PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

JAL の運航

 

いいことを思い出させてくれた平子社長

ロシアを迂回するための北極ルートを眺めて以来、もやもやしていたのですが、原因が分かりました。キュン!の ANA、平子社長の ETOPS 180 に関する発言がきっかけです。

ANA平子社長「南回りが一番有力」モスクワ就航は需要注視

この「着陸可能な空港へ規定時間以内に到達できる空域のみ飛行できる」という規制、エンジン故障時の安全な着陸が念頭にあります。四発機では一つ故障しても大きな影響はありませんが、双発機ではエンジンが一つ停止すると大問題。歴史的にも双発機を対象に導入された規制だったようです。

 アンカレッジ経由の北回り航路が華やかだった頃、長距離用機材は三発か四発でした。今の主力は双発機。大型旅客機が離着陸できる滑走路を持つ空港は、北極圏に十分あるのかという問題になります。

 

私の記憶では、双発機の航路制限が一般客に見える形になった事例はハワイ路線。

 日本での B777 のデビューは 1990年半ば。JAL もこの新機材を盛んに宣伝しました。JAL悟空(国際線エコノミークラス正規割引運賃)の導入(1994?)の頃の話です。海外旅行はすでに大衆化しており、JAL は悟空とともにハワイを盛んに売り込んでいました。しかし機材は B777 ではありません。ちょうど良いサイズで、最新機材だから客引きにも有利。しかしホノルル便には使われませんでした。ETOPS の制限です。その後制限が緩和(120 分→180 分?)され、ハワイ便も B777 が主力となりました。

 

しかし話ははるかに複雑

今は戦時下なので、故障時の対応以外にも面倒なことが関係してきます。

 

領空の飛行禁止が意味するところは、緊急時でも領空に進入したら、撃墜される可能性があるということです。(多くは誤認。)着陸後に人質にされる可能性はもっと高くなります。(こちらは意図的。)

 さらに言うと、現在日本とロシア間では飛行禁止になっていませんが、JAL が呑気にシベリア上空を飛んでいたら、戦闘機に誘導されて強制着陸、乗員乗客全員人質というシナリオは不自然ではありません。理由?「国家に有害な人物が搭乗している疑い」で十分です。

 JALANA もすでにロシア上空の飛行は止めています。こういうリスクを重視した結果だと考えられます。

 

ということで、日本がアエロフロートを排除するか否かに関わらず、JALANA の欧州便がロシアを迂回することは確実。 JALANA も撃墜、強制着陸、人質の可能性には言及しませんが、一番の心配事に違いありません。日本政府が(アメリカ政府も)国民に対してロシアからの速やかな出国を要請したのですから、それを受けて判断したのでしょう。

 

このような状況を考えると、西側諸国による北極回りの最短フライトは、それなりにリスクがあります。

 

JAL の選択

面白いのは JAL の欧州便のルート。おそらく定期便の飛行経路としては初めてでしょう。

 何はともあれロンドン便を飛ばすようですが、北極ルートにするとのこと。しかし発表されたのは、アラスカ、グリーンランドアイスランド上空を経てロンドンに向かうという北米沿岸フライト。

 

経路をシミュレートしてみました。こんな風に飛ぶのでしょう。

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この経路では 7,988 マイル。アメリカ大好きな JAL らしいルートです。今月に入って LX や AF が実施した中央アジア回りには何か問題があったのでしょうか。

 

JAL のスケジュールは次の通りです。

3月5日、JL43便 11:30に HND T3発、18:10に LHR T3 到着。

3月7日、JL44便 20:10に LHR T3 発、21:35(+1) に HND T3 到着。

 

機材は B777-300ER(Sky Suite 777)で、飛行時間はロンドン行が15時間40分、羽田行が16時間25分です。時間から逆算すると距離は 8,000 マイル程度になり、だいたいシミュレーションと同じレベル。北極海の沖合は飛行しないのは確かなようです。ETOPS の遵守ですね。

 

1980年代までの花形ルート「北回り航路」では、アンカレッジに寄港してのうどん休憩がありました。一度空港に降りて、うどんをすすって、トイレに寄って、ネクタイを直して、再出発しても欧州への移動にかかる時間は16時間台。距離は LHR でも、 CDG でも、FRA でもだいたい 8,000 マイル。この歴史を考えると、JAL の新ルートも遠いわけではありません。

 ちなみにこの JAL の新ルートでは、カレー供給基地を構える欧州最重要拠点フランクフルト FRA LHR より200 マイルほど遠くなります。中央アジア経由では FRA は LHR より400 マイルほど近くなります。FRA への経路はどうなるでしょうか。そしてカレーの運命は如何に。

 

個人レベルでは

戦時体制がいつまで続くか全く予見できませんが、「北回り」でも「西回り」でも15〜16時間の連続フライトになります。日本からの定期便としては(時間の上で)史上最長でしょう。冬季の JAL のキャビンに16時間も閉じ込められたら、干物になりそうです。

 中継地がある中東3社やトルコ航空の方が、身体にはよい気もします。(TG, SQ, MH, CX はロシア上空を飛び、先行き不透明。SQ についてはロシア迂回の影響は軽微。)中東経由でも LHR まで8,400 マイル、FRA まで8,000 マイルです。乗継で降機が入るので時間は数時間余計にかかりますが、軽く運動できますね。

 

疫病禍は早々に終息しますが、旅行で考慮しなければならないパラメータは膨大になりました。

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