PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

日欧往来の近未来

 

前の2つの記事で断片的に書いたことを数字にして検討してみました。自分が航空券を手配するために資料が欲しかったのです。

 

欧州エリアの特徴(おさらい)

欧州エリアの最大の特徴は、狭い地域に多くの独立国があり、多くの航空会社が存在することでしょう。コロナ前は BA, AF, LH, KL, AZ, SK, AY, IB, OS, LX, LO が日本と間に直行便を運航していました。これに日系 2社が加わります。

 当然のことながら、直行便がある都市の数は限られます。これらの欧州系の会社は日本からの客を本拠地(ハブ空港)まで届けた後、短距離便へ接続して各地へ運んだわけです。

 

戦争による迂回の影響(距離の計算)

今年の 2月以来、①全ての航空会社はウクライナ上空を避けて飛行します。それに加え、ロシアによる措置として、EUの航空会社はロシア領空へ進入できません。世界が動き、欧州各社の「地勢」が大きく変貌しました。数字にすると、多少なりとも精密な話ができます。

 

計算方法は、Great Circle Mapper で羽田から(地理的に)代表的な空港への最短距離を計算します。上記の条件は、EVN を経由、あるいは EVN からさらに KSC を経由させることにより取り込みます。HND-EVN は中央アジアを横断する経路で、ロシア国境すれすれを飛ぶことになります。EVN から KSC を経由するのは、ウクライナ上空の西側への回避であり、これは EVN から北方へ向かう場合に関係します。

 現実のフライトでは気象条件によって経路がかなり変わるので、空港間距離の相互比較ではこの程度の近似で十分でしょう。

 

さて最初は羽田 HND から各空港への最短距離です。経由地なしで計算されています。

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ヘルシンキ HEL の近さが際立ちます。主要目的地になるローマ FCO、パリ CDG、ロンドン LHR が 6,000マイルの距離にあるのに対して、4,800 マイル強。2割少ないのです。このためヘルシンキが東京から欧州各地へのハブとして機能していたことは、皆さんもご存じの通り。この地の利を得て、フィンエアーは欧州と東~東南アジア間の輸送で高い競争力を保っていました。

 

上記の条件を加えて計算した羽田から各空港までの距離は、以下の通り。

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ヘルシンキコペンハーゲン CPH は、中央アジア北側に沿って来た後(HND-EVNの後)、ウクライナ上空を避けるためにも迂回する(KSC 経由で計算する)必要があります。

 羽田からヘルシンキまでの距離は、ロンドン、パリとほとんど同じになりました。ヘルシンキに用事がある人は、パリやロンドンに用事がある人に比べると 2桁小さいはずです。フィンエアーを積極的に利用する理由を見つけるのは困難です。

 主要都市の中ではローマが相対的に近くなります。南に位置するため、ロシアの迂回がわずかなのです。新会社 ITA は 4月 1日に羽田就航予定。良いスタートになりそうです。

伊ITAエアウェイズ、羽田4月就航へ 1日1往復

南西に位置するマドリッド MAD もロシア迂回の影響が小さく、他社との差を縮めます。

 

フィンエアーはロシア領空閉鎖で重大な影響を受けると発表しましたが、ウクライナ上空を迂回しなければならないこともかなり響いています。

フィンエアー、ロシア領空閉鎖で重大な影響を懸念 「アジア便は経済的に持続不可能、競争力もない」 - TRAICY(トライシー)

 

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ロシア、ウクライナを迂回した羽田ーヘルシンキのルート。奥地へ行くような感じ。

 

状況が永続するなら...

上記の棒グラフには、レイキャビック KEF を入れました。定期直行便が無かったアイスランドの首都です。ヘルシンキには及ばないものの、コペンハーゲンと同程度の距離にあり、そもそも東京に近い都市なのです。そしてアイスランドEU 未加盟なので、アイスランド航空はロシア領空を飛ぶことができます。

 レイキャビックは、これまで北米路線のハブとして機能してきました。東方~東南方へのハブがヘルシンキなら、西方へのハブはロンドン、ダブリン、レイキャビックなのです。EU 各社がウクライナとロシアの空を飛べないなら、アイスランド航空はフィンエアーに変わって、北東アジアへのハブも手に入れることができます。羽田線を開設する意味も十分あるのです。KEF からウクライナ上空を経由しなればならない主要都市がないこともハブ化に好都合。

 

有利になる会社、不利になる会社

今のところ JALANA は、ロシア領空をこれまでどおり通過でき、欧州各社に対して大きなアドバンテージを持つことになりました。ただし将来はロシアの状況次第です。

 中東3社とトルコ航空の東京路線は、ほとんど影響を受けません。ウクライナ回避も限定的です。そして日本では欧州への足として今まで認知されていたので、この4社は相対的に浮揚するはずです。

 

北東アジアから欧州への乗継ぎ需要を狙える SQ, TG, CX, MH などのアジア系航空会社もロシア領空が進入禁止になるとは思えません。しかし SIN, BKK, HKG, KUL 等を経由すると時間がかかることから、今まで利用者は多くありませんでした。したがって、戦争の影響は限定的になるでしょう。

 

大打撃になるのは、上記の通りフィンエアーSAS も他社よりだいぶ不便になります。その他の EU の会社の競争力には、あまり影響がない気がします。多少距離が伸びても、中東回りより早いので結局使われることでしょう。特にローマ便は 8%距離が延びるだけで、ほとんど以前と変わりません。ITA は欧州各社との競争で、かなり有利になります。ローマは日系の直行便がなく、その点も幸運です。

 

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HND-HELの now and then。図示すると遠回りがよくわかります。

 

補足

(1) ベーリング海峡北極海経由も同様に OME 経由(この場合、極東ロシアをかすめるので短めの見積もり)で計算してみましたが、ほとんどの場合、距離は EVN 経由より相当長くなります。HND-OME-HEL は HND-EVN-KSC-HEL よりわずかに(240 miles)短くなりましたが、あまり意味を持たない違いです。

 

(2) 陸上の 7,000マイルは、現代の機材の性能をもってすれば経由地は不要です。エールフランスが BUD 経由にしたのは、人員のやりくりのためだと思います。

成田発パリ行きのエールフランス機、ブダペスト経由で運航 - TRAICY(トライシー)

 

(3) アメリカも UK、EU、カナダに続き、ロシア航空機の領空への進入を禁止することになりました。

Biden says U.S. to ban Russian flights from American airspace | Reuters

ロシアは報復措置で対応するはずです。一方で日本は英欧加米に追随することでしょう。するとやはり報復措置で JALANA はロシア上空を飛べなくなり、EU の航空会社と同じ状況に陥ります。

 

(4) Pechedenfer の場合、欧州に行く時は価格、日程、FFP、ネタの質を考えて航空券を選択しますが、今年に入って条件が激変した上、予約から搭乗までの間にも状況は変わります。上記のデータは使えそうですが、博打の要素は排除できません。