年。人並みにこの10年を振り返ります。

 

2014年ごろの BA ゴールド会員

10年前、マイレージプログラムが今よりずっと有利だった実例を紹介します。

 東京―ロンドンを格安エコノミー、例えば 13万円 (諸費用込) で往復すると、ゴールド会員の得られる Avios は 18,666。(平会員なら 6,222) JAL 国内線を Avios で特典予約するなら、JAL マイレージバンク会員よりも直前まで予約できて、普通席片道 4,500 Avios。18,666 Avios あれば羽田-長崎や羽田-鹿児島を2往復できました。

 つまり東京のゴールド会員ならロンドン往復すると長崎往復 2回のオマケがつくようなもの。今の世で好まれる言い回しでは、簡単に元が取れました。国内線は片道 2 - 4万円もしましたから。

 

現在ゴールド会員は 1 GBP あたり 9 Avios 獲得。一方で JAL 国内線の片道特典には 7,500 Avios は必要。格安エコノミークラスの羽田-ロンドン往復で30万円を超える航空券を買っても JAL 国内線往復分に届くかどうかという Avios。一方、「ブリティッシュエアウェイズだから、安くてもこんなものだろう」という航空券を買っても片道分+α にはなります。還元率が激減した以上に悲惨なのは、面白さが壊滅したことでしょう。

さらに遡った2000年代は、(BA というわけではなく) 搭乗で得たマイルで、同一キャビンクラス+それ以上の長大路線の特典航空券や上位キャビン+同程度の路線の特典航空券が得られたなどという話は珍しくありませんでした。

 

2000年から2015年がマイレージプログラムの黄金時代?

黄金時代と言っても会員の立場からの話です。

 

世紀の換わり目に次々生まれた航空連合のおかげで、加盟各社の会員プログラムは就航地以外でも通用することになり、会員たちはいろいろな夢を見ることができました。一方で2010年代半ばから拡大した支払金額制は、プログラムの魅力を著しく棄損しました。

 魅力の衰退に加えて会員資格の維持が高価なものになると、旅行回数を減らして都度支払いを増やす方が有利だと考える会員が増えます。その先に予想される結末は、マイレージプログラムは存在が悪である(=マイルの分を値引け、余計なサービスは止めろ)という顧客意識の変化です。当然これは多くの会社が避けたい潮流です。

 

そこで会社は上位キャビンの特典航空券を一定数保証するとか、ライフタイムメンバーシップを用意するとか、会員に見放されないニンジンをぶら下げるのに躍起です。これがここ数年のトレンド。

 

マイレージプログラムの魅力の核は特典航空券ですが、これは席は空で運航しても経費は変わらないのだから、顧客に良い思いをさせるために使うという考えに基づきます。規制・規格で決まる全席を過不足なく売ることが、至上命題かつ達成不可能な業界ならではの特殊アイデアです。アップグレードも同じ。

 情報技術が格段に進歩した現代では、ビジネスクラスやファーストクラスを可能な限り収益に変えることが可能です。会社の立場では無料航空券はエコノミークラスに限定しても問題ないどころか、そちらの方が利益にはプラスです。上位キャビン特典航空券は会員を惹きつけるためのコスト。そして会員に飽きられず延々利用させるニンジンがライフタイムメンバーシップですが、達成者は会社にとって負の遺産です。

 それぞれ利益を圧迫する前に会社が状況改善するのは当然で、これらの特典は利用困難な方向に進化し続ける運命です。BA は特典航空券用シートの数を保証すると共に、そのシート獲得は Avios プログラム限定となりました。Flying Blue は長距離国際便の特典航空券に必要なマイルの幅を10倍にも広げています。席数はそれに応じて変え、「夢を見せる一方で実現は困難」を可能にしています。

 

マイレージプログラムの魅力を保つため会社が努力しているのはわかりますが、全体としての衰退は避けられません。つまらなくなったと手を引く方が増えています。業界が各種規制に縛られ、事業体の実績がサービス利用で評価される時代から、各社とも普通に株主利益を重視する時代に変わりました。古い形のマイレージプログラムの黄金時代が過ぎ去るのは必然でしょう。

