PECHEDENFERのブログ

Le rayon d'action illimité. D'une véritable ruche bourdonnante.

地名にまつわる罠

 

プーチン・ロシアのウクライナ侵攻以来、すっかり耳についてしまった Liz Truss の決め台詞

"(make または en-) sure Putin fails."

プーチンと聞くと、漠然とした連帯感や正義感と共にこのフレーズが記憶から読み出されます。英語圏で同じような人間が増えていると考えて良く、プーチンを 21 世紀最大の悪者として10 億人以上に印象づけました。英国の外相はやり手です。

 ちなみに仏語ではプーチンは、音を重視して Poutine と表記します。英語や独語の Putin だと、Putain(驚き、怒り、失望、軽蔑などを表す間投詞としてよく使われますが、罵りに使われたり、忌々しさを表したりもする名詞。第一義は売春婦。)と同じ発音になり、下品。仏語話者にはこの音の一致は自明過ぎて、言葉遊びのネタにすら不向き。

 

地名の語彙

プーチンに限りませんが、固有名詞は難しいと思います。ただし海外旅行で遭遇しやすい問題は人名より地名。海外で地名の発音に起因するトラブルに無縁だった個人旅行者はいないのでは?

 

たいていの言語の学習で、国名、国民、言語、国を表す形容詞は代表的な教材です。勉強するわけですね。英文で「ウクライナ」を Ukraina と書く人はいても、「ドイツ」の綴りを考えこむ人は、この日本においてすら少数でしょう。

 実際には言語間での違いは著しく、ドイツ人 (日) ― German (英) ― Allemand (仏) ― Deutscher (独) ― tedesco (伊)  と全く別物。しかし言語習得の初歩で学習して何とか覚えるもの。また出会う頻度が高く、忘れません。そういう背景があり、あまり問題になりません。

 

反対に小さな町の名は、外国語の中では変貌を遂げるほどには使われません。現地語に沿って英語風(あるいは日本語風)に発音するしかないし、それでよいので簡単です。

 

問題を起こすのは、その中間。都市や地方です。例えばラインラント・プファルツ州の州都はマインツですが、

 

Mainz, Rhineland-Palatinate (英)

Mayence, Rhénanie-Palatinat (仏)

Mainz, Rheinland-Pfalz (独)

Magonza, Renania-Palatinato (伊)

 

とかなりややこしいのです。覚えたことがないと、Mayence や Magonza がマインツのことだとは分かりませんね。英語を相手にしても、州名はドイツ語から想像できないでしょう。

 日本の学校教育では、日本語による地理で都市、州、地方の名を習い、英語は別に勉強します。教科間で学習内容がリンクされず、卒業後もそのまま放置する人が多いためにこのレベルで困難が生じるのです。地名は数が多く、覚える時間がないのは分かります。しかしこれらの単語を英語で知る重要性に気づかないのは問題です。(これは日本に限った話ではないので、出羽守ネタにもできます。)

 

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誤ちが生じる原因は多様

Genève を「ジェネバ」とご指導下さった日本の空港地上係員もいました。英語を教えたつもりだったのでしょうが、残念ながら英語の Geneva は「ジェネバ」より、仏語の Genève にはるかに近いのです。欧州で「ジェネバ」なんて発音したら、ジュネーブに行くつもりが Genova に着いてしまうかもしれません。このケースは、単純に英語の能力不足です。

 Pechedenfer も Napoli と言ったつもりが相手には Capri に聞こえたらしく、異なった船に案内されたことがありました。一つ一つの音ではなく、拍の取り方と抑揚が悪かったのです。

 廃港になった Berlin - Tegel 空港は「テーゲル」ではありません。第一音節に強勢を置き、英語っぽく読むとほぼ現地の響きです。ちなみに Ber-lin は独語、英語で第二音節に強勢があり、米語では第一音節を強く発音する人が多いようです。 r は英語で無音(次が子音なので本来の音は脱落し、前の母音が長音や二重母音になる)、仏語、独語、米語で有音です。

 独語では、綴りのカタカナ読みは通じないことが多く、独語に不慣れなら、英語の中で英語で読んだ方がトラブルが少ないと言えます。Köln は通じにくいと聞いたことがあります。Pechedenfer は発音で問題になったことがないので、一般に難しいのかどうか判断できませんが、英語で Cologne と呼んだ方が無難です。ケルンの人は英語名も知っています。

 

このブログを読むような皆さんは、一般に英語が得意だろうと思います。多くの都市名を極端な日本語の影響なしに発音できることでしょう。しかし地理は英語だけで学んだとか、英国にて(+英国人の間で)20年間生きているとかいう人以外は、欧州旅行前には都市、州名、地方名を確認した方が良い気がします。英語のガイドが言う内容も頭に入りやすくなるはずです。


意外と英語は知らないものです。例えば皆さんはマルセイユの英語表記と発音を知っていますか?Pechedenfer はこの例を思いついて即、自分がこの都市の英語名を知らずに生きてきたことに気がつきました。フランス人のガイドだと、英語と米語どちらも使います(=使い分けではなく、ちゃんぽんです)よ。

 

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身近に解決困難な問題も

西欧では観光業の従事者は、必要な地名の英語名や仏語名などはまず知っています。したがって観光客としては、自分の性能向上に努めれば大丈夫。しかし一般人の場合は、かなりの頻度で英語で発音された外国の地名が分かりません。英語を流暢に話せる欧州人でも、有名都市を英語で覚えていないケースが多いのです。仏、独、西、伊など、存在感がある文化を持つ国では、そういうことがよく起きます。北欧の連中についてはそんなことはほとんど無く、歴然とした英語力の差を感じます。(北欧の連中相手でも、New York の異名が Big Apple だというレベルの知識を期待してはいけません。)


コミュニケーションの大きな障壁です。

 

地名の英語が通じない問題に対して、何か有効な策をご存じの方はいらっしゃいますか。Pechedenfer は、英語は~、独語は~、などと偉そうに解説していますが、この問題については様々な呼び方を覚えれば、どれか通じるだろうというメソッドに過ぎないのです。効率が悪すぎ。何か良い解決策はありませんかね。