傾いた経営
COVID 中に経営が傾き、労使交渉がまとまらず、破綻した大手航空会社にスカンジナビア航空(Scandinavian Airlines System, SAS)があります。チャプター11の適用が2022年の7月頃でした。SAS はデンマーク、スウェーデン、ノルウェイの3国にまたがる名門会社。冷戦時代、アンカレッジ給油の Polar Route を開拓したのはこの会社。日本では「北回り」と呼ばれていました。
破綻後の SAS は LCC になるとか、北欧のみの地域航空会社になるなどの極端な変化はなくても、資本の注入や経営の「抜本的改革」は必要だろうと思っていました。
しばらくその動きを聞くことがなかったのですが、本日未明に驚きのニュースが入りました。
驚きの発表
エールフランス-KLM が資本参加、20%ものシェアホルダーになるという内容が発表されました。持ち分は多い順に Castlelake Investment Fund 32%、デンマーク政府 25.8%、Air France-KLM 19.9%、Lind Invest 8.6%になるとのことです。
Air France-KLM Takes Surprise Stake In Scandinavian Airline SAS
さらに利用者に直接関係するところで、
という重大発表がありました。
COVID 以降、初の連合間大型移動です。スカイチーム内で SAS は通常メンバーとして迎えられるはずですが、非常に気になるのは顧客プログラム EuroBonus。私はプログラムは持続し、近い内に LH, AF, BA などと同様の欧州型プログラムなるだろうと予想しています。つまり特典に交換するマイルは航空券購入金額を基準に計算され、上級会員資格はキャビンクラスと飛行距離によって異なるポイントの積算によって量るようになります。
しかし AF-KLM のプログラムをそのまま使うことも考えられないわけではありません。この場合、EuroBonus ライフタイムゴールド会員資格は廃止になると思います。幸い Flying Blue は脱退会社が次々出ているのが現状。あえて SAS が参加するのは考えにくいことです。
日本での SAS は
たとえ EuroBonus が維持されても、日本の顧客には少なからず影響があります。予想される変化は以下の通り、
(1) ANA の会員は SAS 搭乗時スターアライアンスゴールドの優待がなくなる。
(2) Flying Blue の Silver 以上の会員は SAS 搭乗時に優待がある
(3) SAS, AF, KLM は極東路線で JV を行う
(4) SAS, Delta, AF, KLM, Virgin Atlantic は大西洋路線で JV を行う
COVID 以前、多くの日本人顧客がいた SAS ですが、ANA と (も JAL とも) 提携しなくなるので、そのままだと利用者はずっと少なくなります。ジョイントベンチャーを行わないなら、日本撤退の可能性が高くなります。
NRT-CPH 路線は北欧文化が色濃く反映されるサービスで、そこそこの人気が保たれていました。今後、SAS は話題に上がることが減ることでしょう。しかたありません。
欧州での SAS は
SAS とは別に破綻処理が進行中なのは、イタリアのフラッグキャリア。すでにアリタリアは消え、新会社の ITA が営業していますが、資本がどうなるか片付いていません。おそらくルフトハンザが大きなシェアを握ると考えられます。ドイツ人の南下嗜好が背景にあるためか、昔からルフトハンザはイタリアに路線網を拡げたがっていました。今回の Alitalia-ITA の遷移は大きなチャンスです。満足する結果になれば、スカイチームだった Alitalia-ITA はスターアライアンスへ「移籍」することになります。
一方で、SAS はアリタリア破綻処理の進行具合より話が進んでいて、スターアライアンスからスカイチームへ「移籍」が発表されています。
北欧の諸都市は人口が少なく、 路線網を維持するのは大変なはずです。SAS は就航が重ならない都市を多く持っていたのです。この点は観光地だらけのイタリアとは決定的に異なります。欧州地域における路線網の充実という観点からは、スターアライアンスはマイナス、スカイチームはプラスです。