このブログの10年はマイレージ衰退期です。この10年で興隆に分類できる潮流は、会員ランクの細分化と、ライフタイムメンバーシップの一般化ぐらいです。

 

マイレージプログラムの変遷

以下は今世紀のマイレージプログラムの変遷に関する印象です。(A), (B), (C), (D), (E) は会員にとって良い変化から悪い変化の順に並べたつもりです。

 

(A) 航空連合加入会社の増大とプログラム通用範囲の拡大

三連合とも 4 ~ 5社で結成しましたが、今はそれぞれ加盟会社 20 社ほど、就航国 170 ~ 190、就航地 1,000 ~ 1,300、一日のフライト 13,000 ~ 19,000 と巨大集団。マイル利用の規模も巨大になりました。ANA スーパーフライヤーズと JAL グローバルクラブの神通力は、世界の隅々にまで及ぶことになりました。

 

(B) 共通化へのブレーキと少数提携への回帰

航空連合では 2015年頃には、加盟と脱退が平衡に近づいていました。一方、連合成立前からの二社間提携は続いています。Air France は古い JAL との提携により自社便に接続する日本国内路線網を活用しています。JALLufthansaドイツ国内線を接続便として販売します。連合外提携を断捨離しないのは彼らの性です。

 そんな一方で提携に新しい流れが二つ起きます。一つはジョイントベンチャー。旅客優遇も自社並みに近づきます。JFKワンワールド便ラウンジ利用は良い例です。もう一つは会員プログラムの分裂(例:Flying Blue)とグループ化(例:Avios 導入)。連合成立で共通化したサービスも今は多層化、複雑化を指向します。

 

(C) 特典-マイルの経済でインフレが進行

マイルは債権です。利用範囲が広がり、獲得方法が増えれば、インフレが起きて額面の価値が下がるのは当然。航空会社は近年、マイレージプログラムを活用した収益増大に熱心ですから、それに沿ってインフレが進行するのは確実です。

 

(D) 利用実績よりも都度払いが重視される傾向

マイレージプログラムはもともと顧客引留めを狙ったカラクリだったはず。それを航空会社は利益を生むプラットフォームに変えました。マイル算定基準を距離から、会社への支払いに変えたことがマイルストーンデルタ航空を高収益体質に改造した Richard Anderson (CEO: 2007 ~ 2016) の歴史的偉業です。

 当然のことながら、拝金主義への傾倒は大衆に不人気。デルタ航空は改悪の象徴として祀られるようになります。マイルに加え、会員資格も支払い重視の傾向が年々強くなっています。一方で航空会社は何にもかも単体商品にし、販売するようになっています。しかも料金設定は精密かつ効果的になりました。割を食らったのは上位会員です。ビジネスクラスでのセット商品、彼らへの特典サービスはバラ売りの対象となり、彼らの特典は制限されるか、召し上げになりました。

 かつて事情に疎い人間には、無料でキャビンアップグレードが降ってくるなんて夢のような話でしたが、今では事情通にも夢になりました。

 

(E) 十羽一絡げにされる集団の中で役立つ会員資格

上位の会員資格があると、同じ航空券を購入してもサービス特典が加わります。特典はよく変更されますが、近年では幾つかの航空会社でエコノミークラスでの細項(座席選択範囲、座席選択時期、座席の追加料金の割引など)が増えています。多数から少額を集める部分=エコノミークラスでの追加サービス料減免を特典にすれば、特典内容のリストは一見豊かになりますが、それらは過去には全員に無料だったもの。しかも下位キャビン内階層を作ることで、上位キャビンとの間のギャップを大きくすることになります。

 直接は利益も経費も発生しない部分でさえ、都度払いの下に会員資格が置かれます。例えば優先搭乗。Air France - KLM 便ではプラチナ会員はビジネスクラス客の後に搭乗が許されます。会員資格による SkyPriority は今や格下。この優先度の階層化に加え、プレミアムサービスのバラ売りも上位会員の特権の価値を下げます。ラウンジ利用も今は購入可能。全体の利便性向上の結果、上位会員の特典はエコノミークラス内で意味を持つものばかりになる一方で個々の特典は個別購入可能が進行します。

 すっかり会員資格がつまらなくなった Flying Blue ですが、他 FFP の未来が無事である保証はありません。むしろ楽観できません。