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ANA BAGGAGE DROP SUITE(前編)

ANAは4月1日、羽田空港新千歳空港福岡空港に設置されている自動手荷物預け機 ANA BAGGAGE DROP を新型に更新、他の空港にも標準設置する計画を明らかにした。

 

新型は一台当たりの面積が4倍以上に拡大、個室仕様だ。もちろん無人チェックインが基本になる。愛称は ANA BAGGAGE DROP SUITEに変わる。同社は機内でシート個室化を進めており、地上でもプライバシー重視、「旅の魅力を高めた」のかと筆者は思ったが、少々浅薄だったようだ。これについては後述する。

 

ANA によると BAGGAGE DROP SUITE の設置は、体重に従量制料金を導入することが目的ということだ。

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羽田空港の旧型自動手荷物預け機。やがて新型に更新される。

 

新料金制度では、旅客体重と手荷物重量にそれぞれ基準を設け、その基準を超過した部分について従量制料金が一律に発生する。

 

旅客の体重超過分と、手荷物の重量超過分に同じ課金レートが適用される

 

のが特徴である。国際線エコノミークラスの場合、航空券に含まれる重量上限は、

 

体重80 kg、預入手荷物23 kgを2つ、機内持込み手荷物10 kg

 

になる。これを超過する体重、預入手荷物に関しては、

 

5 kg までの超過で 30 USD

5 kgを超え、10 kgまでの超過で 60 USD

10 kgを超え、15 kgまでの超過で 90 USD

以後 5 kg毎に 30 USDアップ

 

となる追加料金が発生する。国内線の場合、体重の基準が75 kg、預入手荷物の基準が 20 kg で数は1つ。超過料金レートは国際線の70%となる点が異なる。預入手荷物の重量には従来と同じ上限――手荷物一つ当たり45 kg(国際線)、32 kg(国内線)――が適用される。機内持込み手荷物は 10 kg を超えることはできない。

 体重は着衣にて計測され、上限は設定されない。ひとつのシートに納まらない体形の場合は、別の規則が適用される。なお手荷物の寸法に関する制限は、従来通りである。

 

ANA BAGGAGE DROP SUITE には、先進技術が惜しみなく導入されている。Advanced Selective Sensing (先進的選択検知, ASS) 機能を備えた光学カメラと AutoReflective Scanning Echography (自己反射型走査エコー, ARSE) による深部可視化が、身体、荷物を定量化する「眼」である。無人チェックインのシステムは、世界最大の航空連合スターアライアンスで開発した生体認証規格(注1)に完全準拠する。

 乗客は、装置内で自動音声に従って操作を行う。6台の光学カメラと3台の超音波エコーデバイスによって収集されたデータは AI で処理され、相貌、背恰好に加え、預入手荷物と機内持込手荷物の形態と重量が判別記録される。旅客IDの記録には、NECの顔認証技術が使われる。事前にモバイルアプリでパスポート情報を登録していると、国際線でもパスポート確認は行われない。

 新しいアーム制御技術、Twoway UltraSmart Handling (二法ウルトラスマート処理, TUSH) により、ベルトコンベア上に預入手荷物を移動、アーム内蔵の懸垂秤は手荷物を計量する。機内持込み手荷物も計量した後、旅客はタニタ製体重計で体重測定を行う。ANA BAGGAGE DROP SUITE はそれぞれの重量から料金を算出する。客が追加料金をクレジットカードで支払うと、搭乗券 (データメモ) と荷物引換証が発行される。またはモバイルアプリのアカウントに送信される。預入手荷物には荷物タグが自動装着され、ベルトコンベアで搬送される。

 顔認証データに身体、荷物の形状・重量のデータがリンクされる。搭乗券には出発情報やシート番号の他、手荷物の重量および体重が印字される。なお国内線の場合、アップル社と共同開発したチェックイン用 Siri が使える。このコラボは話題性十分だが、ANA もそれは意識しており、先行して宣伝を始めている。読者諸氏も

 

世界は気づくだろう。ANA あってこその Siri だと。

『よどみない AI の進化。ANA は今春、Siri の ANA に。

 

という謎めいたキャッチフレーズを耳にしたことがあろう。

 さて旅客は保安検査や出国審査、ショッピングなどを済ませた後、搭乗ゲートから搭乗となる。この時は ASS を備えた4台のカメラと1台の ARSE が旅客をチェック、AI が搭乗券発券時に記憶したデータと対照処理を行う。顔認証でエラーが発生する時はもちろん、手荷物や背格好で乖離が著しい時も係員に事情を聞かれる。場合によっては、搭乗拒否や追加料金支払いの対象となる。ゲートで追加料金を払う場合、1件につき手数料 50 USDが必要な超過料金に上乗せされる。

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係員不在のカウンターはすでに増えつつある

 

画期的な料金体系だと評価できるのは、重量オーバーを人、荷で平等に扱う点である。ここで航空旅行の現状を思い起こしてみよう。体重 50 kgのエコノミークラスの旅客がいたとする。預入手荷物の一つが 28 kg あると、数千円の超過料金が課される。その隣に体重150 kgの客がいても、体重に追加料金は発生しない。これが世界中で広く行われている料金徴収の現実である。燃料の消費、二酸化炭素排出という点では、手荷物重量も体重も区別がないのは当然。忌まわしい不平等が放置されている。小柄な乗客に多かっただろう心の叫び

『俺のディスプレイ 5 kgと、そのデブの内臓脂肪 5 kgに何の差がある!』

は、ANAが根絶する。

 

ANAグループ各社では、適当な業務が見つからないベテラン社員を Basic & Ultimate Transfer Training Section (キャリア開発室, BUTTS) に収容、研修を行い、異動を促進している。ANA BAGGAGE DROP SUITE と新料金制度の導入に際しても、BUTTS から大量の社員を放り出し(注2)、トラブル対応に従事させる。

 

彼らの訓練に時間を要したと ANA は明かす。ANA BAGGAGE DROP SUITE は 2つの運転モード ―― Beginner-Oriented Thorough-Training Oversimplified Mode (初心者向けの徹底訓練用チョーかんたんモード, BOTTOM) と Business User Mode (営業モード, BUM) ―― を備える。配置転換を受ける社員は、BOTTOMで 2週間、BUMで半年間研鑽を積むということだ。物覚えが悪いベテラン社員と言えども、訓練期間は異例の長さ。なぜそこまで慎重に事を進めたのか不思議だったが、ANAの説明を聞くと深刻な問題が存在することが理解できた。それは開拓者ならではの困難であった。

 

注1:https://www.ana.co.jp/group/pr/pdf/20190729.pdf

注2:ここ、正しく読み仮名が振れる人がいたら尊敬します。 

 

(4月1日季節の便りは後編に続く)